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Another Side of View
12.
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河野は意味ありげに、乾の名刺を指のはらでトン、トントンと叩いた。
「乾君、今度ぜひ津田も一緒に、飲みにでも行こうじゃないか。」
楽しそうに言う河野に、乾は
「ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」
と応えた。その時はただの社交辞令だと思っていた。
そもそも乾が若手の成長株である里谷を連れて河野を訪ねたのも、社の顧問になっているヒート抑制剤開発の第一人者に、一度はあいさつしておいた方がいいと思ったからだ。親交を深めるつもりなどなかった。
それなのに翌朝早々、具体的に日取りを決めたいというメールが来てしまった。
正直に言って、気が進まない。
それでも、来てしまったものを無視するわけにもいかない。
乾は津田が出勤するのを待って、自分のデスクに彼を呼んだ。
「津田さん、昨日はお気遣いありがとうございました。おかげで教授の機嫌を損ねずにすみました」
乾がそう言うと、津田はわずかに視線をそらして
「いえ」
とだけ答えた。
もうじき10月だが、外はまだ暑いのだろうか。出勤したばかりの津田の、白いコットンシャツの襟からのぞく首筋に汗が光っていた。
「河野教授にあなたのことを話したら、とても懐かしがっていましたよ。今度ぜひ飲みに行きましょうとお誘いいただきました」
「…… 」
「どうしました?」
「話したんですか、俺のこと…… 」
感情をにじませないまま、津田がつぶやいた。津田の一人称を聞いたのは初めてだ。
「いけませんでしたか?」
話したのは里谷だが、それは問題ではないだろう。
「いえ、別に…… 」
津田はそう言ったきり、沈黙した。無表情で黙っているのでしばらく待ったが、スケジュールを考えている様子ではない。
「だから、教授が今度飲みに行こうと――」
「主任は、」
津田が静かな声で遮った。
「乾君、今度ぜひ津田も一緒に、飲みにでも行こうじゃないか。」
楽しそうに言う河野に、乾は
「ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」
と応えた。その時はただの社交辞令だと思っていた。
そもそも乾が若手の成長株である里谷を連れて河野を訪ねたのも、社の顧問になっているヒート抑制剤開発の第一人者に、一度はあいさつしておいた方がいいと思ったからだ。親交を深めるつもりなどなかった。
それなのに翌朝早々、具体的に日取りを決めたいというメールが来てしまった。
正直に言って、気が進まない。
それでも、来てしまったものを無視するわけにもいかない。
乾は津田が出勤するのを待って、自分のデスクに彼を呼んだ。
「津田さん、昨日はお気遣いありがとうございました。おかげで教授の機嫌を損ねずにすみました」
乾がそう言うと、津田はわずかに視線をそらして
「いえ」
とだけ答えた。
もうじき10月だが、外はまだ暑いのだろうか。出勤したばかりの津田の、白いコットンシャツの襟からのぞく首筋に汗が光っていた。
「河野教授にあなたのことを話したら、とても懐かしがっていましたよ。今度ぜひ飲みに行きましょうとお誘いいただきました」
「…… 」
「どうしました?」
「話したんですか、俺のこと…… 」
感情をにじませないまま、津田がつぶやいた。津田の一人称を聞いたのは初めてだ。
「いけませんでしたか?」
話したのは里谷だが、それは問題ではないだろう。
「いえ、別に…… 」
津田はそう言ったきり、沈黙した。無表情で黙っているのでしばらく待ったが、スケジュールを考えている様子ではない。
「だから、教授が今度飲みに行こうと――」
「主任は、」
津田が静かな声で遮った。
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