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第9章「四聖獣フェニックス」
死の舞踏
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「イグエンさん?」
いきなり呼ばれて、イグエンはたじろいだ。
四聖獣フェニックスとイグエンが一緒にいる。メルフ火山の中心は空洞になっており、彼は真ん中に座っている。このとき、サレプスが顔を出してフェニックスを手に掛けはしないだろうかと、憶測が未知の脳裏を駆けめぐる。それとも、既にサレプスは聖獣を丸め込んだのだろうか。
「君は、未知なのか?」
今日はすぐに分かってくれた。目の前にいるのは、確かにイグエンなのに、いらぬ考えを巡らせてしまう自分が許せない。
「イグエンさんがフェニックスを守ってくれたんですね」
「守った??」
「神父様から、フェニックスが漆黒の騎士に連れさらわれたと聞いたんです」
「漆黒の騎士?」
状況を飲み込めないイグエンに、センテバが意気込んで返答する。
「イストギールの国王を暗殺したサレプスの手下だよ! そいつがフェニックスを連れ去ったんだ。噂だと、全身黒い甲冑に覆われててさ――」
「あいつか……」
イストギール城の地下で俺の行く手を阻んだ甲冑の騎士だ。俺に突きつけた刃で、既に人を殺めていたのか。知らず知らずのうちに、イグエンは拳を握り締めていた。
「でも、安心しました。フェニックスが無事で良かったです。私は四聖獣フェニックスの力を貸りにきました」
「あなたが神に選ばれし者ですね」
フェニックスの声に合わせて、神の剣が温もりを発する。
「兄ちゃんが漆黒の騎士をやっつけてくれたんだね。見かけによらず、強いんだね」
センテバは、イグエンにサレプスが取り憑いていることを知らない。
このまま何事もなくフェニックスの力を借りられるのだろうか。今のところ、ニャッカのクロボルのような行く手を阻む者に出くわしていない。モーリュカが恐れていたエルスン神父も見当たらない。うまくいきすぎていて気がかりだ。
未知は背中に手を伸ばして剣に触れ、フェニックスのもとに向かおうとしたが、いきなり吐き気に襲われた。耳鳴りが聞こえ、冷や汗が生じる。
「どうした?」
間違いない、イルがここにやって来る。現れる前の薄気味悪い予感は間違いない。
「イグエン、見つけたよ」
イルは左手に例のベルトを持ち、背後にはエルスンという名の神父が続いている。
「エルスン、その子から離れて」
フェニックスの制止にエルスンは動じない。
「みちと同じ顔をした女の子? どうしてあのおじさんがいるの? みち、教えてよ!」
「イルが……サレプスの封印を持っている……」
「あの黒い女の子がサレプスの手下だって!? どういうこと? じゃあ、あの兄ちゃんが」
未知はセンテバの問いに、声を押し出すだけで精一杯だった。
「行くな、フェニックス」
イグエンの頑なな眼差しに、聖獣は動きを止める。
「イル、今すぐそのベルトを手放してくれ」
彼の口調は強いが、腰は引き気味である。
「嫌だよ」
バックルを外し、イルは両手でしかとベルトを持つと、有無を言わさずイグエンに歩み始める。
「今だ、フェニックス」
聖獣は巨大化し、ベルトを目がけて火を吐いた。
だが、炎はベルトを覆いつつも、イルに容赦なく火の手を伸ばした。炎に巻かれながらも、イルは一向にベルトを手放さなかった。
「イル!!」
イグエンは咄嗟にイルに駆け寄り、庇った。どうしてだ、フェニックス。イルには手を出さないと約束したじゃないか。
瞬く間に青年が着ていたシャツは燃え、上半身が露わになる。
「みち、どうしたの!?」
「身体が、暑い……」
炎を浴びているのはイルだ。しかし、未知はうずくまり、身悶えしている。コートの中が蒸す暑さとは比べものにならない。
――イグエン、あなたがやってくるのは分かっていたよ。
何故かイルの声が聞こえる。
――あなたは、また強くなる。
どうしてだろう、イグエンさんが守っているのは自分じゃないのに、嬉しいの。でも、違う。イグエンさん、逃げて――。
