爆破スマシという女

いぶさん

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第十一節 協会

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1月――、



「よっ!」

「おう……」



いつもの通学路で杉田と爆破は出会う。

「正月、どう過ごしてた?」

「テレビを見て、コタツで寝たりした――な」

「『笑ってもいけない』、見たかい?」

「ああ、アレは面白かったな。流石に笑う」

笑みを零す爆破。杉田もニッと笑った。

道は雪で埋まっており、二人の歩く後ろは足跡が二つ、並んで出来ていった。二人はマフラーをし、杉田は手に手袋をはめており、爆破は両手をポケットに入れていた。

「手袋、しないのかい?」

「ああ、こっちの方が落ち着く」

とりとめのない会話を交わす二人。



「そうだ!」



「!」

「初詣、何で一緒に行けなかったんだい、スマシ?」

はー、と溜め息をついて爆破は言う。

「私はまだ中学生なのだぞ? 家族で行くに決まっていよう。ふ……二人で行けるのは、高校生になってからになりそうだ、好実」

「あと、2年……、か。そしたら大晦日からの元旦にかけての年越し参りができると見て、良いのかい?」

「ああ、家族を説得してでも参ってやろう」



ふと――、

「コツ……コツ……コツ……」

150センチくらいの、中年太りした男が、スーツ姿で現れた。



「!」

「!?」



男は口を開く。

「……君が、この写真にある、爆破スマシさんかね?」

男はひらりと新聞を見せる。それは『超能力少女現る!!』という一面の新聞で、爆破の写真がでかでかと載っていた。

「だったら――、どうする?」

爆破は警戒する。

「まあ、そう身構えなくとも良い、私は政府公認の協会、ゾムビー撲滅協会の内の一人だ……」

「ゾムビー……?」

「撲滅……!?」

爆破と杉田は虚を突かれる。

「そうだ、かつてアメリカのみの被害だったゾムビーの事件は、今ではここ日本でも起き続けている。アメリカと違い軍隊を持たない日本はゾムビーの対処に手こずっていてな、新たな団体を作り上げなくてはならなくなって来た」

「それが……」

「ゾムビー撲滅協会……というのか……」

爆破と杉田は口々に言う。

「そうだ……今は未だ、設立中といった感じだ。自衛隊や、公安から協会の人員を引き抜くつもりでいる」

「そうか……。なら何故私達にそんな情報を……?」

「この情報を君達に話したのは他でもない。爆破スマシさん、君にも我が協会に参加して欲しいからだ!」



「!?」

「!!」



「ま……待て」

爆破は続ける。

「まだ私は、中学二年生なんだぞ? そんな年の者を、自衛隊や公安達と同等の団体と一緒に活動させる気か!?」

「まあ待て」

男は右手を差し出して、言う。

「今すぐにとは言わん。二十歳を過ぎた頃、我が協会に入ってほしい。まずは18の時に、防衛大へ行くんだ! 卒業後は陸上・海上・航空自衛官に任官し、協会の活動に協力してもらいたい」

「――」

爆破は男を睨む。

「何故――、何で今日会ったばかりの男に、そこまで決めつけられて、従わなければならんのだ?」



「この国の為だ」



「!?」

「しいてはこの町の為、爆破スマシさんの家族の為、隣にいる、男性の為だ」

「!! ……(好実の……為……)」

爆破は考え込んだ。男はジッと見つめている。ふと、爆破は杉田に視線を送った。杉田は男を真剣な眼差しで見つめていた。

(好実……)

爆破は口を開いた。

「分かった。将来的には、その協会へ入ろう」

ほっと安堵の表情を浮かべる男。

「良い返事を聞けて良かった。これが私の連絡先だ」

男は名刺を渡してきた。

「では――、な」

名刺を渡すなり男は帰って行った。



「……」

「……」



杉田が爆破の方を向いて、言う。

「なーんか、いきなり出て来て嵐のように去って行ったな」

「ああ、何もかもが、急過ぎだ」

爆破は返した。

「それにしても、防衛大かー。あんまり遊べなさそう。体力テストとかあるのかなぁ。」

「……」

爆破は俯く。

「ま、いっか。3年先に待ってるぜ、スマシ!」

キョトンとする爆破。

「あ、ああ……。待っていてくれ」

「それにしても、定期試験、受験、ゾムビー退治に、スマシは大変だなー。苦難に満ちている。でもまあ、生きるコト自体が苦難に満ちているな。飢え、老い、病気と様々な苦難がある。しかし、生きているからこそ俺達は巡り合えた。生きてきた結果だ。俺はこの縁を大事に、これからも生きて行こうと思う。そして、スマシもそう生きていってくれ」

「ああ、分かった」

爆破は少し表情が緩んだ様子だった。



数日後、爆破の通う中学校にて――、

昼休みにブーブーと、爆破の携帯が鳴った。例の、スーツ姿の男からの電話だった。爆破は電話に出てみる。

「爆破スマシだ、何だ?」

「やあ、協会の者だ。○○高校に、ゾムビーが大量発生した。至急、向かって欲しい」



「○○高校……!?」



「どうした?」



(好実の……高校……!)



爆破は思いを巡らせる。



十数分後――、

爆破は○○高校着いた。



「ぎゃああああ!!」

「わああああ!!」



高校は悲鳴で満ちていた。高校生の殆どが校門から敷地外へ逃げていくが、爆破は反対に敷地内に足を運んで行った。





「タタタタタタタ!!」





銃声が鳴り響く。恐らく、自衛隊か公安部隊の者が、ゾムビーと交戦しているのだろう。

しかし爆破は、そんな事はどうでも良かった。



(好実は無事なのか……?)



爆破は杉田の身を案じていた。

「好実ぃ――! 居るのか――!?」

爆破が校内を叫びながら進んでいく。すると、廊下の曲がり角に人影が……。

「好実……」

爆破は近付いていった。



しかし――、

「ゾム……」



そこに居たのはゾムビーだった。

「(!? キサマか!!)バースト……」



「ボッ!!」



ゾムビーは木端微塵となった。爆破は暫く校内を進んで行く。

すると――、

「君、何をしているんだ? ここの生徒じゃないな?」

武装した男性が話し掛けてきた。

「ここにいては危ない。さあ、外へ出るんだ」

「嫌……だ……」

「何だって?」

「嫌だ、私も戦える。それに――」

「!?」

「私の彼氏がおるのだ。無事か……心配で……」

「なら僕達に任せて、ここから離れるんだ」

「嫌だ!!」





「ボッ!! パリィイイン!」





近くの窓ガラスが、大きな音を立てて爆発した。

「!? これは……?」

「私の能力だ。空間を爆発させる。ゾムビー撲滅協会の男とも、面識がある」

爆破は協会の男の名刺を見せる。

「ふぅむ、参ったな……仕方ない。君もゾムビー退治に協力してもらうか」

「言われなくても!」

爆破達は今、高校の第一棟に居た。この高校は全部で三つの棟がある造りとなっていた。



「ジッジジ」



武装した男性の持っていたトランシーバーが鳴った。

『こちら第一棟三階、隈なく回った、どうぞ』

『こちら第一棟二階、隈なく回った、どうぞ』

「了解。一階も大丈夫そうだ第二棟、第三棟に向かうぞ」

トランシーバーを切る男性。

「さて、君はどうする?」

「わ……私は……」

暫く考え込む爆破。

そして、口を開く。

「二棟、第二棟に行ってみる!」



○○高校、第二棟にて――、

遠くで銃声が聞こえる中、爆破は棟内を進んで行く。
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