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第9章「四聖獣フェニックス」
死の舞踏
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不思議とまぶたが重くなり、眠くなった。この期に及んで、眠っている場合なのか。だが、まどろむ中で、脳裏に情景が浮かび上がってきた。
まるでヘリコプターから地上を俯瞰するように、眼下に火山の火口が見える。山頂付近は赤土色の山肌が際立ち、中腹から裾野にかけて、草木が生えている。山全体が視界に収まると、メルフ火山を見下ろしているのだと分かった。
火山から遠く離れると、耕地に囲まれて、メルフ火山の山肌と同じ色の街が見えた。いきなり景色が引き寄せられ、街並みが眼下に迫る。
通りを人が行き交っている。昼間に見た人通りと同じように見えたが、どこか温かみを感じる。集まって噂話をする者や、からかう者が見当たらない。門番や兵に叱責される者もいない。すれ違う獣人に、後ろ指を指す者もいない。そもそも、門番らしき者が見当たらず、市壁の門が開け放たれている。
広場では、年端のいかない人間と獣人の子どもがキャッキャと声を上げて、楽しそうに駆けずり回っている。
ベンチには、見覚えのある神父が座り、集う人々を見つめている。
――エルスン、待った?
フェニックスの声で、目の前の神父がその人だと分かった。いいやと答えたエルスンは、先程までの険しい表情とは違い、穏やかな面持ちだ。なぜか異様に近くに神父の横顔が見える。
――元気になってくれて、良かった。
フェニックスの声に反応して、神父がこちらを向いた。目線の位置で見つめられ、おどおどしてしまう。夢の中で、自分の姿がどのようになっているのか意識したことはなかった。いつも自分が主役で、起きているときの姿のままなのが当たり前だと思っていた。ふと、神父が眼前に見えるのは、自分が彼の肩に留まっているからだった。肩車ではなく、ちょこんと乗っている。
――やっぱり、ここが落ち着くよ。
声だけしていて、フェニックスの姿が見当たらないと思いきや、自分が聖獣と一体化しているのだと気づいた。聖なる力が体に流れ込んできたことで、フェニックスの夢に入り込んだのかもしれない。
きっと、この夢はフェニックスが望む世界なんだ。そういえば、イストギールの街はメルフ火山で切り出された岩で出来ていると、ユンが言っていた。メルフ火山はフェニックスの身体で、イストギールは聖獣の身体の一部を分けてもらっているのだと。フェニックスにとって、イストギールは我が子のようにかけがえのない存在に違いない。
――フェニックス、ここにいたのか?
イグエンさん?
出し抜けに、広場の反対側にイグエンが現れ、目を疑った。
――そいつから離れるんだ。
――どうして?
――そいつは、君を不幸にする。
――エルスンは、そんなひどいことをしないよ。
――君は騙されているんだ。君も、あの時見ていただろう。そいつの見下げた態度、いい奴に見えるか?
あの時がどの時なのか。メルフ火山でイグエンと再会するまでの間、フェニックスといかなる話をしていたのか分からない。旧知の仲だったのか、知り合ったばかりなのかも不明だ。
――そいつは、君が望む場所を滅ぼそうとした。
なぜだろう。聖獣の記憶とは言え、イグエンの想いがフェニックスに向いているのを羨ましく思った。
――イグエン、いったいどうしたの?
――エルスンと言ったか。お前なんかに、フェニックスを渡すものか。
黒雲が瞬く間に空一面を覆うと、轟音がとどろき、家屋に蒼白い炎が燃え盛った。先程まで、フェニックスの羽毛にほとばしっていた禍々しい炎と同じ色だ。
――俺のフェニックスを返せ!
