ただΩというだけで。

さほり

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失踪

15.

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  津田の失踪を警察に届けるべきかを相談すると、佐伯は落ち着いた声でその有効性を否定した。

「幸生君がいなくなってまだ半日だ。今の段階で警察に届けても、笑われるだけだろう。たとえ何日も行方不明だったとしても、明確な事件性がなければ、大人の失踪の場合はただ失踪者リストに載るだけだしね。それに、幸生君はΩだから…… 」

  その先は言わなくても察せられる。Ωだから、失踪しても真剣に捜査される可能性は低い。どこかのαに「保護」されているだろうと思われ、リストにさえ載せられないかもしれない。
  それが分かっているαの二人は、電話口で黙り込んだ。

  河野の助手からは、朝になってもまだ連絡がない。
  いっそT大に乗り込もうかと思ったが、T大の教授室はセキュリティ保護のため、アポがなければ棟にも入れない。広大なキャンパスで、偶然移動中の河野を見つけられるとは思えなかった。

  それに彼が関わっていると決まったわけでもないのに、騒ぎ立てるわけにもいかないのだ。河野が名誉毀損だと憤ったら、会社にも迷惑がかかる。

  何もできない自分がもどかしい。
  それでも、津田の姿を探して東京の街をあてもなく走りまわるほど、馬鹿でもない。

「動いてもらうときには頼むから、そのときに備えて乾君はとにかく仕事をしていてほしい」

  そう佐伯に言われ、昨日から溜まっていた仕事を片付けることしか、今の乾にできることはなかった。

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