3 / 4
Ep.2 惨状
しおりを挟む
扉を開いた瞬間から、ぐっと空気が重たくなった。
酷く暗く、頭上にある非常灯の緑色が辛うじて俺の周り、つまり扉の辺りをぼんやりと照らしている。しかし、前を向けばその先は闇。ほとんど何も見えない。
視覚情報が入ってこないからか、
「血……だ」
生臭い香りが鼻を突く。
それに、なにか腐ったような匂いも。
俺は身震いした。足が竦み、呼吸が浅くなる。
ゲームならいざ知らず、とてつもない緊張感に襲われて動けない。おいおい、夢だって言ってんだろ、俺。いざとなったら目覚めればいいんだし。そう突っ込んでみたものの、何故か手が震える。思わずしゃがみこみ、壁に手を付いた。
「……あ」
ちょうど足元に、何か転がっていた。細かくは見えないが、ちょうど手のひらサイズの塊。ストラップ紐のようなものが薄ら光っている。手に取ると、金属の冷たい感触と、片側に……ボタンが一つ。
押し込むと、カチリ、と音がして光が一筋暗闇を照らした。どうやら小型のペンライトらしい。
「ほんと…ゲームみたいだな……」
明かりを手に入れて、少しだけ落ち着いた。闇雲に歩き回るのは怖すぎる。
俺は壁に手を添わせたまま、ゆっくりと立ち上がった。手にしたライトを掲げ、通路の奥を照らす。
「……っ!」
突き当たりの正面の壁に寄りかかり、項垂れる男の姿があった。
表情は不明。白衣らしきものを纏い、ピクリとも動かない。投げ出された足の周りにどす黒い血溜まりが広がっている。
生きているのか、死んでいるのかは分からない。
俺はその姿をしっかりと照らしたまま、ゆっくりと歩み寄る。目を離さず、少しでも動いたら立ち止まるよう心の準備をしながら。
あと数歩で彼に手が届く、と言うところまで来た。男に変わった様子は無い。そこで、一旦ライトを彼から逸らし、右に続く廊下を照らすことにした。相変わらず暗い道の先には点々と血が着いており、その先には頑丈そうな扉が閉まっている。
とりあえず、この男に注意を向けていたせいで突然襲われる、なんてことは無さそうだ。
俺はそっと男に向き直ると、改めて全身を観察した。
白衣は血で汚れている。首から名札のようなものを下げており、辛うじて苗字が「クラキ」と読めた。ここの医者だろうか?勇気をだして、白衣のポケットを探ったが、特に何も持っていない。
足からの出血が酷く、素人目に見ても、命に関わる量が流れ出ていると分かる。
そんな中、気になったのは2つ。まず、彼の右手に握られた油性ペンだ。キャップが外されていて、ペン先が乾いている。
もう1つ、それは彼の出血箇所だった。ズボンと共にふくらはぎの肉がえぐり取られている。まるで何かに噛みちぎられたような、そんな印象を受けた。
目を閉じ、深呼吸をしてから、彼の周囲を注意深く見る。メモ帳の類はなく、床に何か書かれた痕跡もない。では、どうして彼はペンを持っていたのだろう?
