DANCING・JAEGER

KAI

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第1章

【千石龍敏という狂人】

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 遠くからボーと船が離岸する音が聞こえてくる。


 鼻腔に届くは潮の香り。


 そしてこの、錆びだらけの廃倉庫。スリーアウト、チェンジと言ったところだろう。


 カチリ・・・・・・


「親父の仇じゃ!!」


 パァァァンッッ!!


 雷鳴のような破裂音は、赤鏥の壁を蹴り上げながら乱反射し、倉庫を満たす。


 ドサリと、重い肉の塊が地面に伏す音が、その理由と相反するようにゆっくりと静かに聞こえる。


 肉塊の隣には、膝をつき手足を縛られ、口にはガムテープを貼られた哀れな男たちが全身の穴という穴から体液を流して怯え震えていた。


 素肌に革ジャン。もう一度言おう。『素肌』に『革ジャン』という絶望的センスな男が、険しい顔をしながらサングラス越しに自分の手で殺した男を睨みつけていた。


 だが、急に笑顔になる。


 剥き出した歯は意外にも綺麗で、えくぼが出るところなどは若干あどけなさが残っているのだった。


「どうやった? ええ!? どうやった!!」


 リボルバーを持った手を振り回しながら、後ろに控えていた男たちに訊いてみる。


 彼らもそこまで年を取っている印象はなく、どこか無邪気な子供の集まりのような、そんな雰囲気が漂っている。


「いや~絵になってましたよ!」

「さすが若!!」

「ヨッ! 名俳優!!」


 全員が賛辞を与えてくるので、革ジャンの男も上機嫌だ。


「ほんなら次は何にしよかな?」


 ガチャリ・・・・・・


 撃針を下ろして撃てるようにすると、哀れちゃんたちが震え上がる。


 うーうー唸っているのは、おそらく命乞いをしているのだろう。無駄だが。


「アレどうでしょうか?」

「アレってどれや」

「ほら! 広島の映画・・・・・・」

「ああ~ええなぁ!! ほな!!」


 次の男の前に立ち、革ジャンは中腰になってリボルバーを両手で抑える。


 そして・・・・・・



「弾はまだ、のこっとるがよ・・・・・・」


 パァァァンッッ!!


 ドサリ・・・・・・


「・・・・・・撃ってみて思ったんやけど、これ決めゼリフちゃうな」

「そうですか? 様になってましたよ!!」

「ヨッ! ニッポンイチ!!」


 この命をオモチャのように扱っている狂人、名を『千石せんごく 龍敏たつとし





 横浜を拠点とする暴力団『千石組』の組長の実子であり、同団体の傘下組織『喧風一家』の総長を務めている。


 とは言ってもこの数分のやりとりで解る通りのイカレポンチであり、組に迷惑をかけることがしょっちゅうある。    


 指がまだ全部あるのも、組長の息子であるからだ。


 歳はまだ二七才。それでも立派な大黒柱として、こうして若い衆も従えている。


「さてお次は・・・・・・」


 その時だった。


 ガララッッ


「オドレら誰じゃゴラァ!!」


 取り巻きのひとりが果敢に乱入者へ威嚇するも、効果はなかった。


 それどころか、追い出そうとして掴みかかったところ蹴られて壁まですっ飛んでいった。


 こんな怪力、龍敏には誰なのかがすぐに分かった。


「クインか!! こらぁウチのボンクラがご挨拶ですんませんでしたなぁ」


「・・・・・・龍敏」


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