爆破スマシという女

いぶさん

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第十二節 綻び

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(下の階からは銃声が聞こえるが、上の階からは聞こえない……まず下の階からあの部隊は攻めていくのか……なら)

爆破は階段を駆け上がった。

(私は上の階から攻めていく!!)



三階に着いた。

「!」

廊下には2体、ゾムビーが居た。

「(出たな、化け物め!)バースト……!」



「ボッ!」

「ボッ!!」



爆破はゾムビー2体を、ほぼ同時に爆発させた。すぐに爆破は小走りでその場を去る。

「好実ぃ!! 居るか!?」

叫びながら走る爆破。

「好実ぃ!!」



「スマシ! こっちだ!!」





「!!」





杉田の声がした。その方向へ向かっていく。そこは2‐Cとクラス札が掛かっている教室だった。

「好実!」

そこには杉田と1体のゾムビーが居た。

「スマシ! 情けないが、助けて……」

「あ、ああ。バースト……」



「ゾ……?」





「ボッ!!」





ゾムビーは粉々になった。

「好実! 何でこんなところに?」

「あ、ああ。えーと、ゾムビーが教室までやって来たから、とりあえず椅子で殴って、皆が避難する時間稼ぎをしていたんだ。そしたら……」

「そしたら?」

「教室の隅まで追いやられ、俺だけ逃げられなくなっちゃって……」

「ふー、好実らしいな。これからどうする? 私はこの学校に現れたゾムビーを全て排除する予定だ」

「俺は……そうだな、一緒についていこう。この高校の生徒だ。道案内ならお任せ有れ!」

「分かった、なら行くぞ!!」

爆破と杉田は行動を共にする。

異臭が立ち込める中、銃声が聞こえる方は何かの部隊に任せ、銃声が聞こえない、未だゾムビー駆除が行われていない場所を目指した。

第二棟、二階と三階にかけての階段にて――、



「ゾゾォ……」

「ゾム……」



ゾムビー二体がうごめいていた。

「スマシ! 足場が無くならないよう、階段を破壊しないようにね!」

「ああ、分かった。バースト……」

「ボッ! ボッ!!」

爆破はゾムビー二体を続けざまに爆発させた。当然、階段には傷一つつけなかった。

既に三階散策を終わらせていた二人は、階段を降り二階へ辿り着いた。一階からは常に銃器の音が聞こえている。

「どこの輩かは知らんが、例の部隊、苦戦してそうだな。先刻からずっと一階にいるぞ」

「その様だね。こっちは無敵の能力、バーストがあるんだから、さっさと全部倒しちゃおうよ」

「軽く言いおって、全く。超能力の使用には体力が要るのだぞ?」

「おっ、だからかスマシちゃーん。ダイエット効果があって、そのスタイルを維持できているんだね?」



「……」



「ゴメンねスマシ、無視は止めて……」

「……全く、けしからん奴だ」



そこで――、





「ヒタ……」





すぐそばの教室から何者かの気配が……。

「新手か!?」

「待てスマシ、コイツは……」

爆破を制止する杉田、どうやら知り合いらしい。

「小杉じゃないかー。クラス変わってから、元気にしてたかー?」

「逆に待て、好実……。コイツは……」



「ゾム……」



小杉はゾムビー化していた!

「! な!? 小杉……!」

「好実! 距離を置くんだ。一旦引くぞ!」

「あ……、ああ!」

二人はゾムビー化した小杉から引き、離れた。爆破は口を開く。

「どうする? バーストで葬るか?」

「待ってくれ、スマシ……」

杉田は何か思うものがある様だった。数秒間手を顎にやり、考え込む。そして、遂に口を開く。



「やって……くれ。せめて苦しませないよう、一撃で……」



「分かった。バースト……」



「ゾ……?」

「ボッ!!」



ゾムビー化した小杉は、一瞬で木端微塵となった。

「――」

「く……」

杉田は下唇を噛み締める。数十秒、杉田はだんまりだった。爆破も杉田を想い、声を発しなかった。1分半経つか経たないかのところで、杉田は口を開いた。

「二年の中だるみってやつかなー? アイツ、最近太ってたし……。ゾムビーから逃げられなかったんだろうなー、足が遅い所為で。俺も高二でスマシも中二、気を付けないとな!」

