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決断
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「悪いね、朝から家に来てもらって」
佐伯は自宅のソファに浅く腰掛けて、斜め向かいに座る乾と津田に微笑んだ。
土曜日の午前10時。二人は佐伯邸に呼ばれ、リビングのソファに並んで座った。律は、佐伯の妻ゆり子が先ほど近所の公園に連れて行った。ローテーブルには彼女が用意したコーヒーカップが3客、わずかに湯気を上げている。
「プライベートな話で役員室に呼ぶのもどうかと思ってね。午後から来客があるから、慌ただしくてすまないが」
佐伯はコーヒーを一口飲むと、
「一昨日、人事から聞いたんだけどね」
と切り出した。
「幸生君の配属先が、T大の研究室に決まりそうなんだよ」
乾は耳を疑った。佐伯は微笑を浮かべ、二人の反応を伺っている。隣を見ると、津田も驚いた表情で固まっていた。
T大には河野がいる。
津田を監禁した一件では、予想どおり起訴には至らず、民事でも示談となった。アクア製薬の特別顧問は解任されたが、犯罪者となったわけではない河野は免職にはならず、今もT大で教鞭をとっている。
津田が配属される研究室が薬学部以外にあるとは考えにくい。4月から津田は、河野のいる学部棟に通うことになる。
沈黙に包まれた部屋で、佐伯は続けた。
「配属先の選定は人事部に任せていて、まさかT大になるとは思っていなくてね、うっかりしていたよ。事件のことは公にしていないから、河野君と幸生君の関係を人事は知らないからね。今から他の場所に変更できないかと聞いたんだけど、どうも難しいらしい」
佐伯はおもむろに、再びコーヒーに口をつけた。
反対だ、と声をあげてもいいのだろうか。乾は自分の置かれた立場を考えていた。津田と一緒に家に呼ばれたということは、彼の未来を一緒に考える人間として佐伯に認められているということだろう。でもこの話はあくまで津田のものであり、同席しているからといって口を挟むべきではないように思えた。
佐伯は自宅のソファに浅く腰掛けて、斜め向かいに座る乾と津田に微笑んだ。
土曜日の午前10時。二人は佐伯邸に呼ばれ、リビングのソファに並んで座った。律は、佐伯の妻ゆり子が先ほど近所の公園に連れて行った。ローテーブルには彼女が用意したコーヒーカップが3客、わずかに湯気を上げている。
「プライベートな話で役員室に呼ぶのもどうかと思ってね。午後から来客があるから、慌ただしくてすまないが」
佐伯はコーヒーを一口飲むと、
「一昨日、人事から聞いたんだけどね」
と切り出した。
「幸生君の配属先が、T大の研究室に決まりそうなんだよ」
乾は耳を疑った。佐伯は微笑を浮かべ、二人の反応を伺っている。隣を見ると、津田も驚いた表情で固まっていた。
T大には河野がいる。
津田を監禁した一件では、予想どおり起訴には至らず、民事でも示談となった。アクア製薬の特別顧問は解任されたが、犯罪者となったわけではない河野は免職にはならず、今もT大で教鞭をとっている。
津田が配属される研究室が薬学部以外にあるとは考えにくい。4月から津田は、河野のいる学部棟に通うことになる。
沈黙に包まれた部屋で、佐伯は続けた。
「配属先の選定は人事部に任せていて、まさかT大になるとは思っていなくてね、うっかりしていたよ。事件のことは公にしていないから、河野君と幸生君の関係を人事は知らないからね。今から他の場所に変更できないかと聞いたんだけど、どうも難しいらしい」
佐伯はおもむろに、再びコーヒーに口をつけた。
反対だ、と声をあげてもいいのだろうか。乾は自分の置かれた立場を考えていた。津田と一緒に家に呼ばれたということは、彼の未来を一緒に考える人間として佐伯に認められているということだろう。でもこの話はあくまで津田のものであり、同席しているからといって口を挟むべきではないように思えた。
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