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終章
8.
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照れた津田がそうはぐらかすと、乾はサッと両手を伸ばしてその脇腹を撫でた。
「少し太った方がいいですよ。津田さん細いから、上に乗るのいつもちょっと心配になります」
「だぁら、朝からそういう話…… 」
「昨日も本当は最後、津田さんに乗ってもらう方がいいかなと思ったんです。でももうなんかそれも無理そうだったんでーー 」
「ちょ、やめろっておまえ…… ぅわっ!」
津田は乾の手を払おうと目線を落とし、そこにいた律に驚いて飛び退いた。
「けんか、らめよ」
託児所でよく聞く台詞なのか、律は寝起きとは思えない滑舌で、大人たちを見上げてたしなめた。
「律…… 」
目覚めた部屋に一人でも、話し声につられて泣かずに起きてきたのだろう。成長が嬉しいと思う反面、乾とくっついているところを見られてドキドキしてしまう。律は冷や汗をかく津田の脚にぎゅっと抱きつき、大きな目で乾を見上げた。
「タツ!いじわゆした、らめよ!」
律の目には、乾が津田に意地悪しているように見えたのか、もしくは彼の中では津田は「悪い方」になり得ないのか。
1メートルも下から正義の眼差しに刺され、素直に「ごめんね」と言った乾に、津田は喉の奥で くくくと笑った。
抱き上げようとして、律が津田のズボンをしげしげと見ているのに気づいた。不思議そうに首を傾げ、布地に触ったり匂いを嗅いだりしている。まさか律が気づくわけがないと思っていたが、明らかに違和感を覚えている様子に苦笑した。子どもの観察眼はあなどれないものだ。
「律、昨日楽しかったなぁ」
津田はしゃがんで律と目線を合わせると、寝癖のついた髪を指で梳いた。
「美味しいもの食べて、いっぱいお姉さんたちに抱っこしてもらっただろ?」
ぽかんとした律も、それで昨日の記憶を取り戻したらしい。嬉しそうに ふへへ、と笑うと、
「いっぱい、かわいーたねぇ」
と上機嫌で呟いた。
「子どもって、本当に女性が好きなんですね。みんなかわいく見えたんでしょうか」
「少し太った方がいいですよ。津田さん細いから、上に乗るのいつもちょっと心配になります」
「だぁら、朝からそういう話…… 」
「昨日も本当は最後、津田さんに乗ってもらう方がいいかなと思ったんです。でももうなんかそれも無理そうだったんでーー 」
「ちょ、やめろっておまえ…… ぅわっ!」
津田は乾の手を払おうと目線を落とし、そこにいた律に驚いて飛び退いた。
「けんか、らめよ」
託児所でよく聞く台詞なのか、律は寝起きとは思えない滑舌で、大人たちを見上げてたしなめた。
「律…… 」
目覚めた部屋に一人でも、話し声につられて泣かずに起きてきたのだろう。成長が嬉しいと思う反面、乾とくっついているところを見られてドキドキしてしまう。律は冷や汗をかく津田の脚にぎゅっと抱きつき、大きな目で乾を見上げた。
「タツ!いじわゆした、らめよ!」
律の目には、乾が津田に意地悪しているように見えたのか、もしくは彼の中では津田は「悪い方」になり得ないのか。
1メートルも下から正義の眼差しに刺され、素直に「ごめんね」と言った乾に、津田は喉の奥で くくくと笑った。
抱き上げようとして、律が津田のズボンをしげしげと見ているのに気づいた。不思議そうに首を傾げ、布地に触ったり匂いを嗅いだりしている。まさか律が気づくわけがないと思っていたが、明らかに違和感を覚えている様子に苦笑した。子どもの観察眼はあなどれないものだ。
「律、昨日楽しかったなぁ」
津田はしゃがんで律と目線を合わせると、寝癖のついた髪を指で梳いた。
「美味しいもの食べて、いっぱいお姉さんたちに抱っこしてもらっただろ?」
ぽかんとした律も、それで昨日の記憶を取り戻したらしい。嬉しそうに ふへへ、と笑うと、
「いっぱい、かわいーたねぇ」
と上機嫌で呟いた。
「子どもって、本当に女性が好きなんですね。みんなかわいく見えたんでしょうか」
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