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Clue of the incident.
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結論から言えば、僕は自分から頼まなくたって戦力として数えられていた。ま、殿下の文官ですしぃ。黒術使いとしてお側に控えてろってことですね、はい。
謀反人たちがいるのはシルドラという町。
ここ数ヶ月前、無差別に町人が斬り殺される事件が起きていた。衛士たちも解決にやっきになっていたんだけど、犯人は捕まらず、町は不安に飲み込まれていた。
ここまでだったら、「早期解決を」とはなるけど、殿下の治世能力うんぬんの話にはならない。もっと下の役人の首が飛ぶだけ。
そこへ犯人たちから声明が出たんだ。
『我々はアウストラル王国の志士として、第二王子の国王即位を認めない。第二王子殿下が王位継承権を破棄するまで、我々は実力行使を止めない』
馬鹿だよねぇ。
まだ国民まで報せが下りてないからって、テオドール殿下が王太子を降りて隠居、継承権が繰り上がるのはもう決定事項なのに。センパイの謀略というか裏取引というか、それでもテオドール殿下ご本人は「これで治療に専念できる」って喜んでたけど。
けど、おかげでシルドラの町を中心に、ゼイルード領は大混乱。通行の規制が敷かれて経済的にも大打撃。アウグスト様が今回、非番の騎士たちに命令したのも、シルドラから残党が逃げ出さないように封鎖するため。殿下が動くと決めた時点ですでに非番の正規騎士団は駆り出されてたわけ。
「っていうか、僕が三日かけて里帰りして、馬飛ばして戻ってきた五日間の間にいったい何があったんです?」
「いや、五日もあれば状況も動くだろう」
腕組み足組みした殿下が呆れたように半眼で呟く。
それもそっか。
「三日待った、自白も引き出した。私が動くことに、誰にも文句は言わさん」
「三日……」
また、僕の心臓が冷え切った氷の塊みたいに重くなった。
(苦戦、してるんだ……)
トマスセンパイが指揮してて、デイヴィスもいて、ダントン様もいるのに、それでも解決しないなんて。このアウストラルで、そんな大事件が起こるなんて想像もしていなかった。
相手はどんな奴らなんだろう。
それに、レイヒさんが言っていた「禁呪」って?
「レイヒさん、相手のこと、どれくらい知ってるんですか?」
「特に、何も」
「えっ!?」
「……資料は渡しておいたはずだが?」
「すみません、興味がなかったものですから~」
おいおい。
殿下のしかめっ面がさらに渋くなってるよ、レイヒさん!
「奴らの規模はさほど大きくない。リーダーと目されている男の身許はハッキリしないが、おそらく大臣の誰かの子飼いだろう。人数は三十から五十、妙な術を使う手合いがいるんだが、捕らえた男は下っ端で詳細を知らなかった」
殿下は資料も見ずにすらすらと情報を並べていった。
殺されちゃった人の数とか、男女の別とか、年齢とか。無差別に見えてシルドラの警備とか犯罪を取り締まる衛士たちの中で、現場担当トップが殺されてるとか。
「それって絶対狙ってますよね。現場とか大混乱してそう。頭良いんだ~」
「……本当に頭が良ければ、私の怒りを買うようなこんな真似するものか」
「そ、そうですね……。その冷気、しまってください、寒いです殿下ぁ!」
「…………すまない」
アウグスト様はものすごい魔力の持ち主で、しかもそれが男の術士には少ない陰の気、つまり冷たくて重い魔力だから、怒ると魔力が漏れて周囲を凍らせちゃうんだよね。二重の意味で。
僕も黒術使いだから陰の気の方が強いけど、殿下ほどじゃない。殿下はハッキリ言って規格外。言葉は悪いけど化け物級だよ。ついたあだ名が“氷の魔王子”だもの。
「とにかく。実行犯は踊らされているだけに過ぎない。彼らを使って自分たちの利益を守ろうとしている奴らがいる……私はそいつらを、絶対に引きずり出してやる」
おお、こわ!
殿下が本気すぎる!
いつもは怠惰でぜんぜんやる気ないのに。
それはそれとして、禁呪について語られてないような……。
「犯人たち、そんなにすごいんですか? トマスセンパイたちがこんだけ時間がかかるとか……。あと、結局、禁呪って何なんです?」
「……それが、私にもよく分からんのだ。目撃者はなし、生存者もない。何かしらの術を用いているのだろう、としか。捕らえた男からは聞き出せなかったようだ。だが、芋蔓式に仲間を捕らえて、必ずや責任を取らせてやる……」
だから怖いですって。
冷気タダ漏れですって。
トマスセンパイのこと、心配なんだろうなぁ。
「彼らの能力は、分かりやすく言えば、透明化ですね。もちろん、正確さを期すなら別の表現をしますが」
「…………」
「…………」
「おや。どうしてぼくを睨んでおいでなのでしょう」
レイヒさん……若返ってからお馬鹿になってない?
やんちゃな性格になったなぁとは思っていたけど、処世術すら忘れちゃったのかなぁ?
