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”各々の年越し”
【芥川の愉悦】
しおりを挟むセツナは寝た・・・・・・
安心しきった顔で、スヤスヤと寝息を立てている。
ドアの隙間から芥川が、それを見て安堵した。
天使の安息ーーーー
形容としてはまったく足りないが・・・・・・そんなところだ。
パタン・・・・・・
そのまま自分の部屋にーーーー
ではなく、階段の下へ向かった。
道場?
稽古?
違う。
武術の世界にとどまらず、メンタル維持は大切だ。
ある者は恋のために・・・・・・ある者は金を見て。
またある者は名声を得て・・・・・・ある者は夢を見て・・・・・・
様々な方法で、己を奮い立たせる。
それは、芥川とて同じこと。
日々が如何に過酷でも。
武術家として油断できない日々であろうと。
精神衛生上の『整い』は欠かせない。
道場のさらに奥・・・・・・
壁にかかっている巨大な鏡ーーーー
トスッ・・・・・・
ガコ・・・・・・
なんと隠し扉・・・・・・
簡単には動かない。
的確な場所を的確な力で小突き、ようやく開く。
さらに下へ続く階段が現れた。
明かりがなく、薄暗い。
トントン・・・・・・
トントン・・・・・・
鉄製の扉が。
懐に隠していた鍵を差し込み、捻る。
ガチャリ・・・・・・
部屋は階段とは逆に、煌々と明るかった。
そしてーーーー
壁一面にセツナの写真ッッ!!
ありとあらゆる画角の、あらゆるシチュエーションの・・・・・・彼女の顔写真ッッ!!
それが、隙間なく六畳の部屋の壁を埋め尽くしている。
「はぁ・・・・・・」
至福の吐息ーーーー
中央に用意されている、ふかふかの座布団に座ると、無言でぐるりと見渡す。
セツナ・・・・・・
セツナセツナ・・・・・・
セツナセツナセツナ・・・・・・
セツナセツナセツナセツナ・・・・・・ッッ!!
たまらぬっっ!!
この時間こそが・・・・・・エネルギーの補給ッッ!!
骨髄にまで浸透してくる彼女の美貌!!
そして自分しか知らない、彼女の強さ!!
甘く痒く・・・・・・財宝の山を眼前にしているかのごとき感覚。
ほぅ・・・・・・
息を吐き、本棚に並んでいる警察の事件簿ほど分厚いアルバムをひとつ・・・・・・
収まりきらなかったセツナの写真が、詰まっていた。
ペラリ・・・・・・
ペラリ・・・・・・
一枚一枚を、愛でながら、見入る。
彼女のシルクのような銀髪。
彼女のルビーのような瞳。
切れ長の目。
薄い桜色の唇。
真珠のような肌。
スッと通った鼻筋。
均等の取れた、スポーティなスタイル。
その全てを、残ったひとつの眼球に・・・・・・そして脳みそに焼き付ける。
とーーーー
「ふむ・・・・・・どうなりますかね・・・・・・」
一枚を取り上げた。
新樹からもらった、シルバーのブレスレットをはめて、嬉しそうにしているセツナ。
・・・・・・恋は良いこと。
愛を知り、その感情は強くする。
身体も・・・・・・心もだ。
だが、未熟な精神だったなら、修練の邪魔となることもある・・・・・・
新樹の愛情も、新樹へのセツナの好意も、殺すことは可能。
彼女を、自分だけの戦闘マシーンにすることだって、簡単だ。
しかし・・・・・・
邪魔・・・・・・結構!!
その障壁を乗り越える!!
その先には、金剛石のごとき強さが待っている。
問題はない。
むしろ・・・・・・計画通り。
「クックック・・・・・・さてさて・・・・・・二人の恋路は・・・・・・楽しみですねぇ」
彼の欲望が詰まった罪深い部屋で、芥川は笑っていた。
メンタルケア。
その言葉で通用するレベルではないのだが・・・・・・
まあ、本人が良ければ・・・・・・いいだろう。
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