イルはここぞとばかりに、封印のベルトをイグエンの腰に巻きつけた。
いきなり呼ばれて、イグエンはたじろいだ。
四聖獣フェニックスとイグエンが一緒にいる。メルフ火山の中心は空洞になっており、彼は真ん中に座っている。このとき、サレプスが顔を出してフェニックスを手に掛けはしないだろうかと、憶測が未知の脳裏を駆けめぐる。それとも、既にサレプスは聖獣を丸め込んだのだろうか。
「君は、未知なのか?」
今日はすぐに分かってくれた。目の前にいるのは、確かにイグエンなのに、いらぬ考えを巡らせてしまう自分が許せない。
「イグエンさんがフェニックスを守ってくれたんですね」
「守った??」
「神父様から、フェニックスが漆黒の騎士に連れさらわれたと聞いたんです」
「漆黒の騎士?」
状況を飲み込めないイグエンに、センテバが意気込んで返答する。
「イストギールの国王を暗殺したサレプスの手下だよ! そいつがフェニックスを連れ去ったんだ。噂だと、全身黒い甲冑に覆われててさ――」
「あいつか……」
イストギール城の地下で俺の行く手を阻んだ甲冑の騎士だ。俺に突きつけた刃で、既に人を殺めていたのか。知らず知らずのうちに、イグエンは拳を握り締めていた。
「でも、安心しました。フェニックスが無事で良かったです。私は四聖獣フェニックスの力を貸りにきました」
「あなたが神に選ばれし者ですね」
フェニックスの声に合わせて、神の剣が温もりを発する。
「兄ちゃんが漆黒の騎士をやっつけてくれたんだね。見かけによらず、強いんだね」
センテバは、イグエンにサレプスが取り憑いていることを知らない。
このまま何事もなくフェニックスの力を借りられるのだろうか。今のところ、ニャッカのクロボルのような行く手を阻む者に出くわしていない。モーリュカが恐れていたエルスン神父も見当たらない。うまくいきすぎていて気がかりだ。
未知は背中に手を伸ばして剣に触れ、フェニックスのもとに向かおうとしたが、いきなり吐き気に襲われた。耳鳴りが聞こえ、冷や汗が生じる。
「どうした?」
間違いない、イルがここにやって来る。現れる前の薄気味悪い予感は間違いない。
「イグエン、見つけたよ」
イルは左手に例のベルトを持ち、背後にはエルスンという名の神父が続いている。
「エルスン、その子から離れて」
フェニックスの制止にエルスンは動じない。
「みちと同じ顔をした女の子? どうしてあのおじさんがいるの? みち、教えてよ!」
「イルが……サレプスの封印を持っている……」
「あの黒い女の子がサレプスの手下だって!? どういうこと? じゃあ、あの兄ちゃんが」
未知はセンテバの問いに、声を押し出すだけで精一杯だった。
「行くな、フェニックス」
イグエンの頑なな眼差しに、聖獣は動きを止める。
「イル、今すぐそのベルトを手放してくれ」
彼の口調は強いが、腰は引き気味である。
「嫌だよ」
バックルを外し、イルは両手でしかとベルトを持つと、有無を言わさずイグエンに歩み始める。
「今だ、フェニックス」
聖獣は巨大化し、ベルトを目がけて火を吐いた。
だが、炎はベルトを覆いつつも、イルに容赦なく火の手を伸ばした。炎に巻かれながらも、イルは一向にベルトを手放さなかった。
「イル!!」
イグエンは咄嗟にイルに駆け寄り、庇った。どうしてだ、フェニックス。イルには手を出さないと約束したじゃないか。
瞬く間に青年が着ていたシャツは燃え、上半身が露わになる。
「みち、どうしたの!?」
「身体が、暑い……」
炎を浴びているのはイルだ。しかし、未知はうずくまり、身悶えしている。コートの中が蒸す暑さとは比べものにならない。
――イグエン、あなたがやってくるのは分かっていたよ。
何故かイルの声が聞こえる。
――あなたは、また強くなる。
どうしてだろう、イグエンさんが守っているのは自分じゃないのに、嬉しいの。でも、違う。イグエンさん、逃げて――。
イルはここぞとばかりに、封印のベルトをイグエンの腰に巻きつけた。
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