「いつ……」
「ひぇっ」
底冷えするような殿下の声が、怖い。レイヒさんは完全にビビってる。僕は黙っておこうそうしよう。
「いつ分かった? その情報……」
「え、ええと、今朝ですよ。ダントンくんがありったけの傍証を調べて送ってくれたので、そう確信が持てました!」
「……なら、なぜ私に報告がない?」
「あの……ええっと……現場でもおそらくその推測に辿り着いた頃だと思ったので……」
「馬鹿者! そうだとしても私にきっちり報告を上げないか!」
「ひぃ! す、すみません~」
殿下は身を乗り出してレイヒさんのほっぺたをつねり上げていた。うわ~い、よく伸びるぅ。
「た、たひゅけて、くらはい~」
「無理~」
レイヒさんはしばらく玩具にされていた。
謀反人たちがいるのはシルドラという町。
ここ数ヶ月前、無差別に町人が斬り殺される事件が起きていた。衛士たちも解決にやっきになっていたんだけど、犯人は捕まらず、町は不安に飲み込まれていた。
ここまでだったら、「早期解決を」とはなるけど、殿下の治世能力うんぬんの話にはならない。もっと下の役人の首が飛ぶだけ。
そこへ犯人たちから声明が出たんだ。
『我々はアウストラル王国の志士として、第二王子の国王即位を認めない。第二王子殿下が王位継承権を破棄するまで、我々は実力行使を止めない』
馬鹿だよねぇ。
まだ国民まで報せが下りてないからって、テオドール殿下が王太子を降りて隠居、継承権が繰り上がるのはもう決定事項なのに。センパイの謀略というか裏取引というか、それでもテオドール殿下ご本人は「これで治療に専念できる」って喜んでたけど。
けど、おかげでシルドラの町を中心に、ゼイルード領は大混乱。通行の規制が敷かれて経済的にも大打撃。アウグスト様が今回、非番の騎士たちに命令したのも、シルドラから残党が逃げ出さないように封鎖するため。殿下が動くと決めた時点ですでに非番の正規騎士団は駆り出されてたわけ。
「っていうか、僕が三日かけて里帰りして、馬飛ばして戻ってきた五日間の間にいったい何があったんです?」
「いや、五日もあれば状況も動くだろう」
腕組み足組みした殿下が呆れたように半眼で呟く。
それもそっか。
「三日待った、自白も引き出した。私が動くことに、誰にも文句は言わさん」
「三日……」
また、僕の心臓が冷え切った氷の塊みたいに重くなった。
(苦戦、してるんだ……)
トマスセンパイが指揮してて、デイヴィスもいて、ダントン様もいるのに、それでも解決しないなんて。このアウストラルで、そんな大事件が起こるなんて想像もしていなかった。
相手はどんな奴らなんだろう。
それに、レイヒさんが言っていた「禁呪」って?
「レイヒさん、相手のこと、どれくらい知ってるんですか?」
「特に、何も」
「えっ!?」
「……資料は渡しておいたはずだが?」
「すみません、興味がなかったものですから~」
おいおい。
殿下のしかめっ面がさらに渋くなってるよ、レイヒさん!
「奴らの規模はさほど大きくない。リーダーと目されている男の身許はハッキリしないが、おそらく大臣の誰かの子飼いだろう。人数は三十から五十、妙な術を使う手合いがいるんだが、捕らえた男は下っ端で詳細を知らなかった」
殿下は資料も見ずにすらすらと情報を並べていった。
殺されちゃった人の数とか、男女の別とか、年齢とか。無差別に見えてシルドラの警備とか犯罪を取り締まる衛士たちの中で、現場担当トップが殺されてるとか。
「それって絶対狙ってますよね。現場とか大混乱してそう。頭良いんだ~」
「……本当に頭が良ければ、私の怒りを買うようなこんな真似するものか」
「そ、そうですね……。その冷気、しまってください、寒いです殿下ぁ!」
「…………すまない」
アウグスト様はものすごい魔力の持ち主で、しかもそれが男の術士には少ない陰の気、つまり冷たくて重い魔力だから、怒ると魔力が漏れて周囲を凍らせちゃうんだよね。二重の意味で。
僕も黒術使いだから陰の気の方が強いけど、殿下ほどじゃない。殿下はハッキリ言って規格外。言葉は悪いけど化け物級だよ。ついたあだ名が“氷の魔王子”だもの。
「とにかく。実行犯は踊らされているだけに過ぎない。彼らを使って自分たちの利益を守ろうとしている奴らがいる……私はそいつらを、絶対に引きずり出してやる」
おお、こわ!
殿下が本気すぎる!
いつもは怠惰でぜんぜんやる気ないのに。
それはそれとして、禁呪について語られてないような……。
「犯人たち、そんなにすごいんですか? トマスセンパイたちがこんだけ時間がかかるとか……。あと、結局、禁呪って何なんです?」
「……それが、私にもよく分からんのだ。目撃者はなし、生存者もない。何かしらの術を用いているのだろう、としか。捕らえた男からは聞き出せなかったようだ。だが、芋蔓式に仲間を捕らえて、必ずや責任を取らせてやる……」
だから怖いですって。
冷気タダ漏れですって。
トマスセンパイのこと、心配なんだろうなぁ。
「彼らの能力は、分かりやすく言えば、透明化ですね。もちろん、正確さを期すなら別の表現をしますが」
「…………」
「…………」
「おや。どうしてぼくを睨んでおいでなのでしょう」
レイヒさん……若返ってからお馬鹿になってない?
やんちゃな性格になったなぁとは思っていたけど、処世術すら忘れちゃったのかなぁ?
「いつ……」
「ひぇっ」
底冷えするような殿下の声が、怖い。レイヒさんは完全にビビってる。僕は黙っておこうそうしよう。
「いつ分かった? その情報……」
「え、ええと、今朝ですよ。ダントンくんがありったけの傍証を調べて送ってくれたので、そう確信が持てました!」
「……なら、なぜ私に報告がない?」
「あの……ええっと……現場でもおそらくその推測に辿り着いた頃だと思ったので……」
「馬鹿者! そうだとしても私にきっちり報告を上げないか!」
「ひぃ! す、すみません~」
殿下は身を乗り出してレイヒさんのほっぺたをつねり上げていた。うわ~い、よく伸びるぅ。
「た、たひゅけて、くらはい~」
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レイヒさんはしばらく玩具にされていた。
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