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”出逢い”
【新天地と罪】
しおりを挟む「送っていただき、ありがとうございます」
「い、いいえ滅相もありません! た、丹波様には失礼がなかったと言っておいて下さいぃぃぃ!!」
ブーンッッ
・・・・・・こりゃぁ相当の借りがあるんだろうなぁ。
「さて・・・・・・つきました」
『ここ?』
「ええ。私の道場であり、自宅です」
木の看板が横にかかっている。
『安心安全!! じっくりゆっくりの~んびり!! 芥川護身道場』
・・・・・・ネーミングに関しては才能がなかったらしい。
この名前を木に彫らされた職人にさえも、同情してしまう。
「他に、『痛くない!!』とか『恐くない!!』って入れたいなぁって考えてるんですけど・・・・・・」
キュッキュッ
『やめた方がいい』
「そうですか・・・・・・門下生の方にも言われてしまいました・・・・・・ハハハ」
建物は二階建てで、和風。
入り口は木の門で作られており、スライドさせると両開きの扉が出てくる。
ギィと開けると、広い空間。
明かりがなく暗かったが、板張りの床にサンドバックがひとつ。壁には長さが違う木刀が何本もかかっており、大きな鏡も設置されている。
少女・・・・・・改め『セツナ』は、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
・・・・・・ほのかに汗っぽい香りがするが・・・・・・埃っぽさや、不潔臭はない。
よく掃除されているのが分かる。
「こっちに二階があります」
道場の入り口の左脇に、階段があった。
そこをトントントーンと登ると、複数のドアがある廊下が伸びている。
「一番奥がトイレ。その手前が脱衣所からのお風呂。その他は寝食ができる部屋になります」
『大きい・・・・・・』
「各部屋に冷蔵庫と、小さいですがキッチンがついています」
ガチャ。
「ここは一応ゲストルームに使っております。綺麗にしているつもりはありますが・・・・・・どうです?」
・・・・・・
キュッキュッ
『広い。綺麗。良い』
「良かった。では、着替えも買ってきていますので、お風呂沸かしてきますね」
バタム・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
ひとりきり・・・・・・
キョロキョロしながら、ベッドに腰を下ろしてみる。
人生で初めての、ベッド。
ふわふわで、飛び跳ねたくなる。
でも・・・・・・
「セツナさんっ!」
バンッッ
ビクッ!!
「し、失念してました・・・・・・」
な、なに・・・・・・?
「その・・・・・・下着を含む衣服を、オッサンの私の服と一緒に洗うことに、生理的嫌悪感などはありませんか!?」
・・・・・・プッ
「アハハハッ」
「あの・・・・・・」
キュッキュッ・・・・・・文字を書こうとする指も震えながら・・・・・・
『あなたって面白いのね』
「そ、そう思って下さるなら有り難い・・・・・・ですが」
『気にしない。むしろ洗濯機なんて初めてだもの』
「分かりました。御安心を。干すときは通行人に見えない角度に干しますからね」
『フフ・・・・・・ありがとうございます』
「では、もう少ししたらお風呂は入れますので」
数分後ーーーー
セツナは脱衣所でワンピースを脱いでいた。
・・・・・・思えば、身体を綺麗にするのも一ヶ月ぶりだ。
汗・・・・・・体液・・・・・・排泄物・・・・・・
シャワーを浴びて、全てを洗い流した後に、湯船に浸かった。
「はぁぁぁぁ~」
疲れが、心労が、お湯に溶け出したかのようだ。
美しい銀色の髪の毛も、濁っていたルビーのような瞳も、慎ましやかな胸も、湯の手に包まれた。
つま先から頭まで、優しい温かさが包み込んでくる。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・ふぅ。
風呂場のドアを開けると、洗濯機の上に綺麗なバスタオルと、新品の下着とワンピースが置かれていた。
それに着替え、裸足で廊下を歩く。
何処が・・・・・・芥川の部屋?
きっと彼も疲れているに違いない。
早くお風呂を出たことを知らせなければ・・・・・・
ここかな・・・・・・?
カチャッッ
「・・・・・・ッッ」
「おや・・・・・・もう上がりましたか」
セツナの整った顔から血の気が引き、肩に力が入る。
芥川の前にある木製のちゃぶ台には、消毒液と新しい包帯、コットンとそれを摘まむピンセットが乗せてある。何のためか?
ボロ雑巾で隠していた左目・・・・・・のあった場所を、清潔にして詰め物をし、包帯をぐるりぐるりと巻いていたのだった。
「脳に近い場所ですのでね。感染症などになったら大変です。今のうちに処置をしておかねばならなくて・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・ごめんなさい。
こんな六文字で足りるわけない。
二つしかない眼球のひとつを・・・・・・自分が奪ったのだ。
今後の人生で、彼は片目であることによる不自由を強いられるのだ・・・・・・自分のせいで。
食事・炊事洗濯・鍛錬・買い物・靴紐を結ぶ時でさえ、狭くなった視界でしなければいけないのだ。
・・・・・・自分のせい。
「あ・・・・・・あの」
バタム・・・・・・
「あらら・・・・・・見られないように早めにやったのが、裏目に出ましたねぇ・・・・・・」
一時間後。
芥川はシャワーだけを浴び、海水を流して風呂を出た。
作務衣姿になり、コンコンとセツナの部屋を叩く。
「セツナさん。食事などは?」
ガチャリ・・・・・・
キュッキュッ
『いらない』
「そうですか・・・・・・まあ夜明けに近いですしね。今日はもう寝ましょうか」
コクリ・・・・・・
「おやすみなさいセツナさん。ゆっくり休んで下さいね」
バタム・・・・・・
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