運命の人じゃないけど。

加地トモカズ

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 自宅のマンションに入ろうとすると、入り口に作業着を着た小柄な男性が立っていた。


「んだよ、時間指定しといてさぁ……クソが。」


 彼がイライラしながら電話を掛けると、鷹倫の懐にあるスマホが振動した。
 鷹倫は通話ボタンをタップして応答する。


「はい。」
「もしもし?ひまわり電機サービスの者ですが、松中様の携帯でしょうか?」

 
 電話口の声と、イライラしている作業着男の言葉は一致していた。鷹倫はすぐに電話を切って彼の元に駆けて行った。


「あの、すいません、松中です。」
「あ?あー、あんたか。何仕事遅くなったの?」
「い、いえ……これに合わせて帰社したのですが……。」
「は?だって17時半からって…。」
「18時半…でお願いしてましたけど。」


 男は「ちょっと待ってて下さい。」と慌てて車の中からファイルを取り出して資料を確認した。そしてまた怒りながら何処かに電話をかけた。


「今日の17時半の松中さんチのエアコン取り付け!誰だ受けたの⁉︎……あぁ⁉︎あのパートのババア⁉︎ふざけんな!1時間も間違えてんじゃねーか!……ああ、本人が18時半だって……そうだよ!ばかじゃねーの⁉︎ここ作業でも路駐うるせー道路なんだからよぉ!もうあのババア今月で何回目だよ!クビにしろクビに!」


 とてつもない剣幕で電話の向こうの誰かにまくし立てて、しまいには電話機を車の中へ投げつけた。


「あ、あの……俺は大丈夫ですから、そんなに怒らなくていいですよ。」
「いや怒れよ。クレームつけていいやつだからこれ。下手したら今日キャンセルになってたんだぞ。」


 仮にも鷹倫は客なのだが、あまりのイラつきに作業着男は敬語すら使わなかった。そして後部座席から台車を取り出し、ブルーシート、工具箱などを載せる。


「ちょうど帰ってきたなら今から作業にかかっても問題ないっすよね?」
「はい……よろしくお願いします。」


 鷹倫はお辞儀をすると、彼を自分の部屋まで案内した。



 ドクン


 鷹倫の鼓動が鳴る。ガラガラ、と台車の音がする間ずっと高鳴りがする。それに心臓も痛くなる。後ろからついてくる作業着の男を見ると、その脈拍は大きくなる。

 エレベーターに乗り2人きりの密室はさらに緊張した。

 エレベーターから降りて鷹倫の部屋の前までたどり着いて鍵を回しながら思い切って訊ねた。


「あの、つかぬ事をお伺いしますが……貴方の性別って…何ですか?」

「あ?俺っすか?見りゃわかるでしょ、βの男っすよ。」

「え。」

「つか、うちの会社が現場に出すのはβだけっすよ。αとΩじゃトラブってもめんどくせーし。」

「そ、そうですよね……失礼しました。」


 βの男、鷹倫にとってはズキンと胸が痛む事実だった。

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