ただΩというだけで。

縮まらない距離

2.

  津田は律のモロヘイヤと白米をスプーンで混ぜてやってから、後ろに手を伸ばし、供えてあった自分の茶碗をとった。

「いただきます」
「ましゅ！」

  律がはじめにモロヘイヤごはんにとりかかるのを見ながら、小さなハンバーグを4つに切ってやる。たまねぎを多めに入れて甘く柔らかく作ったハンバーグは、箸で簡単に切れた。

  発情休暇で休んでいる間、津田は何も自慰ばかりしていたのではなく、おかずの作り置きに精をだした。複数のおかずを作り、小分けにして冷凍する。
いま、津田家の冷凍庫はおかずでいっぱいだ。そうすることでその後の半月を楽に暮らせる。今日のメインであるハンバーグも、その自家製冷食の一つだ。

  ハンバーグは凛花が生きていたころ、月に一度は作った彼女の好物だった。

  凛花の元気がないとき、機嫌が悪いと感じたとき、津田は娘のためにハンバーグを作った。
  ピアノを習いたいとダダをこねたときも。
  Ωだからと友達の家で門前払いをくらったと泣いたときも。

  先週、乾に佐伯や凛花の話をした津田は、無性に懐かしくなって久しぶりに合い挽き肉をこねた。
  凛花のことを思い出してじわじわと涙がにじんだけれど、刻んだたまねぎのせいにして袖で拭った。

  律は初めて見るハンバーグを、じっと見つめた。恐る恐るひとかけ口に入れた後、気に入ったらしくぱくぱくと頬ばる姿に、やっぱり親子なんだなぁと、津田は甘く痛い感傷に襲われた。

  3日ぶりに食卓に上がったハンバーグを、律の脳はちゃんと「美味しいもの」として記憶している。ためらいなく口に運ぶ様子に、自然と笑みがこぼれた。

  小さく丸めたそれは冷凍庫にあと10個入っているから、しばらくは夕飯の支度を楽にしてくれるだろう。