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第6章「四聖獣ユニコーン」

はじめての友達

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 センテバは、毎日、父と母に話しかけた。
 森でニャッカのお姫様を見た日のことや、初めてエルザと話したこと、未知との出会いを赤裸々に話した。物言わぬ石像になったとしても、二人は生きていると信じていた。

「――前にユニコーンから聞いたんだけど、父ちゃんは、ジュリスと旅をしてたんだよね。母ちゃんもジュリスを知ってるんだよね?」

 センテバは、思わずペンダントを握り締める。

「ジュリスは、父ちゃんの親友だったんだよね。朗らかで、気さくで、まるで太陽が歩いてるような人だったって……」

 二人は、黙々と話を聞いている。母の苦痛に歪む表情、父の必死の形相は、いつもと変わらない。

「お願いだから、一言でも喋ってよ……」

 話をしているから寂しくないと思い込もうとしても、孤独だった。センテバは悲しみを堪えると、父に歩み寄り、ペンダントを目の前にかざした。

「このペンダント、前にも見たよね? 父ちゃんもみちに会ったよね。みちは、ジュリスと一緒に旅をしていたんだよ。ジュリスから父ちゃんにって、託されたんだって」

 幼い時は、いくら背伸びをしても、父ちゃんの胸に手が届かなかった。でも、今なら父ちゃんの顔に触れる。センテバは、鎖を外すと、父フィクソンの首にペンダントを掛けてあげた。

「どこの石かな? とても綺麗だよ。星空にも見えるし……あ、ユニコーンの泉に映った満天の星だよ! ほら、表面がゆらゆら揺れて、星が波打ってるように見える」

 ぽつりと、雨粒が地面を濡らすように、フィクソンの目蓋に黒い染みが出来た。

「こんなに綺麗な石……きっと探すの大変だったんだね。ジュリスは、おらの知らない遠い場所も旅したのかな? 泉よりも、もっと水がいっぱいある所……海にも行ったのかな?」

 目蓋の染みは見る見る広がり、何かが染み出して、頬を流れ落ちた。もしかしてと思い、センテバは滴を拭うと、舐めてみた。

「しょっぱい……やっぱり聞こえてたんだ。父ちゃん、おらの話をずっと聞いていてくれたんだね」

 胸の奥でずっと支えていたものが外れ、こみ上げてきた。悔し泣きなんかじゃない。センテバは笑いながら、父の腕に飛び込んだ。

「……おらね、父ちゃんがジュリスと旅をしていた時のことは知らないよ。だけど、これからみちが教えてくれる。ジュリスがどういう人だったかを。それに、おらの知らない父ちゃんも知ってる気がするんだ」

 ひんやりと冷たいはずの石像から、温もりを感じた。

「おらは、これから旅に出る。友達を救うために、頑張る。心配しないで、また戻ってくるから。それまで、ユニコーン……みんなが父ちゃんと母ちゃんを守っていてくれるから」

 本当は、無事に戻ってこれるかどうか分からない。だって、相手は世界を脅かしている魔王と、エルザを独り占めしようとした奴なんだ。けど、帰ってきたら、またいっぱい話をするから待っててよ。
 センテバは、しゃんと背筋を伸ばすと、二人に深々とお辞儀をした。顔を上げて振り返ると、背後に未知が立っていた。

「みち?」
「センテバのお父さんとお母さん、この前は驚いて、ごめんなさい。これからの旅でも、センテバにお世話になります。よろしくお願いします――」
「どうしたんだよっ、みち?」

 センテバは困惑し、お辞儀をし出す未知を遮って、尋ねる。

「……センテバ。ジュリスさんのお墓に連れて行ってくれないかな?」

 フィクソンは、長い時を経て、ジュリスと再会した。このペンダントは、李本銀りほんぎんに行きたがっていたフィクソンの願いを叶えようと、ジュリスが贈ったものだ。
ジュリスに、フィクソンがペンダントを受け取ってくれたと報告したかった。それに、ニャッカを発つ前に、ジュリスに別れを言いたかった。
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