イグエンが激昂すると同時に、エルスンは火だるまとなった。蒼白い炎の中に、黒い人の影が見える。フェニックスに救いを求めて、手を伸ばすが、炎に阻まれてよろめき、くずおれた。
イグエンさん、やめてと言おうとしても、声は届かない。イグエンが捉えているのは、フェニックスだ。未知の姿は見えていない。どうしたら、気づいてもらえるのか。否、目の前にいるのは、イグエンの姿をしたサレプスだ、でも。
まるでヘリコプターから地上を俯瞰するように、眼下に火山の火口が見える。山頂付近は赤土色の山肌が際立ち、中腹から裾野にかけて、草木が生えている。山全体が視界に収まると、メルフ火山を見下ろしているのだと分かった。
火山から遠く離れると、耕地に囲まれて、メルフ火山の山肌と同じ色の街が見えた。いきなり景色が引き寄せられ、街並みが眼下に迫る。
通りを人が行き交っている。昼間に見た人通りと同じように見えたが、どこか温かみを感じる。集まって噂話をする者や、からかう者が見当たらない。門番や兵に叱責される者もいない。すれ違う獣人に、後ろ指を指す者もいない。そもそも、門番らしき者が見当たらず、市壁の門が開け放たれている。
広場では、年端のいかない人間と獣人の子どもがキャッキャと声を上げて、楽しそうに駆けずり回っている。
ベンチには、見覚えのある神父が座り、集う人々を見つめている。
――エルスン、待った?
フェニックスの声で、目の前の神父がその人だと分かった。いいやと答えたエルスンは、先程までの険しい表情とは違い、穏やかな面持ちだ。なぜか異様に近くに神父の横顔が見える。
――元気になってくれて、良かった。
フェニックスの声に反応して、神父がこちらを向いた。目線の位置で見つめられ、おどおどしてしまう。夢の中で、自分の姿がどのようになっているのか意識したことはなかった。いつも自分が主役で、起きているときの姿のままなのが当たり前だと思っていた。ふと、神父が眼前に見えるのは、自分が彼の肩に留まっているからだった。肩車ではなく、ちょこんと乗っている。
――やっぱり、ここが落ち着くよ。
声だけしていて、フェニックスの姿が見当たらないと思いきや、自分が聖獣と一体化しているのだと気づいた。聖なる力が体に流れ込んできたことで、フェニックスの夢に入り込んだのかもしれない。
きっと、この夢はフェニックスが望む世界なんだ。そういえば、イストギールの街はメルフ火山で切り出された岩で出来ていると、ユンが言っていた。メルフ火山はフェニックスの身体で、イストギールは聖獣の身体の一部を分けてもらっているのだと。フェニックスにとって、イストギールは我が子のようにかけがえのない存在に違いない。
――フェニックス、ここにいたのか?
イグエンさん?
出し抜けに、広場の反対側にイグエンが現れ、目を疑った。
――そいつから離れるんだ。
――どうして?
――そいつは、君を不幸にする。
――エルスンは、そんなひどいことをしないよ。
――君は騙されているんだ。君も、あの時見ていただろう。そいつの見下げた態度、いい奴に見えるか?
あの時がどの時なのか。メルフ火山でイグエンと再会するまでの間、フェニックスといかなる話をしていたのか分からない。旧知の仲だったのか、知り合ったばかりなのかも不明だ。
――そいつは、君が望む場所を滅ぼそうとした。
なぜだろう。聖獣の記憶とは言え、イグエンの想いがフェニックスに向いているのを羨ましく思った。
――イグエン、いったいどうしたの?
――エルスンと言ったか。お前なんかに、フェニックスを渡すものか。
黒雲が瞬く間に空一面を覆うと、轟音がとどろき、家屋に蒼白い炎が燃え盛った。先程まで、フェニックスの羽毛にほとばしっていた禍々しい炎と同じ色だ。
――俺のフェニックスを返せ!
イグエンが激昂すると同時に、エルスンは火だるまとなった。蒼白い炎の中に、黒い人の影が見える。フェニックスに救いを求めて、手を伸ばすが、炎に阻まれてよろめき、くずおれた。
イグエンさん、やめてと言おうとしても、声は届かない。イグエンが捉えているのは、フェニックスだ。未知の姿は見えていない。どうしたら、気づいてもらえるのか。否、目の前にいるのは、イグエンの姿をしたサレプスだ、でも。
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