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ヒート2
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俺はあいつの出て行った方を見つめながら、しばらくボーッとしていた。
そうしていると、段々と体の熱が覚めていき、思考もクリアになっていく。
「何も、されなかった……?」
疑問を頭に浮かべながら、あいつが最後に言ったことを思い出す。
とりあえずズボンを履く。
扉を少しだけ開けて外の様子を伺うと、グレイヴは遠くで壁に寄りかかり立っていた。
こちらに気づき、ある程度近づいたところで止まる。
「もう、大丈夫そうか?」
コクリと頷く。
「そうか」
グレイヴは今度は近くまで寄ってくると何かを確認した。
「薬がちゃんと効いたみたいでよかった」
「入れば?」
「ああ」
保健室に入ったグレイヴはソファに座る。
俺はグレイヴと距離を開けて端に座った。
少しの沈黙の後、俺は聞いた。
「……薬って抑制剤だよな」
「そうだ」
「薬を飲ませるために俺を保健室に?」
「ああ、とても辛そうだったから落ち着いたところで早く飲ませてあげようと思って」
「そうか」
意外と良心のある奴なのかもしれない。
「嫌だったか?」
フルフル首を横に振る。
「良かった」
グレイヴは安心した顔で笑う。
「俺が薬はないって言った後……」
「っ!あれは、すまなかった!!」
「ヒート中のΩは本能的に行動するようになる。抑制剤を隠したり、飲ませようとしても拒否したりするが、それは本来の意思とは異なる場合がある。と昔読んだ本に書いてあった」
「だから、どこかに隠し持っているかもしれないと思って、探そうとしたんだが、その、まあ、探しづらかったから仕方なく……と言っても言い訳にしかならないだろうが」
「いや、いいんだ。緊急時だったし」
αだけど、Ωのことをちゃんと考えている。
理解している。
「正直、俺はお前に犯されると思ってた」
「俺はそんなことはしない!それだけは確かだ。信じてくれ」
「それはもうわかってる。でも俺は本気でそう思ってたし、あの薬は避妊薬に見えてた。だから、拒否した」
俺はずっと、自意識過剰だったのかもしれない。
「……すまない。怖い思いをさせた」
こんなただ優しい奴が、俺を襲うなんて考えそうもない。
「お前は何も悪くない。俺が怖がり過ぎてただけだ」
「いや、怖がるのは当たり前だ。ヒート中のΩは弱くなる。警戒はしないと、命を落としかねない」
「……普段、Ωは弱いと言われるのは腹が立つ。でも、こればっかりは認めざるを得ない」
ヒートになりαと出会ってしまった事に驚き錯乱し、しかし簡単に体を許した。
自分が弱い人間だと、身につまされた。
膝を抱え顔をうずめる。
「俺を見つけたのがお前で良かった。俺は嫌だ嫌だと思っていても、なんの抵抗も出来ずに、お前に運ばれて薬を飲まされた。今回は違ったから良かったけど、これが俺の想定した通りになっていたらと思うと、ゾッとする」
「それは俺もゾッとする。本当に俺で良かった」
グレイヴをチラリと見ると真っ直ぐな瞳と目が合い、胸がザワザワした。
決して嫌なざわめきではなくて、むしろ暖かくなるような不思議なざわめき。
それは、初めて出会い目が合った時と同じで、今度は恥ずかしくて目を逸らした。
「俺は昔からαが大嫌いだ。だけどお前なら、好きになれそうな気がする」
「それは、とても嬉しいな」
そうしていると、段々と体の熱が覚めていき、思考もクリアになっていく。
「何も、されなかった……?」
疑問を頭に浮かべながら、あいつが最後に言ったことを思い出す。
とりあえずズボンを履く。
扉を少しだけ開けて外の様子を伺うと、グレイヴは遠くで壁に寄りかかり立っていた。
こちらに気づき、ある程度近づいたところで止まる。
「もう、大丈夫そうか?」
コクリと頷く。
「そうか」
グレイヴは今度は近くまで寄ってくると何かを確認した。
「薬がちゃんと効いたみたいでよかった」
「入れば?」
「ああ」
保健室に入ったグレイヴはソファに座る。
俺はグレイヴと距離を開けて端に座った。
少しの沈黙の後、俺は聞いた。
「……薬って抑制剤だよな」
「そうだ」
「薬を飲ませるために俺を保健室に?」
「ああ、とても辛そうだったから落ち着いたところで早く飲ませてあげようと思って」
「そうか」
意外と良心のある奴なのかもしれない。
「嫌だったか?」
フルフル首を横に振る。
「良かった」
グレイヴは安心した顔で笑う。
「俺が薬はないって言った後……」
「っ!あれは、すまなかった!!」
「ヒート中のΩは本能的に行動するようになる。抑制剤を隠したり、飲ませようとしても拒否したりするが、それは本来の意思とは異なる場合がある。と昔読んだ本に書いてあった」
「だから、どこかに隠し持っているかもしれないと思って、探そうとしたんだが、その、まあ、探しづらかったから仕方なく……と言っても言い訳にしかならないだろうが」
「いや、いいんだ。緊急時だったし」
αだけど、Ωのことをちゃんと考えている。
理解している。
「正直、俺はお前に犯されると思ってた」
「俺はそんなことはしない!それだけは確かだ。信じてくれ」
「それはもうわかってる。でも俺は本気でそう思ってたし、あの薬は避妊薬に見えてた。だから、拒否した」
俺はずっと、自意識過剰だったのかもしれない。
「……すまない。怖い思いをさせた」
こんなただ優しい奴が、俺を襲うなんて考えそうもない。
「お前は何も悪くない。俺が怖がり過ぎてただけだ」
「いや、怖がるのは当たり前だ。ヒート中のΩは弱くなる。警戒はしないと、命を落としかねない」
「……普段、Ωは弱いと言われるのは腹が立つ。でも、こればっかりは認めざるを得ない」
ヒートになりαと出会ってしまった事に驚き錯乱し、しかし簡単に体を許した。
自分が弱い人間だと、身につまされた。
膝を抱え顔をうずめる。
「俺を見つけたのがお前で良かった。俺は嫌だ嫌だと思っていても、なんの抵抗も出来ずに、お前に運ばれて薬を飲まされた。今回は違ったから良かったけど、これが俺の想定した通りになっていたらと思うと、ゾッとする」
「それは俺もゾッとする。本当に俺で良かった」
グレイヴをチラリと見ると真っ直ぐな瞳と目が合い、胸がザワザワした。
決して嫌なざわめきではなくて、むしろ暖かくなるような不思議なざわめき。
それは、初めて出会い目が合った時と同じで、今度は恥ずかしくて目を逸らした。
「俺は昔からαが大嫌いだ。だけどお前なら、好きになれそうな気がする」
「それは、とても嬉しいな」
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