ただΩというだけで。

発情

1.

（身体カラダ、燃える…… ）

  津田は朦朧とするほどの発熱と闘っていた。
  横になっているだけで、身体が熱く、汗が流れる。真夏の炎天下にいるような暑さだった。
  10月の末だ。気温が高くないことは分かっている。
  抑制剤ピルを絶たれた身体で、性欲の爆発に抗っているのだ。

（抑制剤ピル飲んでないと、この年でも、こんななのか……？）

  はぁ、はぁ、と、自分の吐息がやたらと大きく聞こえた。指先にはもう、あまり力が入らない。

  気持チイイ……

  そう思ってふと気づくと、力の入らない指が下着の中に伸びている。舌打ちしてそれを引きはがす。そんなことを、目覚めてから何度も繰り返していた。

  今が何時なのかも分からない。おそらく昼過ぎ…… でもそんなことすら、考えることを脳が放棄している。このままでは、夜には完全に発情してしまうとわかっていた。

（こんな状態で、河野あいつが来たら…… ）

  ぞわっと背筋が逆立った。同時に、Ωの身体の奥が期待に震える。ドクン、ドクン、と「迎える用意」をするように、下半身が熱くなった。

（あ、ありえねえ。こんな…… っ）

  ホシイ。αホシイ。

  津田の意志に反して、身体の奥がαを求める。

（…… 冗談じゃねえっ！）

  今のうちに一回抜こうかと、何度思ったか分からない。そうしたら、少し落ち着くだろうかと。

  抜コウヨ…… 気持チイイコトシテ、何ガ悪イ…… ？

  Ωが囁く。快楽に身を任せよと。

（いやだめだ、抜いたらそっから一気に発情しちまう…… っ）

  気持チイイコト、シタイ……
  何デ我慢シナキャナンナイ……？

（そうだよな…… どうせ、もう…… 時間の問題…… ？） 

  あいつが、来る。

  来ル？モウスグ？α、ホシイ。

(いや、厭だ。厭だ！)

  津田は手錠につながれた拳を白い壁に打ち付けた。