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第11章「四聖獣ポセラドル」

ヨオグス・マルネッロ

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 ――教会に来たばかりのアスナーは虚ろでした。何も話さず、飲まず食わずでした。私たち修道士は、生まれながらにして親の顔を知らず、神父を親代わりとして育ちます。魔物の襲撃から命からがら生き延び、教会で我が子を産んで命を引き取る場合もあります。年端のいかない者が迎えられますが、アスナーは十になるかならないかの歳でした。
 彼がうろになったのには、相当の心痛があったのではないでしょうか。空っぽになった身体に生気を宿してくれたのはヨオグスだった――今思い返せば、マケマノは幼いアスナーに取り憑いてここにやってきたと思います。虚はマケマノそのものだったのです。今まで様子をじっと窺っていたのではなく、光の素養のあるヨオグスのせいでなりを潜め、アスナーの表面に出てこられなかったのです。

 魔法が発動する度に、十字架のペンダントが一瞬煌めく。ユンのように、魔法使いは杖で増幅するとばかり思っていたけど、あいつは違う。
 よく狙って、弦を引き絞る。マケマノはメイリアウスとティーサラに気を取られて、幸い眼中にセンテバは入っていない。十字の真ん中に命中し、ひびが入る。

「……なにぃっ?」

 術が暴発し、ペンダントから体中に炎が燃え広がった。

「よくも」

 毛むくじゃらの巨大な黒蜘蛛に化け、炎をかき消しながら壁面を伝って天井近くまで這い上がる。ここまで来れば、矢なんか届くまいと言わんばかりに。

「よくも、ヨオグスの十字架を……」

 激して、突風が巻き起こった。

「いてて……ヨオグスの十字架ってどーゆうこと?」
「彼は自分のと交換したのだと思います。いつでもヨオグスの温もりを感じられるように願って」

 壁に叩き付けられた痛みよりも、センテバは十字架の存在が気になった。ティーサラは詠唱に集中してと、メイリアウスが話を引き継ぐ。この状況でも、少年の好奇心は健在である。

「あの十字架、ヨオグスの代わりなのよ。マケマノは教会に潜入するのに、アスナーの体とヨオグスの十字架を利用したのよ」
「光のヨオグスの?」
「そうよ。属性も教会の人間になりすました」

 そこまでして、サレプスの復活を企んでいる。でも、それだけじゃないのでは。

「思うんだけどさ、ヨオグスだけじゃないよ」

 センテバの視線は真っ直ぐ天井を向いている。

「姉ちゃんたちも、お前のこと心配してるし。何だかんだ言って、お前だって姉ちゃんたちのことよく知ってる」

 弓矢をしまい、バリアの際まで歩み出た。

「みんな一人で抱え込んでたんだろ? ずるいよ! どうして何も言わなかったんだよ? ヨオグスが遠くに行く時だって、寂しいって言えたじゃんか。マケマノが取り憑いてると分かった時だって、力になってくれたはずだよ」

 外は大嵐。蜘蛛の体毛は風に殴られ、ひどくかき乱されている。

「ヨオグスだけが友達と思ってるけど、姉ちゃんたちも友達なんだよ」
「小僧の友達ごっこにはうんざりですよ」

 土砂降りの雨が降り注ぎ、バリアにけたたましく打ち付ける。

「ごっこじゃない、本気だ!」

 時折顔に雨粒が当たる。肌を裂く痛みが走り、もはやひょうだと気付く。

「ごめんなさい……もう」

 ティーサラの魔力は消耗している。だが、切れ間なく攻撃を仕掛けているあいつだって、状況は同じはずだ。

「こんなの肥溜めに突っ込むよりマシさ」

 かすり傷なんて、へっちゃらだい。木から木へと飛び移る時に、真っ逆さまに落ちたことだってある。けれど、肥溜めは御免だ。

「やるわね。明らかにアスナーは動揺しているよ」
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