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第十節 回避の術
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特訓が開始されてから、3日が経とうとしていた。
「ハッ!」
「ドガッ」
サンドバックをリジェクトで攻撃する主人公。その傍らで爆破が考え事をしている。
(あれから320kg止まりが続くな。どの部位に当たっても確実にゾムビーを葬り去るには常に450kgの威力が欲しいものだが……)
ふと、腕時計を確認する。
(もうすぐ、22時か)
「よし! 今日はそこまでだ! 二人とも! 風呂に入って寝ろ! 超能力に耐えうる体力を作るのも立派な特訓の内だ! しっかりと寝て体力を付けるように‼」
「ハイ!」
「おゥ!」
爆破の指示に主人公、逃隠がそれぞれ答える。
――大浴場。主人公と逃隠が湯船に浸かっている。
「はぁー。今日も疲れたー」
「サンドバック運びも楽じゃないゼ」
軽くグチをこぼしながら湯船でリラックスする二人。主人公が口を開く。
「僕の方は、1カ月間も勉強合宿するって親には言っておいて、何とかごまかせたけど、サケル君の家は大丈夫なの? 夏休みとはいえ、中学生が1カ月も家を留守にするんだよ?」
逃隠が答える。
「ン? あァ、うちは放任主義だからナ」
「さっぱりしてるね。まぁ、何かあったらスマシさんが何とか説得してくれるらしいから大丈夫か」
「……ツトム」
「ん?」
逃隠が話を切り出す。
「特訓についてだガ、どう思ウ?」
「どうって言われても……」
首をかしげる主人公。
「俺ハ! このままではダメだと思ウ」
いつになく真剣な表情の逃隠。
「どうしたの? サケル君。そんな顔して……まさか!」
「気付いたのカ? ツトム」
コクリと頷く主人公。
「雑用がホンキで嫌になって……」
「ザッバァァアアン」
湯船でずっこけて水しぶきを上げる逃隠。
「ちゃうワァ! 思わず関西弁になってしまっただろうガ‼」
「ごめん」
とりあえず謝る主人公。
「まぁいイ」
続ける逃隠。
「リジェクトだガ、その精度は目標の500kgには及ばなイ……1回当たりの威力はまぁまぁだガ、繰り出すのに隙が大き過ぎル」
(確かに、サケル君の言う通りだ。威力もまだまだだし、打ち終わった後、すぐに次が打てない!)
ハッとする主人公。
「そこで……ダ」
更に続ける逃隠。
「回避の術、お前に伝授してみようと思ウ!」
「回避の……術⁉」
顔を見合わせる二人。慌てて話し始める主人公。
「か、回避の術って、確かサケル君の家系で代々伝わる奥義なんでしょ? 僕なんかが簡単にできる術じゃあ……」
「できル! 免許皆伝であるこの俺が指導すればナ」
主人公の言葉を遮り、そう言う逃隠。
「ここ、狩人ラボは6時半起床の超ホワイト企業ダ。朝まで随分と時間があル! 早速、風呂から出てテ、特訓第二幕! 開始ダ‼」
「ザバッ」
そう言って湯船を飛び出す逃隠。
「あっ、待ってよ! サケル君」
逃隠を追うように湯船を出る主人公。
――主人公と逃隠の自室。
「外に出て見つかったら怒られるからナ、ここでやるカ!」
腕組をする逃隠。
「ちょっとしたスペースはあるけど、ここで回避の術なんてできるようになるの?」
不安になる主人公。
「なぁニ、基本は身体能力を活かした体術のようなものダ。基礎体力トレーニングを積めバ、それなりのものはできるようになル」
「それなりのものって……」
自信満々な逃隠と不安な主人公。
「そうだナ、まずは動体視力からやるカ」
風呂敷から何か取り出す逃隠。
「パラァ」
それは縦1.2m、横1mのポスターのような紙だった。方眼用紙のような仕切りが6×6で書かれており、その中には不規則に並べられた数字も書かれてあった。
「サケル君、それは……?」
「フッフッフ、これはナ、動体視力を鍛えるための巻物ダ!」
(巻物というよりは普通の紙なんだけど……)
心の中でツッコミを入れる主人公。
続けて説明する逃隠。
「ここに数字が描かれているだろウ? この数字を上の数字から下の数字へ目を動かして読み上げるんダ! 斜め下のモノを読んでもいイ。なるべく素早く行うのがコツダ。やってみロ」
「うん、分かったよ」
言われるがままに数字を読み上げていく主人公。
「6、11、4、25……」
(そう言えば昔、動体視力は目の筋肉を素早く動かす事が関係しているって、テレビで見たことがある。こうやって目を素早く動かしていけば確かに鍛えられる気がする……!)
