26 / 26
【幻獣ヤクザを知った】
『始まりの初まり』
しおりを挟む
カラオケ店で働いていたのは、前述した。
意識してみると、店の周りに暗い雰囲気の男性が立っていることが分かった。
調べてみるとその人物はやはりヤクザで、違法な風俗店への客引き目的に立っているのであった。
このように、私の仕事場はヤクザの情報を集めるには格好の場所だった。
さらに、学生時代に知り合った弁護士の先生に「麻薬の取引に関する裁判が行われる」などの、暴力団がらみの情報をもらえば、積極的に傍聴席に座った。
傍聴席に行くために法廷の扉を開けた瞬間に、紫色のシャツを着たパンチパーマの男性が座っており、私たちを睨みつけてきたことがあった。
裁判後に弁護士に聞いてみたところ、
「途中、暴力団関係者が覚醒剤の売買に関して証言者として呼ばれてたでしょう? その組員が口を滑らせないかどうかの、目付役だね。よく居るよ~」
と、のほほんと答えられたこともある。
裁判を見てきて思ったことは、司法の『ナチュラル』が『全くナチュラルではない』ことだった。
まず、出廷した証言者が裁判官から氏名・年齢・職業などを質問する。
すると・・・・・・
「○○。四五才。ヤクザです」
こう答える。
いやいや・・・・・・職業なのか、と・・・・・・
「原告との関係性は?」
「覚醒剤を売りました」
いやいや・・・・・・その場で逮捕しろと・・・・・・
日本の伝統というのか・・・・・・なかなかに諸外国からは理解が得られないであろう場面に出くわすことが多い。
最たる例のひとつに『三社祭り』があるであろう。
神社を抜けた瞬間に、男も女も法被を脱ぎ捨て、刺青の華が路上にいっぱいに咲き誇る。
私はカメラを片手に、おずおずと、龍を背負った御方に声をかけて写真の許可を求めた。
すると・・・・・・
「おお!! ええぞ!! おーいお前ら!!」
なんとOKしてくれただけではなく、他の関係者を呼んでくれた。
厳つい人間たちが(男女)集まり、その光景をパシャリと撮る。
「ありがとうございました。最高の写真が撮れました」
「いいんだよ!! 俺らも今日くらいしか写真に写ることもないからな!! あとは逮捕されたときか!! ガハハ!!」
こう言って顔をクシャッとしながら笑っていた。
その姿は、犯罪者集団というよりも、タトゥーアーティストの集団のような雰囲気で陽気であった。
さて、なぜ私が極道などを中心に物を書くようになったのかの核心が、あった。
それは、パンデミックの序盤。
二〇二〇年五月中旬。
東京都知事がテレビ会見で『感染拡大を防止するためには、飲食店、カラオケ店などーーーー』と口にしたその瞬間から客が来なくなった。
延々とバックヤードで待ち続けても、常連客すらひとりも来ない。
一日、三組も来れば御の字だった。
店長も他の店にヘッドハンティングされていた身だったので、変なテンションになり、
「もうチャイムが鳴るまでずっと休憩でいいよ~働いていることにしてあげるし~」
という状態になっていた。
この店も、もう風前の灯火ーーーー
そんな諦めが充満した休憩室で、タバコを吸いながら物思いに耽っていた。
と、
ピンポーン♪
お客様だ。
休憩中なので、店長が応対をしていた。
だが、
「ちょっと一端入ってくれない? 久々に団体客で」
と、呼ばれたのだ。
私もヒマなのはあまり好きではないので、制服を着て応援に駆けつけた。
本当に久し振りの一〇人単位の団体で、酒の単品注文が極端に多かった。
これは忙しくなるぞ・・・・・・
そう思っていた。
しかし、グラスを両手で一〇個持ってボックスに行ったとき・・・・・・
「ご注文のお品、お持ちしました~」
「おう。店員さんここに置いといて」
「かしこまり・・・・・・」
手前の、団体の代表であろう人物の手を見てギョッとした。
指がない。
それも、小指は根元までなく、薬指と中指もスッパリ切断されていた。
私の視線が伝わってしまったのだろう。
男性が歌っている他の客に気を遣って、小声で、
「ヤンチャは若いうち。年取ってからのヘマはあかんで」
と耳打ちしてきた。
ボックスの扉が閉まった途端に、汗が止まらなかった。
そしてそのことを店長に伝えると、
「あ~そう。アルバイトの子たちには行かせないで、僕たちで応対しよう」
こう言われた。
そして、コレが最後の出勤日になった。
次の日には会社から書類が一枚だけ送られ、一時的な臨時休業。
それが完全な閉店となることは、店長のラインからでも充分に分かっていた。
最後の客がヤクザ。
このことが私に、極道を書くという天啓を与えてくれたのだと信じている。
ただ『カッコイイ』
ただ『悪が好き』
ただ『アングラに興味がある』
そんな覚悟ではない。
それが伝われば、充分だ。
ちなみに最後の最後で意味のある情報かどうか迷うのだが、ここで豆知識。
カラオケ店で働いていて分かったことなのだが・・・・・・
『ヤクザは歌がめちゃくちゃ上手い』
以上。
意識してみると、店の周りに暗い雰囲気の男性が立っていることが分かった。
調べてみるとその人物はやはりヤクザで、違法な風俗店への客引き目的に立っているのであった。
このように、私の仕事場はヤクザの情報を集めるには格好の場所だった。
さらに、学生時代に知り合った弁護士の先生に「麻薬の取引に関する裁判が行われる」などの、暴力団がらみの情報をもらえば、積極的に傍聴席に座った。
