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春の足音
3.
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付近にコインパーキングがないらしいので電車で来たが、身の回りのものは持って行けるよう、大きめのバッグを持参している。津田と律の寝室をできるだけこの部屋と同じ雰囲気にした方が、夜中に目覚めた律の不安が柔らぐかもしれない。
「悪いな、相変わらず夜泣きひどくて」
「昼間いい子にしてる反動じゃないですか?俺が様子見に行くと余計に激しくなるから、やっぱり日中は懐いてるフリしてくれてるんだろうと思いますよ」
「そのうち隣近所から苦情が来るかもなぁ」
「子育て世代向けに特化して売り出されてたマンションなんで、たぶん大丈夫ですよ。それにだいたい、誰だって昔は赤ちゃんだったんですから、泣き声に苦情言うのも変な話ですよね」
乾がそう言うと、津田は破顔した直後に目を泳がせ、天井を仰いだ。
「俺も豆腐、食ってるわ…… 」
「はい?」
突然飛び出した豆腐という言葉に、耳を疑う。聞き違えたかと横を見た乾に、津田は苦い顔を向けた。
「いや…… 近所にな、豆腐屋があんだよ。さっきは通らなかった道だけど。いっつも明け方にシャッター開けるから、うるせえなぁって、ずっと思っててさ…… 」
「苦情言ったんたんですか?」
「それはさすがに言わねぇけど。でも、そう思ってたことが悪かったなと思って。あの店で買ったことはないけど、俺も豆腐食うのにさ。考えてみりゃここに引っ越してから、律の泣き声に文句言われたことなんか一回もなかった。こんな壁薄いアパートで、うるさくないはずねぇのに」
「この辺りの人は、もしかしたらその豆腐屋さんのおかげで深夜早朝の騒音に慣れてるのかもしれませんね」
「あーー…… 」
長いため息をついた津田は、体育座りで膝を抱えた腕に頬骨を乗せた。口を尖らせた顔が子どもっぽくて、愛しさを感じる。
不機嫌になったわけではないと、乾には分かっていた。
「悪いな、相変わらず夜泣きひどくて」
「昼間いい子にしてる反動じゃないですか?俺が様子見に行くと余計に激しくなるから、やっぱり日中は懐いてるフリしてくれてるんだろうと思いますよ」
「そのうち隣近所から苦情が来るかもなぁ」
「子育て世代向けに特化して売り出されてたマンションなんで、たぶん大丈夫ですよ。それにだいたい、誰だって昔は赤ちゃんだったんですから、泣き声に苦情言うのも変な話ですよね」
乾がそう言うと、津田は破顔した直後に目を泳がせ、天井を仰いだ。
「俺も豆腐、食ってるわ…… 」
「はい?」
突然飛び出した豆腐という言葉に、耳を疑う。聞き違えたかと横を見た乾に、津田は苦い顔を向けた。
「いや…… 近所にな、豆腐屋があんだよ。さっきは通らなかった道だけど。いっつも明け方にシャッター開けるから、うるせえなぁって、ずっと思っててさ…… 」
「苦情言ったんたんですか?」
「それはさすがに言わねぇけど。でも、そう思ってたことが悪かったなと思って。あの店で買ったことはないけど、俺も豆腐食うのにさ。考えてみりゃここに引っ越してから、律の泣き声に文句言われたことなんか一回もなかった。こんな壁薄いアパートで、うるさくないはずねぇのに」
「この辺りの人は、もしかしたらその豆腐屋さんのおかげで深夜早朝の騒音に慣れてるのかもしれませんね」
「あーー…… 」
長いため息をついた津田は、体育座りで膝を抱えた腕に頬骨を乗せた。口を尖らせた顔が子どもっぽくて、愛しさを感じる。
不機嫌になったわけではないと、乾には分かっていた。
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