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So … I am your knight.

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 そもそも、僕の家からゼイルードのアウグスト様のお城まで、無茶なお願いで夜通し馬車を走らせて帰ってきたんだ。それからすぐに今度はアウグスト様と一緒にシルドラまで馬車に詰めている。お尻が限界……じゃなくて、体が限界だ。

「寝ていろ。向こうへ着くのは日暮れより少し前くらいになるだろう」
「でも、殿下が起きてらっしゃるのに、自分だけ寝るなんてできませんよぉ」
「ほざけ。今までにそんな殊勝な態度見たことないぞ」
「いやいや、それは言い過ぎでしょ」

 いくらなんでも僕だって、殿下にはそれなりの態度を取ってきましたよ? ねぇ?

「心配なのは分かる。私も同じだ」
「あ……」

 隣にいた殿下の左手が、僕の頭にポンと置かれる。

「あまり気を張るな。いざという時、動けなくなるぞ」
「はい……」
「私も寝る。起こすなよ」
「はい、アウグスト様」

 ポロッと涙がこぼれてしまって、僕は慌てて袖口で拭った。殿下はもう壁に頭をもたせかけていて、こっちの方を見ていなかったけど、きっとそれって殿下の優しさだ。分かりづらいけど!





 * * * * * * * * * * * * * * * * *





 僕たちがシルドラに着いたのは午後の鐘が二回目を打ったとき。午後四時。一番最初に向かうのは、センパイたちの拠点になっている衛士隊舎と治安対策本部のある建物。

 でも、そこにセンパイたちはいなかったし、ダントン様もいなかった。代わりに、この町の衛士たちが騒いでいた。

「大変だ、ねぇ、アウグスト様、町中で魔物が暴れてるんですって。危ないから殿下はここで待機しててください」
「馬鹿言え、なおのこと私が出るべきだろうが」

 衛士たちから聞き取れた断片を殿下に報告すると、なんと自分が出るって言い出してしまった。いつになく積極的。もちろん、最大火力(あ、殿下は氷の魔術を使うから、火力っていうのは皮肉だけど)でもある殿下が出るのが一番早い。確かに。

「大体、ここまで来ておいて陣の内に引き籠もっているなぞ、ありえん。自分で言うのもなんだが、ものぐさな私が時間をかけて来たんだぞ、頼まれもしないのにな!」
「ほんとですよね」
「おい!」

 肯定したら怒るんだもんな~。

「あ~、もしもし。魔物を手当たり次第喚びだしている者と、ぼくの弟子が追っている黒幕は別のようですよ」
「あ、レイヒさん」

 間延びした声でレイヒさんが言う。弟子っていうのはダントン様のことだから……トマスセンパイたちと別行動してるの? 魔物退治の方にいないのは何よりだけど、黒幕を追い詰める方に居るだなんて。

「そんな心配そうな顔をしなくても。彼の居場所がわかる魔道具を貸して差し上げますから、それで追えば良いでしょう」
「え、でも……」

 僕は思わず殿下の顔色を伺っていた。

「馬鹿者、ぐずぐずするな。お前が追ってきたのはダントンだろう。私のことは気にせずに行け」
「……っ! ありがとうございます!」

 シッシッ、とまるで犬でも追い払うようにして、アウグスト様は他の人たちとの作戦会議に移っていった。それを頭を下げてお見送りしていると、レイヒさんが懐から革紐のペンダントを取り出して僕に押しつけた。

「石ですか? なんか、燻った青ですね、これ」
「ガラス玉です。どうしてもこの色が良いのだと言い張りましてね」
「これって……」
「そうですね。つい先日までの貴方の瞳の色にそっくりです」
「です、よね……」

 かあっと頬が熱くなる。
 僕のサファイアブルーにあれだけ拘っていたくせに、灰青になっちゃった僕のことも、ちゃんと想っててくれたんだなぁって……。

 ずるいなぁ。
 ほんと、ずるいや。

「じゃあ、僕、行ってきます。あのひとのことが、心配なので」
「いってらっしゃい。大丈夫、そのペンダントが導いてくれますよ」
「はい!」

 僕は駆け出していた。
 夕暮れが近い。
 赤煉瓦の町が染められていく。

「いったい、どこまでっ……もうっ!」

 シルドラの町はそこそこ大きい。その外れの方まで来たというのに、ペンダントはまだ先を示している。思わず文句が口を突いて出るのも仕方がないと思う。僕は体力がある方じゃない。

 やがて前方に数人の人影が見えてきた。ダントン様が話しているのは分かったけど、離れていて内容まで聞き取れない。

 ふいに。
 ダントン様たちの前に立っていた男の姿が消えた。

「――!!」

 慌てた声。
 僕も驚いて、立ち止まって。

 すべてがゆっくりに見えた。
 宙空から、急にナイフの刃が現れたとき。
 僕は――。

 ダントン様を突き飛ばすようにして、僕はナイフとあのひとの間に体をねじ込んでいた。脇腹にどんっという衝撃と、それから襲ってきた熱と痛み。あっという間に立っていられなくなって、気が遠くなっていく。

「ハリー!? 何でお前が……どうして!」

 膝から崩れ落ちた僕を抱え起こしてダントン様が苦しそうに言う。今にも泣きそうな顔で。僕は笑ってその頬に手を伸ばした。

 だって、僕は貴方の騎士だから。
 貴方のためなら、いつだって、この命さえ惜しくはないんです。

 騎士学校を卒業して、叙勲を受けたら言おうと思っていた言葉。せっかく言える絶好の機会だったのに、それは声にならなかった。
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