ただΩというだけで。

さほり

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縮まらない距離

12.

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    あんな、貪るような、背骨の溶けるようなキスをされて、忘れられるはずがない。

  熱い唇。上あごの奥をなでる、柔らかい舌先。吸われた舌の、しびれるような甘い痛み。
  もっとしたい、もっと欲しいと思ったキスは、初めてだったのに。

  突き返された煙草の箱が、「なかったことにしろ」と言っていた。
  刺さるような冷たい目。
  強い拒絶。
  胸をえぐるような悲しみに襲われた。

  触れたい。
  津田に触れたい。声が聞きたい。くだけた口調で話すのを、もっと聞きたい。笑顔が見たい。津田のことを、もっと知りたい。
  傍にいてほしい――

  誰かを好きになるということは、こんなにも胸の痛むことなのか。胸が痛む、という言葉を、ずっとただの比喩だと思っていたのに。

  物理的な刺激を受けたわけでもない胸が、誰かを想うだけで実際に張り裂けるように痛むことがあるなんて、30年も生きてきて、初めて知った。

(津田さん…… )
 
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