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第6章「四聖獣ユニコーン」
クロボル討伐隊
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幼い時、お祭りごっこをやったことを覚えている。
二人で向かい合い、手と手を交差させて神輿を作り、その上に誰かが座る。わっしょい、わっしょいとかけ声を掛け合い、上に乗る人は意気揚々としている。
だが、今の未知は、お祭りには程遠い。座っているのは神輿ではなく、籠の中。着ているのは法被ではなく、レースがあしらってあるドレス。頭にはハチマキではなく、顔がすっぽり隠れるベール。そして、向かう場所は神社ではなく、ドン・クロボルのアジトだ。
「みち、大丈夫?」
籠の外からセンテバが小声で話しかけてくる。籠を担ぐのは数人の兵士、護衛はセンテバの他に、サールとローザにスピリジ、ユディットがいる。守りは堅固だが、いっそドンのアジトに着く前に何か問題が起きて、騒ぎに紛れてどこかに逃げてしまいたいと思った。
「う、うん……」
昨日、クロボル討伐の作戦会議をしていた時、未知は突然気分が悪くなった。
部屋の外からイルの気配を感じ、いつもの吐き気が襲ってきたのだ。どうしてニャッカの、それも城の中にいるのか。何か不吉な予感がして不安になった。
――みち、大丈夫っ?
センテバは椅子から飛び上がって、未知に駆け寄った。
――明日のクロボル討伐で、足を引っ張らないようにしてほしいね。
ローザは単なる冗談のつもりで言ったのだが、未知にとっては棘のある言葉だった。
――姐さん、今のは言い過ぎですよ。
―ーだ、大丈夫です……行きます。
今はイルの気配を感じないが、近いうちに会うのではないかと、未知は危惧していた。イルも、ドン・クロボルも怖い。しかし、エルザ姫を危険な目に遭わせたくない。センテバが何よりも大切に想っている人だから。
「もうすぐクロボルのアジトです」
アジトへの道筋は、ドン・クロボルが森の木々をなぎ倒した――草木には申し訳ないが――おかげで、明らかになった。
アジトは山際にあった。少し坂を登った先に切り立った崖があり、洞窟になっている。入口には、蹄の跡が無数に付き、一際大きな足跡が混じっている。ここは、間違いなくクロボルのアジトだ。
未知は緊張で手が汗ばんでいる。ずっと正座をしていたためか、足に感覚がない。一度正座を崩したが、アジトが近いと聞いて、居直った。
「姫様、準備はよろしいですか」
ユディットは籠の小窓を開けて、未知に尋ねる。未知はこくりと頷き、俯いた。
小隊が再び動き出すと、籠の中が真っ黒になった。小窓と戸の隙間から見えていた日光は射し込まなくなり、洞窟に入ったことを暗示した。
洞窟の中は湿っており、獣臭い。籠の中にいても、臭ってきた。鶏小屋と牛小屋の臭いに例えても、まだ何かが足りない。未知は小窓を開け、辺りの様子を窺ってみた。
「え……」
地面が異様に黒いと思っていたら、人の血が固まってこびり付いていた。なぜ血だと分かったかといえば、黒い染みのすぐそばに複数の死体が転がっていたからだ。鎧はボコボコにへこみ、籠手や脛当てが辺りに散らばっている。骨だけになっている死体ならともかく、肉片が残っているものには蠅がたかっている。異臭が充満し、鼻をずっと摘んでいたいくらいだった。これらはクロボル討伐に出かけて返り討ちに遭ったニャッカの兵士達だった。
「みんな……」
洞窟の惨状に戦慄したのは、未知だけではなかった。ユディットは顔が強ばり、目を背けそうになった。今まで一緒に戦ってきた同志達が、目の前に変わり果てた姿でいたのだから。
「敵に恐れを見せたらいけないよ」
ローザは物怖じせず、毅然としている。皆黙り込み、明らかに外よりも空気がピリピリと張りつめていた。
通路を抜けると、広い空間に出た。と同時に、入口を数頭のクロボルが塞いだ。壁伝いにクロボル達がひしめき、吹き抜けになっている二階も然り。
「ユニコーン!!」
出し抜けに、センテバは声を上げた。少年の視点は、部屋の奥に向いている。二階の通路には、黒いたてがみの白馬がうなだれて座っている。頭に生やした角はまばゆい金色ではなく、土色に変色していた。
幼い時、お祭りごっこをやったことを覚えている。
二人で向かい合い、手と手を交差させて神輿を作り、その上に誰かが座る。わっしょい、わっしょいとかけ声を掛け合い、上に乗る人は意気揚々としている。
だが、今の未知は、お祭りには程遠い。座っているのは神輿ではなく、籠の中。着ているのは法被ではなく、レースがあしらってあるドレス。頭にはハチマキではなく、顔がすっぽり隠れるベール。そして、向かう場所は神社ではなく、ドン・クロボルのアジトだ。
「みち、大丈夫?」
籠の外からセンテバが小声で話しかけてくる。籠を担ぐのは数人の兵士、護衛はセンテバの他に、サールとローザにスピリジ、ユディットがいる。守りは堅固だが、いっそドンのアジトに着く前に何か問題が起きて、騒ぎに紛れてどこかに逃げてしまいたいと思った。
「う、うん……」
昨日、クロボル討伐の作戦会議をしていた時、未知は突然気分が悪くなった。
部屋の外からイルの気配を感じ、いつもの吐き気が襲ってきたのだ。どうしてニャッカの、それも城の中にいるのか。何か不吉な予感がして不安になった。
――みち、大丈夫っ?