「まずは3分かン! やってみロ!」
指示を飛ばす逃隠。
(3分間。キツいかも知れないけど、やるぞ!)
――3分経過。
「少し目が疲れたよ」
目をマッサージする主人公。
「これをとりあえず3セット行うゾ! ひとまず次ダ。次は俊敏性と下半身の筋力をアップしてもらウ!」
(次は体を使うのか)
「スクワットジャンプ20回3セット! 反復横飛び20秒3セット! スクワット30回3セット! フロントランジ30回3セット! サイドランジ……」
「ちょっと待ってよ!」
逃隠の指示を遮って話す主人公。
「ほ、本格的な筋力トレーニングだけど、今からそれ全部するの?」
「当たり前ダ」
当然だろう? という表情の逃隠。
「……」
たじろぐ主人公。
「見たとこロ、瘦せ型のお前はこれくらいやらないと回避の術のかの字も習得できなイ。俺はこんなタッパだガ、反復横飛びは20秒66回、50m走は6.2秒くらいの身体能力ダ。これくらいの身体能力が無いト、回避の術の免許皆伝にはなれなイ!」
(……サケル君のコト、正直信用してなかったけど、やっぱり凄い人だったんだな)
逃隠の言葉に息をのむ主人公。
「さテ、ツトム! 続きだ、やるゾ!」
「うん! やってやる!」
逃隠の特訓の続きを始める主人公。
夜が更けていく――。
「ハッ!」
「ドガッ」
サンドバックをリジェクトで攻撃する主人公。その傍らで爆破が考え事をしている。
(あれから320kg止まりが続くな。どの部位に当たっても確実にゾムビーを葬り去るには常に450kgの威力が欲しいものだが……)
ふと、腕時計を確認する。
(もうすぐ、22時か)
「よし! 今日はそこまでだ! 二人とも! 風呂に入って寝ろ! 超能力に耐えうる体力を作るのも立派な特訓の内だ! しっかりと寝て体力を付けるように‼」
「ハイ!」
「おゥ!」
爆破の指示に主人公、逃隠がそれぞれ答える。
――大浴場。主人公と逃隠が湯船に浸かっている。
「はぁー。今日も疲れたー」
「サンドバック運びも楽じゃないゼ」
軽くグチをこぼしながら湯船でリラックスする二人。主人公が口を開く。
「僕の方は、1カ月間も勉強合宿するって親には言っておいて、何とかごまかせたけど、サケル君の家は大丈夫なの? 夏休みとはいえ、中学生が1カ月も家を留守にするんだよ?」
逃隠が答える。
「ン? あァ、うちは放任主義だからナ」
「さっぱりしてるね。まぁ、何かあったらスマシさんが何とか説得してくれるらしいから大丈夫か」
「……ツトム」
「ん?」
逃隠が話を切り出す。
「特訓についてだガ、どう思ウ?」
「どうって言われても……」
首をかしげる主人公。
「俺ハ! このままではダメだと思ウ」
いつになく真剣な表情の逃隠。
「どうしたの? サケル君。そんな顔して……まさか!」
「気付いたのカ? ツトム」
コクリと頷く主人公。
「雑用がホンキで嫌になって……」
「ザッバァァアアン」
湯船でずっこけて水しぶきを上げる逃隠。
「ちゃうワァ! 思わず関西弁になってしまっただろうガ‼」
「ごめん」
とりあえず謝る主人公。
「まぁいイ」
続ける逃隠。
「リジェクトだガ、その精度は目標の500kgには及ばなイ……1回当たりの威力はまぁまぁだガ、繰り出すのに隙が大き過ぎル」
(確かに、サケル君の言う通りだ。威力もまだまだだし、打ち終わった後、すぐに次が打てない!)
