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”記憶に残る一日篇”
【稽古の後の稽古】
しおりを挟む介護されつつ、強気な発言をする新樹。
その新樹に、指を左右に振りながら注意する芥川だ。
「ダメですよ。看板に偽りなし・・・・・・です。安心安全を謳っているからには、無理はさせられません」
「でも・・・・・・」
「いいですか? 限界を超える・・・・・・言葉にすればこんなに容易いことはない。しかし、限界を超えた先にあるもの・・・・・・美化しすぎですよ」
「ええ?」
「限界を超えれば、最強になれる? 無理をすれば常識を破れる? ノンノン! そんなものないです。我慢比べじゃないんですから、気合いの入れるところ違うでしょ?」
「そうですけど・・・・・・」
「私自身が断言できます。だって見ましたモン。限界の先・・・・・・まあ、我慢強くなる程度ですかねぇ」
そんなものより・・・・・・と、
「無茶して怪我をしてしまい、稽古を一ヶ月休んだら? その方がよほど痛手です」
「・・・・・・はい」
「継続は力なり。続けていけば、もっと良い景色が見えますよぉ~」
「・・・・・・分かりました」
「よし! では休憩が終わったら、軽く組手をして終わりにしましょう」
言葉通り、組手は軽いものだった。
拳は握らず、相手の顔の前へジャブを繰り出したり、緩くローキックを放ったり、ハイキックは空を斬る程度。
しかし、新樹の攻撃はセツナへ当たらない。
そうこうしていると、五分が経った。
「止めです」
もう息が切れて動けない新樹に対して、セツナはウォーミングアップを済ませた後のようだ。
「今日の稽古はこれにて終了。お疲れ様でした」
三人は並んで神棚の前へ向かい、正座をした。
「神前へ、礼!」
手をつき、頭を下げる。
「お相手に、礼!」
新樹とセツナが向かい合って、礼をする。
「さて・・・・・・ここからは自由です。適当に過ごしてくださぁ~い。私は、ニコチンを摂取してきます~♪」
芥川は二階に上がっていった。
セツナや新樹へ、副流煙は吸わせられない。
二階の自室の、さらにベランダに出て、タバコを吸っているのだった。
「ふぅ・・・・・・」
運動後のタバコは・・・・・・ん?
「おい・・・・・・ここだぜ」
「やっちまおうぜ! カメラ、しっかりと撮っておけよ!」
「ああ!」
・・・・・・これはこれは・・・・・・
「フフフ・・・・・・」
フィルターを咥えて、笑いを浮かべる。
「さてさて・・・・・・私の自慢の弟子は、どうしますかねぇ?」
一方その頃。
新樹は道着姿のまま、サンドバックをひたすらに叩いていた。
「シュッ! シュッ!!」
バスン!
ドスン!
時折、サンドバックを吊り下げている鎖の揺れる音が聞こえてくる。
新樹の打撃の特徴は、縦拳というところだ。
日本拳法などで見られるこの拳の形。
体重を乗せ、鋭く相手を突きたい場合、最適の形だ。さらに、横で殴るよりも引きやすく、攻撃から防御に戻ることがすぐに可能なのである。
その代わりとして手首の強化が求められる。
様々な角度で撃ち込むことを想定すると、縦のまま打つのはリスクがある。拳立て、すなわち手を握って腕立て伏せをするトレーニングが必要だ。
新樹はまだまだ未熟。
それでも、サンドバックを打つ音は鈍く、突き抜ける意識を取り入れながら行っていることが分かる。
『休まないの?』
「はぁはぁ・・・・・・まだだ!」
とーーーー
「はぁい! やって参りました弱小道場ぉ~!」
玄関の方から声が聞こえてくる。
「練習生二名! はい! 零細企業決定!!」
なんだ?
見ると、冬にもかかわらずタンクトップを着ている腕の太い男と、カメラを携えている男が。
大柄の男はニヤニヤと意地の悪そうな顔をしている。
「視聴者の皆様! 今日も今日とて弱肉強食! レックス・谷でぇす!」
「イエーイ!」
「弱者は淘汰される! 俺が弱い者は喰っちまうぜ!」
じゃあ早速・・・・・・と、男が道場の敷居を・・・・・・
!!
のし・・・・・・
道場の板張りの床を踏んだ足は、靴を履いていた。
土足で・・・・・・道場に・・・・・・ッッ!!
「く、靴を脱がんかぁぁぁ!!!!」
新樹が血管が千切れそうなほど吠えた・・・・・・
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