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第7章「魔王の生まれし森」

王墓を守りし者たち

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 ***


 今、自分達がどの方角にいるのか分からない。未知はしきりにコンパスを確認するが、方位磁針は回転し続けたまま、一向に方角が定まらない。守と名乗る人達と出会う前、否、センテバがゲイターに襲われる前には、方位磁針は北を指し示していたのである。

「ユンの里って、どこにあるの?」

 センテバはユンに尋ねるが、先程から押し黙ったままで一言も答えない。

「これは大変なことになりました」

 先頭を歩いていた守がいきなり立ち止まり、後方の者達に合図を送る。未知は何が何だか分からず、目をしばたたかせる。

「あっ、あれ!」
 未知よりも先に異変に気づいたのは、センテバだった。前方の枝葉に真っ赤な果実がたわわに実っているのである。美味しそうだと不用意に近づけば、痛い目に合うと分かっているのは当人だ。

「ゲイターはここまで迫っていたのですね、この先の道は危険です。少し遠回りをしますが、別の道を行きましょう」

 頭上を覆う雲は、いよいよ厚くなってきた。今にも雨が降り出しそうな天候だが、雲は垂れ込めたまま降雨を渋っている。
 雨は何に躊躇うのだろうか。しばらく歩くと、木立から突き出すようにして灰色の建造物が姿を現した。なだらかな三角形をした石造物は、頭上の雲と同化してしまうくらいに接している。守は歩調を緩めることなく、建物がある方角に足を向ける。
 やや拓けた場所に出ると、灰色の建造物の全容が明らかになった。長方形の石を階段状に積み重ねた建物は四角錐になっており、表面に苔がしている。

「……ピラミッド」

 確かに、エジプトの建造物とよく似ている。ただ目の前の石造物は黄色ではなく、灰白色である。

「え、ぴらみっど?? それって何?」
「王様のお墓だよ……でも、この世界ではどうなのか分からない」
「何で大きいの? ニャッカみたいに、教会の近くにあって、小さい方がみんな一緒にいられるんじゃないの」

 またセンテバの「何」が始まった。なぜ墓が大きいか小さいかではなく、いかにセンテバを退屈させず、満足させる答えを見つけ出せるかが問題だ。未知が閉口しそうになった時、守の一人が助け船を出してくれた。

「彼女の言うとおりです。あれは先代の王の墓です。太古の勇者とともに魔族に立ち向かった人間の王と、光の女神リュークが最初に創造した『創世の民』と呼ばれる人間が弔われています」

 なぜか「人間」という単語を強調しているように聞こえる。

「――それに、ここは墓だけではなく、封印の地でもあるのです」

 まるでピラミッドが建っている場所自体に何か秘密があるようだ。封印とは、この広大な土地自体を巨大な墓ですっぽりと覆うことを意味しているのだろうか。

「この地が人間の国であったと同時に、魔族が跋扈した場所だったことを忘れてはなりません。ここにはかつて魔王の根城があり、今でも禍々しい気が流れています」 

 ここが世界の中心なのか。太古の勇者が災いの輪廻を断つために南に王国を建国したが、災禍は残留しているのか。結界と同じように墓で覆いをし、禍々しい瘴気しょうきが漏出しないように、守という見張りを立てているのだろうか。

「我々は、王墓を守る使命を勇者クランより受け、長くこの地にいるのです」

 だが、魔王が復活してしまった今、封印の墓に見張りがいる必要はあるのだろうか。ここに魔王の分割された『魔の力』の封印はないはずだ。

「でもさ、魔王は復活してしまったんだよ。何を守ってるの?」

 未知が抱いていた疑問をセンテバは平然と尋ねた。 

「実は、最近のゲイターの活動に見られるように、王墓にも異変が起きているのです。今、ここを解き放ち、あなたに闇を清めてほしいのは山々ですが――」

 守は話を続ける前に、周囲を見回す。他の守もピラミッドの影や木立の向こうを警戒しているようだ。木々のざわめき、風の音に耳を傾ける。ピラミッドのこちら側には、入口らしき扉や穴は見当たらない。守は未知達に向き合い、

「ここでは、誰が聞いているか分かりません。話の続きは、酋長の前でしましょう」

 と言うと、再び歩き始めた。ピラミッドの裏側から表に回り、かつては町だった遺跡を通って、里に向かうとのことだ。
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