ただΩというだけで。

Ωの人生

4.

  津田は男兄弟の中で育ち、女友達というものがいなかった。女性と交際したこともなかったので女性のことがよくわからず、凛花を育てることには悩みが多かった。

  それでも、15年前、産まれた病院でおそらくΩだと言われ、小学校での一斉検査でもΩと診断された凛花を、津田は懸命に育てた。
   女性のことはわからなくても、Ωの苦労なら共有できる。津田は自分の両親のようにはなるまいと、Ωの娘に愛情を注いだ。

  しかし家計を支える津田の仕事は忙しく、反抗期を迎えほとんど話すことのなくなった娘の身体の変化にまで気づいてやれなかった。

  一斉検査以降、毎日服用することを義務付けられた抑制剤ピルが、凛花の体質に合っているか、そもそもちゃんと服用しているかを、確認していなかった。

  母親とはいえ男の自分と、性の話など絶対にしたくない年頃だと分かっていたから、つい後回しにしてしまった。

  凛花が小学校を卒業し、そろそろ特効薬を持たせた方がいいかもしれないとは思っていた。
  津田自身の発情は中学3年で始まったが、女子の方が発育が早い。凛花は小柄で細身だが、早めに準備をさせた方がいいだろうか、そう考えていた矢先だった。

  夏休みを間近に控えたある日。

  中学1年生の凛花は学校で突然発情し、ヒートを起こした男子生徒に暴行されてしまったのだ。相手は顔も知らない上級生のαだったという。
  ことが終わるとその上級生は逃げ、傷ついた凛花は、誰にも知られることなく歩いて自宅に帰った。
  その身体に、新しい命が芽生えていたことを知らなかった。

  運悪くその日、津田は出張で家を空けていた。

  津田は出張から戻ってからも、凛花の変化に気づけなかった。定期的に発情休暇をとる津田は、その穴埋めのために土日もほぼ休みなく働いていて、娘と顔を合わせる時間がほとんどなかったのだ。