死が二人を分かつまで

”アイドル篇”

【欠けたピース】

　二人で歩き出すが、話題がない。



「その･･････お前ってさ、アイツと付き合ってんの？」



　目も合わせずに、ゴウが言った。



　キョトンとするセツナ。



『誰のこと？』


「アイツだよ。新樹･･････大臣の息子様」



　少し･･････セツナはムッとなった。



『彼は偉い人の息子であることを鼻にかけたりしない』


「そうか？　いつでもタクシー移動で、噂じゃあ機動隊が家を守ってるらしいじゃん･･････羨ましいねえ。権力者の子供ってのは」


「･･････」



　セツナは不機嫌になり、前しか見なくなった。



　数メートル歩いたところで、



「･･････悪い」



　ばつが悪そうにゴウが。



「こう･･････癖なんだよ･･････育ちが良いヤツ見ると･･････口が滑っちまう」


「･･････」


「･･････俺さ、親がいねえんだよ」



　同情を誘おうというような気配はしない。



　夜空に溶けていく言葉を紡いでいるだけだった。



「施設で育ってさ･･････ま、いい人ばかりだったんだけど、なんて言うのかな･･････特別扱いしてもらえないんだよな」


『特別？』


「そう。当たり前って言われちまうかもしれないし、施設じゃもちろんだけど･･････でもさ、親って自分の子供を特別扱いするモンじゃん？」


「･･････」


「なんか平等に平等に･･････って感じの接し方でさ。良くも悪くも、皆と同じなわけ。だから注目されたくて･･････色々したりして･･････」


『手がかかる子供だったのね』


「･･････いじめられたんだよ･･････みなしご･･････そういうのマジでムカつく」



　ゴウの声のトーンがさらに低くなった。



「誰が好き好んで親無しになるかって･･････自分じゃあどうにもできないことでいじめられると･･････めちゃくちゃ腹が立つ」


『我慢できなかった？』


「･･････そうだな。何人も殴った･･････そのうち、さ･･････誰も俺をいじめなくなった･･････けど、それと同時に誰も寄りつかなくなった」


「･･････」


「ずっとひとりぼっちで･･････でも、感情の伝え方が下手くそで･･････暴力か、悪口でしか相手に意志を伝えられなくて･･････だから、さっきも新樹のことディスっちまった」


『･･････今でもそうなの？』


「さすがに暴力癖は治したよ･･････でも、アイドルなんか俺に似合わないって悩んでたんだけど、今日で吹っ飛んじまった」


「･･････？」


「あの丹波ってヤクザ見てさ･･････部下を平気でぶっ叩いてたろ？　アレ見て思ったんだよ･･････あのまま暴力の世界に生きていたら、俺もああなっていたな･･････って」


『イイ子』


「ガキ扱いするんじゃねーよ」