「好実……」

「ん?」

「強いよ、お前は……」



(回想)



「バシュッ」



体液は男性に降りかかる。

「ぎゃああああ!! ……ム。……ゾム」

男性の皮膚はゾムビーと同じ色、つまりは紫色に染まっていく。

(ク……初めて見た。ゾムビーの体液を浴びると、ゾムビー化してしまうのは本当だったのか)

「うわあああああ! お父さぁーん!!」

「メイ! 逃げないとあなたもああなっちゃうわよ!!」

(あの男性の……家族か!? クソッ! どうすれば……)



遠くで、現ゾムビー、元男性の、娘が泣き叫んでいた。

「こら! メイ! 諦めて……逃げな……さい」

娘の母も涙ながらに声を上げていた。



ゾムビーは跡形も無く弾け飛んだ。

「あぁ、お父さん……」

元男性の娘は悲しみに打ちひしがれて、涙さえ出さずに只々、ゾムビーが居た方向を見つめていた。ハッとなり、爆破はその少女に近付いた。爆破は更に少女の目線にあうようにしゃがみ、言う。

「済まなかった。しかし、君を守るためでもあるんだ……」

爆破の言葉に耳を傾けていた少女は次第に目頭が熱くなり、俯く。そして爆破をポカポカと殴りながら言った。



「お父さんを……返してよぉ……」



爆破は少女と視線を合わせた。遂にボロボロと涙を流す少女。涙を流さずにはいられなかった。実の父親が、ゾムビー化して殺されたのだから。

「――、……!」

爆破は酷く心を痛めた。いたいけな少女の大切な人の命を奪ってしまったのだから……。

(回想終了)



キョトンとしていた杉田は、真剣な顔になり、言った。

「でもな、スマシ……。この判断が間違っていたのかも知れないんだ」

「それなら……尚更! お前は……!」

サッと右手を差し出し、杉田は爆破を制止した。そして、口を開く。

「今はあまり関係無いかも知れないが、聞いてくれ、スマシ……。人は失敗や過ちを犯す生き物だ。しかも、何度でも、何回も。しかしその度に反省してまた前を向いて生きていけるんだ。だからこそ人間は正しくて清い、それだからこそ人生はおもしろい」

「好実……」

爆破もまた、真剣な表情になって杉田を見つめていた。



その時――、

「ゾ……」

爆破のすぐ後ろにゾムビーの影が……。



「! スマシ! 危ない!!」



ドン、と爆破を突き飛ばす杉田。





「ゾムバァアア!!」





ゾムビーは口から体液を吐き出す。そして、それは杉田の体に降りかかってしまう。

「がぁああ! あぁあああ……ム……ゾム……」

突き飛ばされて廊下に横たわっていた爆破は自分の目を疑った。

「そん……な……。嘘……だろ……?」



目の前で、杉田がゾムビー化したのだ。



「好実……好実!!」

必死に杉田の名前を呼ぶ爆破。

しかし――、

「ゾム……ゾム……」

その声は、もう杉谷は届かない。杉田はゾムビー化したのだ。

「好実……!」

不意にハッとなる爆破。



(回想)

お土産を受け取る杉田。ガサゴソと包装を破って中身を見る。

「へー、シーサーじゃん。流石沖縄」

「厄除けになると思って――な。絶対にゾムビーと遭遇しないで欲しい、絶対にゾムビー達の犠牲にならないで欲しいという思いで、買ったんだぞ?」

「成程」

腕を組む杉田。次に口を開く。

「もし、俺がゾムビー化したら」



「!」



「容赦なく殺してくれ」
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