ただΩというだけで。

縮まらない距離

6.

  ほんの3日のうちに、河野との会食は二十日はつか後の火曜日に決まった。

  昼間の時間帯でもよろしいでしょうか、という乾の打診に河野が寄越したのが、今月22日の週の前半なら、という答えだった。乾自身の都合で火曜日に決定すると、店は河野の方で予約するといってきた。

  Ｔ大と同じ沿線の駅にある和食店で、彼の御用達とのことであった。
「つば喜き」というその店のＵＲＬをメールに貼り付けてきたのは、きっと助手の気づかいだろう。ネットで確認すると、なるほど大学教授の接待で使われそうな、高級感のある料亭だった。

「どうぞ、座ってください」

  乾は津田を呼び、再び第二応接室に入った。
日程を告げるだけならデスクで話してもよかったのだが、会食の詳細を席の近い里谷に聞かれたくないという思惑があった。

  今回の会食には里谷を誘っていない。河野は特別里谷を気に入った様子でもなかったし、α三人で津田を囲むことにも、なんとなく抵抗があった。
  乾は津田の食事代を手続きの煩雑な接待交際費で落とすつもりはなく、彼の分を密かに自分が負担しようと思っているのだが、津田の事情を知らない里谷にその辺の機微を説明するのも面倒だ。

  先週の帯同訪問以降、乾のことを不満のこもった目で見てくることもあり、今回は里谷を誘わないことにした。
  津田と二人で河野との会食に行くことを秘密にするわけではないが、里谷の目の前でその話をして要らぬ刺激を与えたくはなかった。

「河野教授との約束ですが、二十日はつか後の23日に決まりました。12時半からの昼懐石です。予定しておいてください」