221 / 417
逡巡
6.
しおりを挟む
「なん…… で?」
「津田さんから電話をもらった後、こちらにお願いしておいたんです。律君を預けに来たときに津田さんの様子がおかしかったら、連絡してほしいって」
乾の肩越しに、彼に連絡したのであろう保育士が不安そうに様子をうかがっているのが見えた。
彼とは一度、食事に行く前に一緒に律を引き取りに来たことがあるから、ただの上司でないことは分かった上での対応だろう。
「特効薬は、やめたほうがいいです。また胃が荒れるし…… 最近使いすぎてます。抑制剤は、飲んでるんですよね?」
乾が津田の横髪を払い、火照った頬に手を当てた。冷たい手が気持ちいい。
津田は少し顎を引くことで彼の質問に答えた。
「こんなに発熱して、動けもしないのに…… どうして、呼んでくれないんですか…… 」
乾がつらそうに目を細めた。
傷つけるつもりはなかったのに。ただ、仕事中に呼び出すようなことをしたくなかった。そんな都合のいい頼り方を、したくなかったのだ。
「んあ…… っ」
思わず声が出てしまった。乾に触れられているだけで、身体が濡れる。力を入れていないと、奥から蜜が溢れ出てしまう。それが怖くて恥ずかしくて、津田は目を伏せた。
前髪にかかる乾の息が、普段より荒いのが分かる。彼も興奮しているのだと思うと、喜びが甘い快感となって津田の身体を駆け巡った。
「今日、医務室使えないんで…… つらいでしょうけど、少しがんばって歩いてくださいね」
乾に肩を貸してもらい、着いた先はシティホテルだった。
少し歩くと言ったけれど、オフィスのある商業ビルを出ればそのホテルの入り口は斜向かいにあった。毎日自宅と職場の往復しかしていない津田はオフィスの周りに何があるのかもよく知らないのだが、乾が迷いのない足取りでそこに向かったということは、避難先として調べてくれていたのだろう。
「座って待っててください」
「津田さんから電話をもらった後、こちらにお願いしておいたんです。律君を預けに来たときに津田さんの様子がおかしかったら、連絡してほしいって」
乾の肩越しに、彼に連絡したのであろう保育士が不安そうに様子をうかがっているのが見えた。
彼とは一度、食事に行く前に一緒に律を引き取りに来たことがあるから、ただの上司でないことは分かった上での対応だろう。
「特効薬は、やめたほうがいいです。また胃が荒れるし…… 最近使いすぎてます。抑制剤は、飲んでるんですよね?」
乾が津田の横髪を払い、火照った頬に手を当てた。冷たい手が気持ちいい。
津田は少し顎を引くことで彼の質問に答えた。
「こんなに発熱して、動けもしないのに…… どうして、呼んでくれないんですか…… 」
乾がつらそうに目を細めた。
傷つけるつもりはなかったのに。ただ、仕事中に呼び出すようなことをしたくなかった。そんな都合のいい頼り方を、したくなかったのだ。
「んあ…… っ」
思わず声が出てしまった。乾に触れられているだけで、身体が濡れる。力を入れていないと、奥から蜜が溢れ出てしまう。それが怖くて恥ずかしくて、津田は目を伏せた。
前髪にかかる乾の息が、普段より荒いのが分かる。彼も興奮しているのだと思うと、喜びが甘い快感となって津田の身体を駆け巡った。
「今日、医務室使えないんで…… つらいでしょうけど、少しがんばって歩いてくださいね」
乾に肩を貸してもらい、着いた先はシティホテルだった。
少し歩くと言ったけれど、オフィスのある商業ビルを出ればそのホテルの入り口は斜向かいにあった。毎日自宅と職場の往復しかしていない津田はオフィスの周りに何があるのかもよく知らないのだが、乾が迷いのない足取りでそこに向かったということは、避難先として調べてくれていたのだろう。
「座って待っててください」
0
お気に入りに追加
669
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
もうすぐ死ぬから、ビッチと思われても兄の恋人に抱いてもらいたい
カミヤルイ
BL
花影(かえい)病──肺の内部に花の形の腫瘍ができる病気で、原因は他者への強い思慕だと言われている。
主人公は花影症を患い、死の宣告を受けた。そして思った。
「ビッチと思われてもいいから、ずっと好きだった双子の兄の恋人で幼馴染に抱かれたい」と。
*受けは死にません。ハッピーエンドでごく軽いざまぁ要素があります。
*設定はゆるいです。さらりとお読みください。
*花影病は独自設定です。
*表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217 からプレゼントしていただきました✨
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたが愛してくれたから
水無瀬 蒼
BL
溺愛α×β(→Ω)
独自設定あり
◇◇◇◇◇◇
Ωの名門・加賀美に産まれたβの優斗。
Ωに産まれなかったため、出来損ない、役立たずと言われて育ってきた。
そんな優斗に告白してきたのは、Kコーポレーションの御曹司・αの如月樹。
Ωに産まれなかった優斗は、幼い頃から母にΩになるようにホルモン剤を投与されてきた。
しかし、優斗はΩになることはなかったし、出来損ないでもβで良いと思っていた。
だが、樹と付き合うようになり、愛情を注がれるようになってからΩになりたいと思うようになった。
そしてダメ元で試した結果、βから後天性Ωに。
これで、樹と幸せに暮らせると思っていたが……
◇◇◇◇◇◇
もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる