ただΩというだけで。

決断

21.

  生まれた時から二人きりで一緒に生活している津田は、律にとっては母親以上の存在なのだろう。敵意を向けられたことにショックを受けつつも、独占欲をむき出しにする律にライバルと認識されたらしいことを、なぜか誇らしくも感じた。

「さて、話を聞かせてもらおうか」

  ゆり子が律を追って洗面所に入ると、佐伯はそう言って乾と津田をリビングに促した。


「番つがいに、なることになりました」

  先ほどと同じ配置でソファに座ると、乾は佐伯にそう報告した。微笑みながら頷いた佐伯の目線につられて隣を見ると、津田は少し口角を上げて睫毛を伏せている。
  はにかむようなその表情に、改めて喜びが胸に湧き上がった。

「安心したよ。年寄りがせっついたせいで拗れたりしないか、これでも心配していたんでね」

  佐伯がそう言ったところで、手を洗った律とゆり子がリビングに入ってきた。ソファに座る津田の膝にまとわりついた律は、ゆり子に呼ばれてすぐに仏間に入っていく。

  お鈴りんを鳴らして手を合わせることの何が幼児の心を捉えるのか乾には分からないが、仏事が子どものうちから生活に馴染んでいる佐伯家の生活を、美しいと思った。

  引き戸の向こうから、
「じゃあおやつにしようか」
  と言うゆり子の声が聞こえ、律の歓声があがる。

「でも、お昼ご飯の前におやつを食べるとユキ君に怒られるかもしれないから、内緒で台所まで行こうね」

  戸一枚ごしに全てが聞こえていることは、幼い律にはまだ分からない。
  内緒で、と言われた律は口を一文字に結び、興奮でらんらんと輝かせた目のまま精一杯のポーカーフェイスでソファの横を通り過ぎ、ゆり子についてリビングを出て行った。

「さすがですね」

  リビングのドアが閉まってから、津田が喉の奥で笑いながら義母を讃えた。