傍聴席に行くために法廷の扉を開けた瞬間に、紫色のシャツを着たパンチパーマの男性が座っており、私たちを睨みつけてきたことがあった。
裁判後に弁護士に聞いてみたところ、
「途中、暴力団関係者が覚醒剤の売買に関して証言者として呼ばれてたでしょう? その組員が口を滑らせないかどうかの、目付役だね。よく居るよ~」
と、のほほんと答えられたこともある。
裁判を見てきて思ったことは、司法の『ナチュラル』が『全くナチュラルではない』ことだった。
まず、出廷した証言者が裁判官から氏名・年齢・職業などを質問する。
すると・・・・・・
「○○。四五才。ヤクザです」
こう答える。
いやいや・・・・・・職業なのか、と・・・・・・
「原告との関係性は?」
「覚醒剤を売りました」
いやいや・・・・・・その場で逮捕しろと・・・・・・
日本の伝統というのか・・・・・・なかなかに諸外国からは理解が得られないであろう場面に出くわすことが多い。
最たる例のひとつに『三社祭り』があるであろう。
神社を抜けた瞬間に、男も女も法被を脱ぎ捨て、刺青の華が路上にいっぱいに咲き誇る。
私はカメラを片手に、おずおずと、龍を背負った御方に声をかけて写真の許可を求めた。
すると・・・・・・
「おお!! ええぞ!! おーいお前ら!!」
なんとOKしてくれただけではなく、他の関係者を呼んでくれた。
厳つい人間たちが(男女)集まり、その光景をパシャリと撮る。
「ありがとうございました。最高の写真が撮れました」
「いいんだよ!! 俺らも今日くらいしか写真に写ることもないからな!! あとは逮捕されたときか!! ガハハ!!」
こう言って顔をクシャッとしながら笑っていた。
その姿は、犯罪者集団というよりも、タトゥーアーティストの集団のような雰囲気で陽気であった。
さて、なぜ私が極道などを中心に物を書くようになったのかの核心が、あった。
それは、パンデミックの序盤。
二〇二〇年五月中旬。
東京都知事がテレビ会見で『感染拡大を防止するためには、飲食店、カラオケ店などーーーー』と口にしたその瞬間から客が来なくなった。
延々とバックヤードで待ち続けても、常連客すらひとりも来ない。
一日、三組も来れば御の字だった。
店長も他の店にヘッドハンティングされていた身だったので、変なテンションになり、
「もうチャイムが鳴るまでずっと休憩でいいよ~働いていることにしてあげるし~」
という状態になっていた。
この店も、もう風前の灯火ーーーー
そんな諦めが充満した休憩室で、タバコを吸いながら物思いに耽っていた。
と、
ピンポーン♪
お客様だ。
休憩中なので、店長が応対をしていた。
だが、
「ちょっと一端入ってくれない? 久々に団体客で」
と、呼ばれたのだ。
私もヒマなのはあまり好きではないので、制服を着て応援に駆けつけた。
本当に久し振りの一〇人単位の団体で、酒の単品注文が極端に多かった。
これは忙しくなるぞ・・・・・・
そう思っていた。
しかし、グラスを両手で一〇個持ってボックスに行ったとき・・・・・・
「ご注文のお品、お持ちしました~」
「おう。店員さんここに置いといて」
「かしこまり・・・・・・」
手前の、団体の代表であろう人物の手を見てギョッとした。
指がない。
それも、小指は根元までなく、薬指と中指もスッパリ切断されていた。
私の視線が伝わってしまったのだろう。
男性が歌っている他の客に気を遣って、小声で、
「ヤンチャは若いうち。年取ってからのヘマはあかんで」
と耳打ちしてきた。
ボックスの扉が閉まった途端に、汗が止まらなかった。
そしてそのことを店長に伝えると、
「あ~そう。アルバイトの子たちには行かせないで、僕たちで応対しよう」
こう言われた。
そして、コレが最後の出勤日になった。
次の日には会社から書類が一枚だけ送られ、一時的な臨時休業。
それが完全な閉店となることは、店長のラインからでも充分に分かっていた。
最後の客がヤクザ。
このことが私に、極道を書くという天啓を与えてくれたのだと信じている。
ただ『カッコイイ』
ただ『悪が好き』
ただ『アングラに興味がある』
そんな覚悟ではない。
それが伝われば、充分だ。
ちなみに最後の最後で意味のある情報かどうか迷うのだが、ここで豆知識。
カラオケ店で働いていて分かったことなのだが・・・・・・
『ヤクザは歌がめちゃくちゃ上手い』
以上。
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
東京カルテル
wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。
東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。
だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。
その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。
東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。
https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はーちゃん恐い