死が二人を分かつまで

”VS最強編”

【ウォーミングアップ】

　ビュボボッッ！！



　シュッシュッ！！



「おお～仕上げてますねぇ」



　シャドーボクシングを続けているのはジャック・ブライン。



　おおよそ準備運動という言葉では追いつかないほど、追い込んでいる。



「筋肉が･･････」


「ええ。膨張している」



　黒い肌には血管が浮き出て、元から太かった腕は膨らみ丸太のようになっている。



「パンプアップ･･････適切な運動により、筋肉を肥大化させる技術」


「可能なんですか･･････？」


「通常は食事やドリンク、それにストレッチなどで見られる現象ですが･･････肉体を動かすだけで、筋肉を増強させるとは･･････天然のドーピングと言っても過言じゃない」



　よいしょ･･････と、芥川はその間にある物を用意していた。



「コレでいいですね」



　三脚に、自分のスマートフォンをセットし、録画ボタンを押す。



「撮るんですか？」


「今年は技術を見返す機会も多いかと思いまして。お二人に共有できるよう、映像に残しておこうかと」


「･･････先生は準備運動は？」


「う～ん･･････してますよ？」



　新樹はよく分からなかった。



「してる？」


「ブラインさんを見ています」


「･･････？」


「ああいう方を見てしまうと･･････うずうずして･･････ほらぁ」



　芥川の手と肩が震えている。



「うれしくって･･････楽しみで武者震いが止まらないじゃないですか･･････彼を観察している方がよっぽど、イイ準備運動になる」



　シュビッッ！！



　ボッ！！



　にしても･･････



「試合が秒殺が多すぎて分からなかったですけど･･････ジャック・ブラインの動きって少しクセがありますね」



「クセじゃない･･････アレは合理的な、打突の動きです」



　一見すると、正中線がぶれているかのような一打。



　しかし、芥川によるとそうではないらしい。



「人体の急所が集まっている正中線を相手から隠している。それと同時に、肩甲骨までもを使ってパンチを繰り出している」


「どういう？」


「ま、百聞は一見にしかず･･････」



　ウォーミングアップ中のブラインを横目に、芥川はサンドバックの前へ。



「肩と腕だけでの打撃ではパワーの限界がある」



　芥川が一発･･････



　ドン！



　サンドバックは揺れる。



「しかし･･････正中線を相手からずらし、尚且つ、腰・両方の肩甲骨・肩・腕と力を移して放つ一撃は･･････」



　シュッ！



　ドンッッ！！



　サンドバックがぐぅん･･････と揺れる。



「威力が違う･･････一撃で相手を沈められる･･････急所を隠せる･･････とてつもなく合理的です」


「ボクシングってすごい･･････」


「一応、日本にも同じような術技があるんですよ？　左右の肩甲骨を『夫婦めおと』と見立てて、体重を拳に乗せる･･････古流空手の技です」



　さて･･････



　息がいい具合に熱を帯びている汗を流したブラインが、動きを止めた。



「･･････OK･･････準備ハ出来タ」