センテバは椅子から飛び上がって、未知に駆け寄った。
――明日のクロボル討伐で、足を引っ張らないようにしてほしいね。
ローザは単なる冗談のつもりで言ったのだが、未知にとっては棘のある言葉だった。
――姐さん、今のは言い過ぎですよ。
―ーだ、大丈夫です……行きます。
今はイルの気配を感じないが、近いうちに会うのではないかと、未知は危惧していた。イルも、ドン・クロボルも怖い。しかし、エルザ姫を危険な目に遭わせたくない。センテバが何よりも大切に想っている人だから。
「もうすぐクロボルのアジトです」
アジトへの道筋は、ドン・クロボルが森の木々をなぎ倒した――草木には申し訳ないが――おかげで、明らかになった。
アジトは山際にあった。少し坂を登った先に切り立った崖があり、洞窟になっている。入口には、蹄の跡が無数に付き、一際大きな足跡が混じっている。ここは、間違いなくクロボルのアジトだ。
未知は緊張で手が汗ばんでいる。ずっと正座をしていたためか、足に感覚がない。一度正座を崩したが、アジトが近いと聞いて、居直った。
「姫様、準備はよろしいですか」
ユディットは籠の小窓を開けて、未知に尋ねる。未知はこくりと頷き、俯いた。
小隊が再び動き出すと、籠の中が真っ黒になった。小窓と戸の隙間から見えていた日光は射し込まなくなり、洞窟に入ったことを暗示した。
洞窟の中は湿っており、獣臭い。籠の中にいても、臭ってきた。鶏小屋と牛小屋の臭いに例えても、まだ何かが足りない。未知は小窓を開け、辺りの様子を窺ってみた。
「え……」
地面が異様に黒いと思っていたら、人の血が固まってこびり付いていた。なぜ血だと分かったかといえば、黒い染みのすぐそばに複数の死体が転がっていたからだ。鎧はボコボコにへこみ、籠手や脛当てが辺りに散らばっている。骨だけになっている死体ならともかく、肉片が残っているものには蠅がたかっている。異臭が充満し、鼻をずっと摘んでいたいくらいだった。これらはクロボル討伐に出かけて返り討ちに遭ったニャッカの兵士達だった。
「みんな……」
洞窟の惨状に戦慄したのは、未知だけではなかった。ユディットは顔が強ばり、目を背けそうになった。今まで一緒に戦ってきた同志達が、目の前に変わり果てた姿でいたのだから。
「敵に恐れを見せたらいけないよ」
ローザは物怖じせず、毅然としている。皆黙り込み、明らかに外よりも空気がピリピリと張りつめていた。
通路を抜けると、広い空間に出た。と同時に、入口を数頭のクロボルが塞いだ。壁伝いにクロボル達がひしめき、吹き抜けになっている二階も然り。
「ユニコーン!!」
出し抜けに、センテバは声を上げた。少年の視点は、部屋の奥に向いている。二階の通路には、黒いたてがみの白馬がうなだれて座っている。頭に生やした角はまばゆい金色ではなく、土色に変色していた。
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