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第6章「四聖獣ユニコーン」

はじめての友達

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「あの……アーサーさん、お久しぶりです」

 ルンサームを発ってから、実質十数日しか経っていない。だが、次々と目まぐるしく起きる出来事に、かれこれ何カ月も会っていないような気がした。

「未知、どのようにしてサレプスの第一の封印が解かれたのかが分かったよ。封印は、神魔羅殿にあったが、神殿に直接入らずに、封印を解いた方法がね」

 突然本題に入り始めたアーサーに、未知はきょとんとした。神魔羅殿という名前を頭の中で復唱し、ようやくイルがサレプスの第一の封印を解いた日のこと――神魔羅殿で見たイルとマケマノの会話も――を思い出した。

「神魔羅殿の扉に、何者かが触れた形跡は残っていなかった。だが、紋石には、干渉した跡が見られた」

 ルンサームから発つ時に、アーサーは紋石に触れ、一時的に結界を解いた。未知は、結界の割れ目から荒野に入り、ジュリスとともに旅に出たのだった。

「紋石に空間転移の力があるかどうかは分からないが、紋石をとおして神殿に入ったことは間違いない。私達神官は、勇者クランが『魔の力』を五つに分断し、装飾具に封印したことを知っているが、正確にはどこに封印したのか分からないんじゃ。この世に実体として封印が存在しているのか、あるいは別の空間に封印されたのか。封印自体を見たことがない」
「封印の正確な場所を知っているのは、勇者クランと神のみです。我々が、封印の在りかを知らないのは、万が一のことを考えてです。もし我々の中に、裏切り者がいたとするならば、大いなる災いが生じかねない」

 と、スミロフが付け加える。そろそろセンテバが話に退屈し始めてきた頃だ。背中の筒から矢を一本取り出し、矢筈やはずの部分で、未知の肩を小突いてきた。

「……あの、アーサーさん。前に、ジュリスさんが、『狭間』はこの世とあの世がくっつかないようにするためのクッションだって言っていたんです」

 アーサーは、水面越しに頷く。水面を介して話しているためか、以前よりも皺の数が増し、更に老けこんだように見える。

「結界を張ることで、黒神の襲来で揺らいだ狭間を補正して、魔界から魔物がやって来ないようにしているんですよね。もしかして、結界がある所に、サレプスの封印があるのじゃないんですか?」

 アーサーが眉間に皺を寄せるのが分かった。

「マケマノは、わざと結界を張り、イルにサレプスの封印を解かせたのだと思います」

 未知は、先日の一件を取り上げた。

「……イルじゃと?」
「サレプスの封印を解いた少女の名前です。もしかして……世界中に張られている結界は、みんなサレプスの封印に関わっているんじゃないんですか?」

 とすると、世界中に張られた結界は解かれなくてはならない。しかし、封印が解かれたら、魔物の闖入を許すことになる。

「一つ、分からないことがある。サレプスの封印を解いた少女は、なぜ狭間に介入できたのじゃろうか。狭間に行き、魔王の力を封印したのはクランじゃ。狭間に行けるのは『神に選ばれし者』しかいない」

 イルのことだ。彼女は、どうして自分と同じ顔をしているのか。未知と同じように、狭間に行けるということは、イルも『神に選ばれし者』なのだろうか。ただ未知は、意図的に狭間に介入できるわけではなかった。神魔羅殿の時も、偶然目の当たりにしたにすぎない。

「今まで、結界が張られていても、サレプスの封印を解くための脅威にはならなかった。狭間に介入できる少女の出現によって、状況が一変したのじゃ」

 イルがどこからやってきて、なぜ魔王サレプスに付き従っているのか分からない。マケマノのように、サレプスに心酔し、服従しているのか、それとも――。アーサーに、イルが自分と同じ顔だという事実は言えなかった。

「スミロフ、未知。結界について、しばらく私ができる範囲で調べさせてもらうよ」

 センテバは、ホッと胸を撫で下ろした。やっと未知とアーサーの小難しい会話が終わりに差し掛かろうとしているからだ。

「未知、その様子じゃと、無事にユニコーンの力を借りたようじゃな」

 どうしてアーサーは、ユニコーンから力を借りたことを知っているのだろう。

「なぜ分かったの?と思うじゃろう。それはね、あんたさんの顔に書いてある」

 未知は、目を凝らして水面を見ようとするが、アーサーの姿以外、何も映っていない。

「ルンサームを出発する前の、あんたさんの表情とはまるで違う。あの時はまるで頼りなかったが、今は、自信に満ち溢れている」

 誉められているのかと、未知は頬を赤らめる。

「でも、油断してはならないよ。旅は、慣れてきたところからが肝心じゃ」

 勝って兜の緒を締めよ。聖獣ユニコーンから力を借り、一つ成長したと得意げになっている心の隙を、闇は虎視眈々と狙っているのだから。
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