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第1章
【鶴の一声】
しおりを挟む翌日ーーーー
「あぁ? 殺人未遂の傷害致死ぃ?」
「そうだ。ついでに銃刀法違反だな」
県警の組織犯罪対策部第四課ーーーー通称『マル暴』とどのつまりは、対暴力団に特化した部署。
そこの顔馴染みの巡査部長が、落ち着き払った口調で告げる。
クインたちの存在を隠すことができたところまでは、龍敏の計算通りだった。
『自白あるいは自供』は法律の世界で最強の証拠なのだ。
龍敏があの場にいて、動機もあり、そして自白をした。
これ以上の証拠はいらない。クインの影など見せもしない、立派な芝居だった。
だが、罪状が軽すぎる。
そもそも、傷害致死に該当しないことは、しょっちゅう警察のお世話になっている龍敏には分かっていた。
あの場で拳銃を発砲し、それが原因でその場で死亡した。
コレが殺人以外の何だろう?
「あのトカレフこさえたんはワシで、その引き金ひいたんもワシ。なのに未遂に傷害?」
「ああ。刑は八年・・・・・・真面目に務めれば六年くらいで仮釈放だ」
「ちょと待った。ここは警察署の取調室で、裁判所じゃあらへんやろ?」
「・・・・・・鬼道は建造物損壊。執行猶予四年だ」
「もしもーし! ワシの声聞こえてまっかー?」
「他の千石組の逮捕者も保釈・・・・・・ただし、お前らを軽い処罰にする条件がある。控訴しないこと。以上だ」
取調室を出て行こうとした巡査部長を、龍敏はおちょくる。
「ヒヒヒ・・・・・・ダメだと言われるとやりたくなりますなぁ」
「いいから黙って聞け!!」
「のぅ・・・・・・マル暴で長い付き合いだから分かる・・・・・・アンタがヤクザ相手に生易しいわけないっちゅーことをなぁ」
警官の取り調べなので暴行などはしないが、眠らせない・ライトで目眩ましをする・鬼のような形相と声を浴びせかかり・その後に温和な刑事が優しい言葉をかけてくる・・・・・・あらゆるやり方で、元来口の堅い極道者から真相を暴こうとする。
それが、マル暴だ。
だが、龍敏は大人しいタチではない。
毎回取り調べでは椅子を握って大暴れ。
噛みつき・蹴り・ツバを吐く。
あらゆる世の中のクズを相手にしている歴戦の刑事たちでも「アイツの取り調べだけは勘弁してくれ」と願い出るほどだ。
「・・・・・・」
「またいつかの時みたく、この部屋で取っ組み合いするの楽しみにしとったンやけど」
「・・・・・・これはオフレコだが・・・・・・エルフ大使館からの鶴の一声だ」
盗聴器でも仕掛けられているような、蚊の羽音のごとき小声。
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