ハッとする主人公。
「そこで……ダ」
更に続ける逃隠。
「回避の術、お前に伝授してみようと思ウ!」
「回避の……術⁉」
顔を見合わせる二人。慌てて話し始める主人公。
「か、回避の術って、確かサケル君の家系で代々伝わる奥義なんでしょ? 僕なんかが簡単にできる術じゃあ……」
「できル! 免許皆伝であるこの俺が指導すればナ」
主人公の言葉を遮り、そう言う逃隠。
「ここ、狩人ラボは6時半起床の超ホワイト企業ダ。朝まで随分と時間があル! 早速、風呂から出てテ、特訓第二幕! 開始ダ‼」
「ザバッ」
そう言って湯船を飛び出す逃隠。
「あっ、待ってよ! サケル君」
逃隠を追うように湯船を出る主人公。
――主人公と逃隠の自室。
「外に出て見つかったら怒られるからナ、ここでやるカ!」
腕組をする逃隠。
「ちょっとしたスペースはあるけど、ここで回避の術なんてできるようになるの?」
不安になる主人公。
「なぁニ、基本は身体能力を活かした体術のようなものダ。基礎体力トレーニングを積めバ、それなりのものはできるようになル」
「それなりのものって……」
自信満々な逃隠と不安な主人公。
「そうだナ、まずは動体視力からやるカ」
風呂敷から何か取り出す逃隠。
「パラァ」
それは縦1.2m、横1mのポスターのような紙だった。方眼用紙のような仕切りが6×6で書かれており、その中には不規則に並べられた数字も書かれてあった。
「サケル君、それは……?」
「フッフッフ、これはナ、動体視力を鍛えるための巻物ダ!」
(巻物というよりは普通の紙なんだけど……)
心の中でツッコミを入れる主人公。
続けて説明する逃隠。
「ここに数字が描かれているだろウ? この数字を上の数字から下の数字へ目を動かして読み上げるんダ! 斜め下のモノを読んでもいイ。なるべく素早く行うのがコツダ。やってみロ」
「うん、分かったよ」
言われるがままに数字を読み上げていく主人公。
「6、11、4、25……」
(そう言えば昔、動体視力は目の筋肉を素早く動かす事が関係しているって、テレビで見たことがある。こうやって目を素早く動かしていけば確かに鍛えられる気がする……!)
「まずは3分かン! やってみロ!」
指示を飛ばす逃隠。
(3分間。キツいかも知れないけど、やるぞ!)
――3分経過。
「少し目が疲れたよ」
目をマッサージする主人公。
「これをとりあえず3セット行うゾ! ひとまず次ダ。次は俊敏性と下半身の筋力をアップしてもらウ!」
(次は体を使うのか)
「スクワットジャンプ20回3セット! 反復横飛び20秒3セット! スクワット30回3セット! フロントランジ30回3セット! サイドランジ……」
「ちょっと待ってよ!」
逃隠の指示を遮って話す主人公。
「ほ、本格的な筋力トレーニングだけど、今からそれ全部するの?」
「当たり前ダ」
当然だろう? という表情の逃隠。
「……」
たじろぐ主人公。
「見たとこロ、瘦せ型のお前はこれくらいやらないと回避の術のかの字も習得できなイ。俺はこんなタッパだガ、反復横飛びは20秒66回、50m走は6.2秒くらいの身体能力ダ。これくらいの身体能力が無いト、回避の術の免許皆伝にはなれなイ!」
(……サケル君のコト、正直信用してなかったけど、やっぱり凄い人だったんだな)
逃隠の言葉に息をのむ主人公。
「さテ、ツトム! 続きだ、やるゾ!」
「うん! やってやる!」
逃隠の特訓の続きを始める主人公。
夜が更けていく――。
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