【実録!! ~裏社会の瞳~】

KAI

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『韓国へGO!!』

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 Y口組直参大阪N西組構成員の井手氏は、今日も今日とて車磨き。



 しかし、組長がご機嫌でやってきた。



「井手ぇ!! お前いつか外国に行きたい言うてたな?」


「へい! 二〇年以上生きとりますけど、日本から出たことないンで」


「こちらのお客さんがなぁ! お前を気に入って、韓国に行こうじゃないかと言ってくれとるンや!」


「ホンマでっか!?」



 組長の後ろには、同じくY口組系列の組長がしながら立っていた。



「あんた、金もらっても女にも酒にもタバコにも使わないらしいじゃねえか」


「へえ・・・・・・女で人生狂ったし、酒もタバコもそこそこしか・・・・・・」


「珍しいヤツだなぁそんなんでヤクザやってられるか! こんな景気だ! 楽しまなきゃ損だぜ?」


「へい・・・・・・」


「おっしゃ!! 俺がヤクザな遊びを教えてやる! 韓国に行こうぜ!」



 そんなこんなで、井手はその日のうちにパスポートを取り荷造りを済ませた。



 ヤクザな世界でこんなご褒美・・・・・・ワクワクで胸から心臓が出そうだった。



 だが・・・・・・どうしてこんな一構成員に声をかけたのか・・・・・・



 それも別の組の・・・・・・



 不思議だった。



 その理由は、旅行の日に分かった。



 今でこそ暴力団関係者の入国を拒否する国もあるが、当時は関係なかった。



「おう! お前サイフは持っているか?」


「まあ」


「パスポートだけでよかったのによぉ! ぜぇんぶは俺が出してやる」


「ありがとうございます!!」


「よっしゃ行くか!!」



 だが・・・・・・二人だけ。



 組長ともなれば取り巻きやボディーガードの一人や二人当然。



 なのに、誰もいなかった。



「あの・・・・・・ワシら二人きりなんでっか?」


「なんか不満なのか?」


「いえいえとんでも・・・・・・」



 もしや・・・・・・『』があるのではないか・・・・・・



 刑務所で『そっち』に目覚めるヤクザも多い。



 井手はケツ穴の危惧をした。



 しかしーーーー



「井手ちゃん・・・・・・」



 搭乗時刻が近くなるにつれ、少しずつ組長の様子がおかしくなった。



 空港内の軽食屋でメシを食べているときも、無言。



 向こうの『』へのお土産を選んでいるときも、腹の具合が変になったかのような様。



「あの、組長?」


「あ、ああ?」


「どこか調子悪いンでっか?」


「そ、そんなことあるわけないだろう! こちとら生き馬の目を抜くようなヤクザ渡世でのし上がった組長だぜ? ハハハ・・・・・・」



 笑ってもどこか引きつっている。



 さて・・・・・・



「組長、そろそろお時間です。飛行機に行きましょ」


「お、おう・・・・・・」



 手荷物は全て井手が持っているのに、フラフラ車に酔ったかの如き歩き方だった。



 もちろん席はファーストクラス。



 シャンパンでもビーフステーキでも、なんでも思いのまま。



「飛んだら、まずは酒でも頼みまっか?」


「・・・・・・」


「組長?」


「あ? そうだな・・・・・・」



 その時の組長の顔は真っ青。



 オバケでも見たかのようだった。



『間もなく、離陸です。シートベルトを着用のうえ、ランプが消えるまでお酒、おタバコはご遠慮下さい』


「いよいよでんなぁ!」



 井手はテンションが高かった。



「お、おお・・・・・・」



 ヒュゥゥゥゥ!



 ゴォォォォォ!!



「やっぱし、飛行機っちゅうンはすごいですなぁ!!」



 窓からの綺麗な景色。



 白い雲海に、透き通る青空。



 カメラも少ない時代だった。



 文字通り、目に焼き付ける想いで眺めていた。



「ほら組長! ビルがあんなにちっこく・・・・・・」



 とーーーー



 ぎゅぅぅぅぅぅ!!



「・・・・・・ッッ!!」



 組長は目をつぶり、なんと井手の手を上から被せるようにガッシリ握りしめていた。



「こんな鉄の塊が浮くはずない・・・・・・ふざけてる・・・・・・ふぅぅぅ!!」


「あの・・・・・・組長?」


「お、落ちたら・・・・・・落ちたら・・・・・・」


「組長!」


「な、なんだエンジンでも爆発したか!?」


「ちゃいますって!!」


「ああ!! 金ならなんぼでも払ってやる!! すぐに降ろしてくれぇ!!」


「組長!! 落ち着いて!! 落ち着いて!!」



 組長の手からは雪解けの氷のように、汗がだらだらと分泌され、井手の手を湿らせている。本人は半狂乱しながら、他の客の目も気にせず声を荒げていた。



「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」


「組長・・・・・・?」


「い、井手ちゃん・・・・・・」


「ど、どないしました?」


「頼む・・・・・・頼むから気が逸れるような、日常の小話でもなんでもいいから話し続けてくれねえか・・・・・・?」


「へ、へい・・・・・・うちの組長は食事にうるさいタチでーーーー」



 ここから二時間半ものフライト時間、井手は延々と話し続け、組長は目を閉じながら口を真一文字にして聞き入っていた。



 二時間半後ーーーー



「ハァハァハァハァ・・・・・・」



 韓国の空港に着いても、組長は具合が悪そうだった。



「あの・・・・・・」


「・・・・・・便所行ってくる」



 便所でスッキリしたのだろう。



 しばらく待つと、肩で風を切るヤクザな歩き方な、組長が帰ってきた。



「よぉ!」



 何が「よぉ!」なのか・・・・・・



 あそこまで無様を晒しておきながら、急にヤクザエンジンをフル回転させられるなど、なかなかな肝の持ち主らしい。



「あの・・・・・・」


「・・・・・・まあ、お察しの通り。俺は飛行機がだ。だ。だ」


「はあ・・・・・・」


「だから、うちの組員は連れてこれなかったンだ。訳が分かったろう?」


「まあ・・・・・・」


「それじゃあ、行くか」




 空港にはすでに送迎用の高級車が来ていた。



「アンニョンハセヨ~!!」


「アンニョンハセヨ。ようこソ組長さン。さあ、ソウルで一番の店案内しまス。こちらへ」



 片言の、鼻が削ぎ取られている韓国人が、丁寧におもてなしをしてくれる。



 後部座席に乗り込み、二人は繁華街に出発した。



 その時だった。



 組長が運転手と案内人に聞こえない程度の声量で、井手の耳にこう語りかけた。



「もしも飛行機の中の俺を誰かに話したら・・・・・・って言わせてやる。覚えておけよ?」


「へ、へい・・・・・・!」


「そんじゃあ!! 楽しい観光と行こうか!!」



 切り替え方がえげつない。



 だが、裏社会に生きる男の弱点を見られた。



 なんだか得した気分になった、井手なのであった。



 ちなみに井手氏曰く、韓国旅行で一番楽しかったのは女でも酒でもなく、実銃をぶっ放す施設で思う存分コルトを撃ったことらしい。



 完
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