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本編

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 薄暗い照明の下、サーレムはほっそりと白く輝く裸体を晒していた。羞恥に頬を染め、ぎこちなく身体を動かして秘部を隠そうとするサーレムの手をジェイバルが取り上げる。

「離せ……!」
「何でだよ。出し惜しみせずに見せろよ、坊っちゃん」
「その言い方ヤメロ! 貴様、こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」

 サーレムはジェイバルの腕を振りほどこうとしたが、その力はあまりにも強く、どうにもならない。一方でジェイバルも薄ら笑いを引っ込めて、強面にさらに怒気を含ませてサーレムのすみれ色の目を覗き込んだ。

「お前こそどういうつもりなんだ、サーレム。こんな物持ち出して、マジックアイテムは玩具じゃないんだぞ。持ち出しただけでも厳罰ものだが、実際に使った以上、俺がアクィラムに言えば良くて継承権召し上げ、悪けりゃ廃嫡の上幽閉だぞコラ」
「うるさい、父上の名を呼び捨てにするな! 貴様のような野良犬風情が、知ったような口を利く。こんな不敬な言葉を聞き続けるなんて耳が腐る……父上も貴様のどこを気に入ったのだか!」

 ジェイバルの額に青筋が立つ。ジェイバルは掴んでいたサーレムの細い腕を引っ張りねじり上げると、美しい白金色の髪が彩る頭を鷲掴みにし、うつ伏せになるようベッドに叩き伏せた。

「うっ……!」
「俺は犬じゃねぇんだよ」
「くそっ! 駄犬だろうが! 父上に尻尾を振るしか能がないくせに」
「ホントにクソガキ様だな、お前は」
「うぐぅ~~!」

 ジェイバルがアイアンクローをかける指に力を入れた。苦痛に呻くサーレムの首筋を、ジェイバルの無精ひげに覆われた顎がかすめる。

「ひっ」
「さて、そろそろお仕置きに入るかな、っと。さんざ馬鹿にしてくれたからな、ちっとも可哀想っていう気持ちがねぇ」
「き、貴様が、僕に罰を与えるだと! あ、痛……うぐぅ……!」
「まず、口の利き方に気をつけろな。貴様じゃねーだろ。師匠、もしくはジェイバルさんと呼べ」
「うぐ~~~!」

 左手をねじり上げられ身動き取れない状態なのに、サーレムはまだ懲りていないようだ。振りほどこうと力の限り暴れる細い体を、ジェイバルは膝で押さえつけ体重をかけた。苦しげな呻き声が漏れようと、華奢な腕が軋もうと、ジェイバルは容赦しない。年嵩の剣術師範の口から、重いため息と棘のある言葉がこぼれ落ちた。

「やれやれ。自分が何をしでかしたか、ホントにわかってないんだなお前は。いいか、他人の心を操るなんてこたぁ重罪なんだぞ。俺に効かなかったからって、お前がやったことはなかったことにはならねぇ。罰食らうとして、留学って建前で外国に追放が一番穏便でマシな部類だよ。なんで自分の立場をドブに捨てるようなことしたんだ、サーレム」
「そうだ貴様、どうして指輪の魔力が効かない! なぜだ!? 貴様の真名は、神殿でちゃんと調べたのに……!」
「……わざわざ神殿の奴ら使ってまで調べさせたのかよ。あ~あ~、ホントにどうしようもねぇなぁ」
「ああっ! う、腕が……腕が折れるっ!」

 悲鳴を上げるサーレムの耳元で、ジェイバルが低くささやく。

「パパにも言いつけられないようなお仕置きをしてやるよ、サーレム。幽閉になんてなっちまったら、今までの憂さ晴らしに見張りの兵士たちに好き勝手殴られ犯されるんだ、初体験は硬い床の上で大勢に嬲りものにされるより、柔らかいベッドの上で迎えたいだろ?」
「く……おいっ、誰か……! 誰か!」
「うるせーよ」
「んんん~!」

 自分の置かれた状況にようやく気づいたサーレムは衛兵を呼ぼうとするが、すぐまたマットレスに頭を押しつけられ黙らされる。ジェイバルはサーレムが首に巻いていた絹のスカーフを取り上げるとサーレムの身体を強引に仰向けに転がし、その腕を手前にして縛り上げた。

「おい、サーレムよぅ。解放してほしかったら四つん這いになって『ワンワン』って言ってみ?」
「……は?」

 ジタバタしていたサーレムは、びっくりしてジェイバルの真顔を見つめた。何を言われているのか、本気でわからないようだ。ジェイバルはさらに真顔で続ける。

「お前を躾け直してやろうと思ってな。まずはどっちが上かわからせてやる。犬の真似なんて高貴なオージ様には屈辱だろ、なぁ? 上手く犬語が話せたら、優しく抱いてやる」
「…………」
「俺を犬扱いしたお前が『ワンワン』言わされる側に回るんだ。ほら、犬は犬らしく返事しろ、サーレム」
「……馬鹿か」

 サーレムはそう吐き捨て、自分でタッセルを外そうとするが、それはジェイバルが許さなかった。

「そうか~、そんな反抗的な犬はちゃんと躾けないとな」
「おい、何のつもりだ」

 サーレムの手首を掴んでベッドの上に膝立ちにさせると、ジェイバルはフルスイングでビンタをかました。

「……!」

 みるみるうちに赤く染まる頬。呆気にとられた表情のまま、サーレムの目に涙が溜まった。

「な……くそ、貴様よくも……! この僕に手を上げるなんて信じられない! 暴力クソジジイ! 最悪の、クズめ……!」
「ん~、まだワンワンって言わねえし、口の悪さも治らなさそうだし……じゃあ次反対側な」
「や、やめろ!」
「そりゃーお前の出方次第だよ。で、犬のお前はどうすんだよ? 俺に対して尻尾振ってみろよ」

 サーレムは言葉に詰まったが、その目はまだ死んでいなかった。この状況からまだどうにか這い上がろうとしている目だ。

「……はぁ。お前ってやつはホント、いっぺんグチャグチャにされねぇとわかんねぇんだろうな。……あの女に似てるのは顔だけか」
「は?」
「よし、わかった。せいぜい泣き喚いてろ、サーレム。お前が反省するまで付き合ってやるよ」
「何言ってるんだ貴様は。頭がオカシイのか。さっさと解いて僕の上からどけ! ……どうしても城にいたいと言うなら置いてやっても構わん。ただ、その指輪だけは……」
「うるせぇ! 犬畜生以下の分際で、人間様の言葉を喋ってるんじゃねぇよ!」

 またしても平手打ちがサーレムを襲う。躱すことも防ぐこともできず、サーレムは痛みに呻いた。

「あっ……く! 貴様、ジェイバル……」
「黙れ。おとなしくしないと今度は歯が折れることになるぞ」
「…………!」

 ジェイバルはサーレムの身体を裏返してうつ伏せにすると、枕元にあったクリームの入った瓶を取った。

「な、何をする気だ……」

 ジェイバルは無骨な指で手早くクリームを掬い取ると、白く薄い尻の割れ目に塗りたくった。

「ひぃっ! な、何をする、この、変態! まさか、犯すってそういう……」

 無言でジェイバルの陰部が押しつけられると、今度こそサーレムは青ざめた。
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