「これは……!」
見つけたのは、遺体の頭上に引かれた黒い線。力尽きるように彼の頭上で途切れているが、辿っていけば先程照らしたこの先の通路へと続いている。
「自分の通ってきた道を、示そうとしていたのか…?」
単純に考えれば、彼はこの先の頑丈そうな扉から逃げてきて、出口を目指したが、たどり着く前にここで事切れてしまったのだろう。
俺は生唾を飲み込んだ。出口のカードキーを見つけるためには、先に進まなければならない。それは、この先に潜む恐怖と対峙するかもしれない、ということだ。これは序章に過ぎない。
最後にもう一度だけ、亡骸を見つめてから立ち上がる。申し訳ないが、彼はこのまま置いておくしかないだろう。
扉へと続く線は、彼からのメッセージのような気がした。
「……行くか」
俺はそっと遺体から離れる。金属製の扉に向かって歩きながら、焦ったように乱れる黒い線を目で追う。
扉は閉ざされていたが、ノブを回すと鍵はかかっていないようだ。
意を決して、俺は扉を開いた。
酷く暗く、頭上にある非常灯の緑色が辛うじて俺の周り、つまり扉の辺りをぼんやりと照らしている。しかし、前を向けばその先は闇。ほとんど何も見えない。
視覚情報が入ってこないからか、
「血……だ」
生臭い香りが鼻を突く。
それに、なにか腐ったような匂いも。
俺は身震いした。足が竦み、呼吸が浅くなる。
ゲームならいざ知らず、とてつもない緊張感に襲われて動けない。おいおい、夢だって言ってんだろ、俺。いざとなったら目覚めればいいんだし。そう突っ込んでみたものの、何故か手が震える。思わずしゃがみこみ、壁に手を付いた。
「……あ」
ちょうど足元に、何か転がっていた。細かくは見えないが、ちょうど手のひらサイズの塊。ストラップ紐のようなものが薄ら光っている。手に取ると、金属の冷たい感触と、片側に……ボタンが一つ。
押し込むと、カチリ、と音がして光が一筋暗闇を照らした。どうやら小型のペンライトらしい。
「ほんと…ゲームみたいだな……」
明かりを手に入れて、少しだけ落ち着いた。闇雲に歩き回るのは怖すぎる。
俺は壁に手を添わせたまま、ゆっくりと立ち上がった。手にしたライトを掲げ、通路の奥を照らす。
「……っ!」
突き当たりの正面の壁に寄りかかり、項垂れる男の姿があった。
表情は不明。白衣らしきものを纏い、ピクリとも動かない。投げ出された足の周りにどす黒い血溜まりが広がっている。
生きているのか、死んでいるのかは分からない。
俺はその姿をしっかりと照らしたまま、ゆっくりと歩み寄る。目を離さず、少しでも動いたら立ち止まるよう心の準備をしながら。
あと数歩で彼に手が届く、と言うところまで来た。男に変わった様子は無い。そこで、一旦ライトを彼から逸らし、右に続く廊下を照らすことにした。相変わらず暗い道の先には点々と血が着いており、その先には頑丈そうな扉が閉まっている。
とりあえず、この男に注意を向けていたせいで突然襲われる、なんてことは無さそうだ。
俺はそっと男に向き直ると、改めて全身を観察した。
白衣は血で汚れている。首から名札のようなものを下げており、辛うじて苗字が「クラキ」と読めた。ここの医者だろうか?勇気をだして、白衣のポケットを探ったが、特に何も持っていない。
足からの出血が酷く、素人目に見ても、命に関わる量が流れ出ていると分かる。
そんな中、気になったのは2つ。まず、彼の右手に握られた油性ペンだ。キャップが外されていて、ペン先が乾いている。
もう1つ、それは彼の出血箇所だった。ズボンと共にふくらはぎの肉がえぐり取られている。まるで何かに噛みちぎられたような、そんな印象を受けた。
目を閉じ、深呼吸をしてから、彼の周囲を注意深く見る。メモ帳の類はなく、床に何か書かれた痕跡もない。では、どうして彼はペンを持っていたのだろう?
「これは……!」
見つけたのは、遺体の頭上に引かれた黒い線。力尽きるように彼の頭上で途切れているが、辿っていけば先程照らしたこの先の通路へと続いている。
「自分の通ってきた道を、示そうとしていたのか…?」
単純に考えれば、彼はこの先の頑丈そうな扉から逃げてきて、出口を目指したが、たどり着く前にここで事切れてしまったのだろう。
俺は生唾を飲み込んだ。出口のカードキーを見つけるためには、先に進まなければならない。それは、この先に潜む恐怖と対峙するかもしれない、ということだ。これは序章に過ぎない。
最後にもう一度だけ、亡骸を見つめてから立ち上がる。申し訳ないが、彼はこのまま置いておくしかないだろう。
扉へと続く線は、彼からのメッセージのような気がした。
「……行くか」
俺はそっと遺体から離れる。金属製の扉に向かって歩きながら、焦ったように乱れる黒い線を目で追う。
扉は閉ざされていたが、ノブを回すと鍵はかかっていないようだ。
意を決して、俺は扉を開いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
逢いたい人がゾンビになって出てくる世界にて
ハル
ホラー
アナタはもうこの世からいなくなってしまった人……、つまり死んだ人に逢いたいと思いますか? ちなみに僕は思いません。それが何か?????
数年前から確認されている死者蘇生変異『謎のイキカエリ事件』。何らかの条件で発生する事件を究明する機関と、その死者即ちゾンビを世間に知られる前に殲滅させる組織と、それになりたい女子校生の喜劇と悲劇といろんな何かの復讐劇。
(身体精神破壊欠損・軽度のBLGL表現ありなのでR15指定にさせて頂きます)
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる