ただΩというだけで。

さほり

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逡巡

23.

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  乾の手が、髪を撫でる。あの閉鎖した部屋にいる時には、彼とこんなふうになるなんて、考えてもいなかった。

「俺、αなんてみんなクソだと思ってたけど…… 」

  そこまで言って、αの腕の中にいながらひどいな、と思う。顔を上げると、苦笑した乾に先を促された。

「あの時、お前に守ってもらって…… 俺に近づかないことで、俺を守ってるんだって、分かって。αにもいろんなやつがいるのに、俺、今まで間違ってたなって、思ったよ」

  乾の目が優しく細められ、額に唇が触れた。

「なんかちょっと逸れたかな…… 何が言いたかったんだっけ…… あ、そうだだから、お前のこと、頼りないとか、思ってるわけじゃなくて…… 頼らないように、生きてきたんだよ、今まで。誰の世話にもならずにやってけるとか思ってて。でも、そうじゃないんだって、分かったっていうか…… 
  慣れてなくて、またなんかイラッとさせるかもしんないけど…… これからはもっと、お前のこと頼るようにするから」

  顔を上げて告げた津田の言葉に、乾は笑みを消した。真顔で見つめあった後、グッと強く抱きしめられる。

「嬉しいです」

  耳元で囁いた乾の声は少し震えていて、それでも本当に喜んでくれていると分かる声音だった。
  ホッとしたら肩の傷が鈍く痛みだし、身動ぎすると鋭い痛みが走った。

「い…… っ」

  津田が顔をしかめると、背中に回されている腕が緩み、乾に顔を覗き込まれた。

「すみません…… 痛みますか?」

  乾はタオルを拾うと、その濡れて冷えたものをそっと津田の肩に当てた。タオルが落ちていた部分のシーツは濡れて色が変わっている。何の気なしに見回すと、真っ白いシーツはところどころ湿っていて、それが自分たちの体液だと自覚した津田は驚愕した。


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