死が二人を分かつまで

KAI

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”日常その弐”

【宇嶋流 合気術】

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 とーーーー



 スッ・・・・・・



 宇嶋が両腕を前へかざした。



 手は開き、上下に正中線に沿って構えている・・・・・・



「!?」



 この刹那・・・・・・レックス・谷が見た物は枯れ葉のような老人じゃなかった。



 人間サイズの・・・・・・『



 鋭利で頑丈なトゲが全方位へ伸び、危険極まりない鎧で護られている。



「えぇ・・・・・・?」



 一本一本のトゲが見えるぞ・・・・・・



 もしも・・・・・・殴ったら・・・・・・手に風穴が開く。



 蹴ったら・・・・・・足はもう使えない・・・・・・



 殺す気じゃない・・・・・・倒すつもりもない・・・・・・まさしく『』だ・・・・・・



 仕掛ける気力すら奪われる。



「・・・・・・っと!! ちょっと!! 谷さん!!」


「えっ・・・・・・?」


「早くやっちゃってくださいよ!! 煽りコメがドンドン来てますよ!!」


「あ・・・・・・ああ!!」



 もう後戻りできない・・・・・・笑いものになんてなって・・・・・・たまるか!!



「ちくしょぉぉぉ!!」



 殴る蹴るもできない・・・・・・



 咄嗟の判断。



 緊急避難的な一手・・・・・・



 ガシッ!!



 トゲの隙間を縫って、着物の襟を掴んだ。



「あ・・・・・・終わった」



 生徒の誰かが言った。



 ・・・・・・その真の意味を知る者にとって、当然のコメントだった。



 スリ・・・・・・



 カサついた骨と皮しかない宇嶋の指が二本・・・・・・レックス・谷の手首にひっかけられた。



 ぎゅるんっっ!!!!



 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?



 天地が・・・・・・地面と天井が・・・・・・自分たちを囲んでいる人々が・・・・・・



 ジェットコースターかのように急回転してぐるぐるとーーーー



 ドウッッ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



「ーーーーであるから、体の大小は関係ないのじゃ。非力ならば力を借りればいい。何の『力』かじゃと? 何でもイイじゃないか・・・・・・『重力』に、相手の『腕力』に、『作用する力』などなど・・・・・・なぁんでも使えばええ」



 !!



 天井を見上げている・・・・・・



 てことは・・・・・・



 寝ている・・・・・・?



 何でだっけ・・・・・・



 嗚呼・・・・・・そうだ・・・・・・道場破りに来て・・・・・・そんで・・・・・・なんだっけ?



 柔道・拳法・合気道・・・・・・その他の武術の全てに通じるのが『』の威力。



 地球人である以上は抗えない重力・自分の体重・遠心力・・・・・・それらで地面に叩きつけられる。



 一度経験すれば理解できるが・・・・・・息を吸うのも苦しくなる。



 このまま起き上がりたくない。



 横になったまま、誰かが運んでくれないかぁ・・・・・・



 そんな気分にさせるほどの『威力』だ。



 すなわち『心』までもを投げられるのである。



 回復には時間がかかる。



「谷さん!」


「あ・・・・・・?」


「マジでです!!」



 お祭り?



 いいなぁ・・・・・・屋台の焼きそばが美味しくって・・・・・・



 ・・・・・・?



 ・・・・・・違う。



「まつ・・・・・・り?」


「そりゃぁもう!! 二〇〇〇〇人見てますよ!! しかも祭り状態です!!」


「!?」



 ネット用語で『祭り』・・・・・・話題のネタにガソリンをぶっかけて咥えタバコをしながら踊り狂うかのように便乗して騒ぐ、現象。それが『祭り』である。



 なんで?



「谷さん・・・・・・とにかく起き上がって通用してないアピールして下さい!! じゃないと・・・・・・」



 カメラマンが虫を噛んだような顔になり、一点を見つめる。



 ・・・・・・どこを?



 そう言えば・・・・・・さっきから温かい・・・・・・



 威勢良くタンクトップに半パンなんかで外出しちまったからなぁ・・・・・・寒くって・・・・・・



 ・・・・・・?



 ・・・・・・!!



「ああっ!!」



 気がついたときにはもう遅い。



 レックス・谷の股間は濡れ、シミになり、そして床に水たまりを作っていたのだ。



 し・・・・・・失禁ッッ・・・・・・



 二八歳にもなる・・・・・・大の大人が!?



 そりゃぁ・・・・・・祭りにもなるわ・・・・・・



 初めてじゃね・・・・・・?



 全世界発信のネット生配信中に、オシッコを漏らす・・・・・・



 大ニュース間違いなし・・・・・・



 名声は地に墜ちた。



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