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春の足音
12.
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店の入り口で数人の社員と鉢合せした様子が、
「かわいいーー!」
「ちっちゃいーー!」
という黄色い声で、奥の個室にいた乾にも伺えた。
律は突然連れてこられた賑やかな場所に戸惑いを見せながらも、津田の膝の上を居場所を定めて一応安心したらしい。
大人が音を立ててグラスを合わせるのが楽しかったのか、自分のオレンジジュースにも乾杯を求められて嬉しかったのか、そのあたりから律は上機嫌になった。今は津田に提供された食事から、好みのものだけをもらって食指を動かしている。
増井は「かぁーわいい!」と言って律の柔らかな頬をつつくと、顔を上げて津田と乾にやる気のこもった目を向けた。
「じゃあ、どんどん聞いちゃいますよぉ!まず定番ですけど、主任と津田さんて、お互いになんて呼び合ってるんですか?」
「主任」
「津田さん、です」
けろりとした津田と苦笑した乾が間髪いれずに答え、回答への期待で静まっていた個室は「えぇーー ?!」という不満と不信の声に包まれた。
「え?それマジですか?ちょ、そんな色気のないことでいいんですか?」
増井も拍子抜けした様子でうろたえている。
「いいんですかって言われてもなぁ…… 」
笑いながらグラスに口をつけた津田は、横目でチラリと乾を見た。
嘘はついていない。だが、少なくとも今年に入ってからは、乾はプライベートで津田に「主任」と呼ばれた覚えはない。病室で「達彦」と呼んでくれたが、それも一度きりだ。たぶん彼は、乾をどう呼んでいいのか迷っているのだろう。
乾も律の前では意識して津田を「ユキさん」と呼ぶようにしているが、二人でいるときには相変わらず苗字で呼んでいた。
「ちょっと、じゃあ他の質問、えっと…… 美馬さぁん、何かありますか?」
「かわいいーー!」
「ちっちゃいーー!」
という黄色い声で、奥の個室にいた乾にも伺えた。
律は突然連れてこられた賑やかな場所に戸惑いを見せながらも、津田の膝の上を居場所を定めて一応安心したらしい。
大人が音を立ててグラスを合わせるのが楽しかったのか、自分のオレンジジュースにも乾杯を求められて嬉しかったのか、そのあたりから律は上機嫌になった。今は津田に提供された食事から、好みのものだけをもらって食指を動かしている。
増井は「かぁーわいい!」と言って律の柔らかな頬をつつくと、顔を上げて津田と乾にやる気のこもった目を向けた。
「じゃあ、どんどん聞いちゃいますよぉ!まず定番ですけど、主任と津田さんて、お互いになんて呼び合ってるんですか?」
「主任」
「津田さん、です」
けろりとした津田と苦笑した乾が間髪いれずに答え、回答への期待で静まっていた個室は「えぇーー ?!」という不満と不信の声に包まれた。
「え?それマジですか?ちょ、そんな色気のないことでいいんですか?」
増井も拍子抜けした様子でうろたえている。
「いいんですかって言われてもなぁ…… 」
笑いながらグラスに口をつけた津田は、横目でチラリと乾を見た。
嘘はついていない。だが、少なくとも今年に入ってからは、乾はプライベートで津田に「主任」と呼ばれた覚えはない。病室で「達彦」と呼んでくれたが、それも一度きりだ。たぶん彼は、乾をどう呼んでいいのか迷っているのだろう。
乾も律の前では意識して津田を「ユキさん」と呼ぶようにしているが、二人でいるときには相変わらず苗字で呼んでいた。
「ちょっと、じゃあ他の質問、えっと…… 美馬さぁん、何かありますか?」
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