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決断
13.
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過不足なく想いを伝えるということは、なんて難しいのだろう。誤解を与えず、不快にさせない言い方を、家でシミュレーションしてきたというのに。
電話やメッセージではなく顔を見て話したいと思って温めていた言葉も、自分の意図をちゃんと伝えるには力不足だ。
もどかしさを感じていた乾に、津田がポツリと何か呟いた。
「…… え?」
低く短い一言だったので、乾はただ声が聞こえたということしか認識できなかった。
「今なにか、言いました?」
津田が気まずそうに目を逸らす。これは何か大事なことを言ったのだと直感した乾は、追求するよりも黙って待った。
「だから…… 」
たっぷり1分は待たせてから、津田が重い口を開いた。
「はい、って……返事。遅かった…… ?」
その言葉を受けて、乾は脳内にある自分の発言データを高速で遡った。そして津田の「はい」が何を受けての返事なのかに思い当たった時、なぜかぞわりと鳥肌が立った。
「えっ?」
「えっ、て…… 」
「津田さん、もう一回確認してもいいですか?」
「…… 」
「俺の、番になってください」
「はい」
はっきりと聞こえた即答に、鼻の奥がツンとした。思わず眼鏡を外し目頭を押さえた乾に、津田が珍しく狼狽を見せる。
「おい、そんな、泣くようなことじゃ…… 」
「すみません…… ちょっと、見ないでください」
腿に肘をつき、うつむいて大きく息をする乾の背に、温かい手が触れた。その大きくて薄い手が、ゆっくりと上下に、優しく背中をさする。
きっと津田は笑っているだろう、乾には見なくてもそれが分かった。眠った律の背中をさする彼の柔らかい笑顔を、何度も見てきたから。
その優しい眼差しが今は自分に向けられているだろうことに言いようのない安堵と幸福を感じ、乾は伏せた顔を両手で覆った。
電話やメッセージではなく顔を見て話したいと思って温めていた言葉も、自分の意図をちゃんと伝えるには力不足だ。
もどかしさを感じていた乾に、津田がポツリと何か呟いた。
「…… え?」
低く短い一言だったので、乾はただ声が聞こえたということしか認識できなかった。
「今なにか、言いました?」
津田が気まずそうに目を逸らす。これは何か大事なことを言ったのだと直感した乾は、追求するよりも黙って待った。
「だから…… 」
たっぷり1分は待たせてから、津田が重い口を開いた。
「はい、って……返事。遅かった…… ?」
その言葉を受けて、乾は脳内にある自分の発言データを高速で遡った。そして津田の「はい」が何を受けての返事なのかに思い当たった時、なぜかぞわりと鳥肌が立った。
「えっ?」
「えっ、て…… 」
「津田さん、もう一回確認してもいいですか?」
「…… 」
「俺の、番になってください」
「はい」
はっきりと聞こえた即答に、鼻の奥がツンとした。思わず眼鏡を外し目頭を押さえた乾に、津田が珍しく狼狽を見せる。
「おい、そんな、泣くようなことじゃ…… 」
「すみません…… ちょっと、見ないでください」
腿に肘をつき、うつむいて大きく息をする乾の背に、温かい手が触れた。その大きくて薄い手が、ゆっくりと上下に、優しく背中をさする。
きっと津田は笑っているだろう、乾には見なくてもそれが分かった。眠った律の背中をさする彼の柔らかい笑顔を、何度も見てきたから。
その優しい眼差しが今は自分に向けられているだろうことに言いようのない安堵と幸福を感じ、乾は伏せた顔を両手で覆った。
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