死が二人を分かつまで

KAI

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”もうひとりの門下生”

【異変】

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 沼田の拳が、芥川の左脇腹にめり込んでいるではないか!!



 芥川は目を開き、歯を食いしばっている。



(好機!!)



 この機会を見逃す沼田四段ではない。



 ぎゅるんっっ!!



 レバーにもろに喰らった芥川の姿勢がやや下向きになったのと同時に、沼田は大きな身体とは思えない俊敏さで半回転した。



 そして・・・・・・遠心力を得た最大高火力の蹴りを・・・・・・ッッ!!



「セリャァ!!!!」



 ドゴンッッ!!



 後ろ回し蹴りを完全に正面からもらった。



 芥川の、決して小さくない身体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。



「が・・・・・・はっ!!」



 ドンッという音と共に、壁から滑り落ちる芥川。



 セツナも驚いていたが、誰よりも驚愕していたのは新樹だった。



 一年間・・・・・・三六五日・・・・・・芥川あくたがわ げつという男の背中を見続けてきた。



 どのような敵が来ようとも、いつもの飄々ひょうひょうとした雰囲気で返り討ちにする。



 それが、芥川道場主、芥川 月だ。



 なのに・・・・・・



「せ・・・・・・先生が・・・・・・」


「・・・・・・」



 二人はただ黙って見つめていた。



 沼田は(手応えあり)という確信を持っていたが、同時に違和感にも気がついた。



(会長の言っていた芥川という男がこの程度で通じる? 違う・・・・・・罠か!?)



 近づくことなく、道場の中心で待ち構えていた。



「ゴホッ・・・・・・ゲホッ・・・・・・」



 芥川が膝に両の手をつきながら、起き上がって近寄ってくる。



「いやはや・・・・・・効きました~」


「・・・・・・自分の得意技のひとつなので」


「ハハハ・・・・・・あのまま追撃してくれれば、ラクだったんですけどねぇ」


「やはり、近づかなくて正解だった」


「ちょっと・・・・・・恥かいちゃいたので、もう終わらせましょうか」



 !?



 唐突な宣言!?



「沼田さん・・・・・・白真会の白真会たるところは、顔面への殴打」


「押忍・・・・・・」


「・・・・・・難しい話しだ・・・・・・」


「何ですと?」


「人間の身体は大きい・・・・・・しかし、頭は小さい。動き回るネコを一撃で掴むような芸当です。それが強みとは・・・・・・流石は白真会と言わざるを得ないですね」



 スッ・・・・・・



 芥川が構えた。



「では・・・・・・」



 ブッ・・・・・・



 沼田の目には、右腕が消えたかのように映った。



(消えた!? 何処に!?)



 次に見えたのは、ガードの間隙を縫った、拳ーーーー



(まさか打った!? いつ!? しかももうこんなに近くに!?)



 沼田はコンマ数秒のうちに考えた。



(防ぐ!? どうやって!? 回し受け・・・・・・掴んで・・・・・・)



 鼻に、皮膚が接着した瞬間に、無駄だと悟った。



(嗚呼・・・・・・こりゃ・・・・・・無理だわ)



 ズンッ!!



 鋭い一撃だった。



 それはまるで槍の一突きの如し。



 顔面に拳が直撃すると、沼田は吹き飛んでいき、ゴロゴロと転びながら玄関の縁まで行って倒れた。



「競うわけではありませんが・・・・・・飛距離は私の勝ちのようですね」


「うぅ・・・・・・」


「・・・・・・新樹さん」


「あっ! はい!」



 バッと手を挙げた。



「一本ッッ!!」



 沼田ぬまた 清次せいじーーーー



 久方ぶりの、敗北であった。


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