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第2章「神の剣」
新魔羅殿
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部屋の広さは、体育館くらいあるのだろうか。地下にこんな空洞があるとは思わなかった。
床には金銀財宝がうずたかく積まれていて、背後のアーサーとエルスタンは興味津々だった。宝物庫と呼ぶべきここは、黄金が放つ光に満ち溢れている。
「金、金だよ~、エルスタン!」
「師匠、こんなにありますよ」
ジャラジャラと両手で金貨を掬いながら、エルスタンは言う。
「エルスタン、あんたが持っているのはオスギール王国の金貨じゃよ」
「もしかして、古代に栄えたオスギール王国ですか??」
「そうじゃよ。表面に王国騎士団の紋章が彫ってあるだろう」
金貨の全体に彫られた三日月。その下の部分には丸みを帯びた十字が刻まれている。ちらりと裏返すと、女神リュークの横顔が見えた。
「まさかルンサームの下に宝の山があるとは思っていませんでしたよ」
「……猫ばばしてもよいかのう」
「師匠、それはいけませんよ! ここは神聖な場所です。泥棒などしてはいけません。まして私達は神に仕える身……」
と言いつつ、エルスタンの手には黄金の冠と杖が握られている。蜂蜜のように滑らかな色合いの黄金を目の前にしては説得力がなくなってしまう。
一方、未知は黄金に夢中になっている二人と離れ、隅っこで立ち尽くしていた。部屋の至る所に居座っている黄金の中にはいたくなかった。がらんとしている部屋の隅の方が落ち着くものだ。
――未知。
暗闇の中で聞いた「神魔羅殿に行きなさい」と促した声。やはり声の主はここにいるのか。
――未知、私はここにいます。
「どこにいるの?」
周りにあるのは金銀財宝だけで、人の姿は見当たらない。首を動かしていると、無意識のうちに背後の壁に頭をぶつけた。
「……何、これ」
壁面には無数の狼が描かれている。体毛は灰色で、口から長い牙が垣間見える。身構えて人に襲い掛かろうとするものもいれば、顔を上げて遠吠えするものもいた。
まさかこの中の一匹が声の主なのか。関わったら最後、噛み殺されてしまう。黄金は罠か。早くここから逃げなければならない。
――どこを見ているのです? 私はあなたの足下にいます。
足下?
未知は壁から目を離し、下を向く。床に散らばった金貨から少しずつ壁の反対側へ視線をずらしていくと、白い台座が姿を現した。
台座には深々と剣が刺さっている。
黄土色の柄は十字型で、編目模様がびっしりと刻まれている。天井から一条の光が射し込み、柄頭に埋め込まれた青い宝玉を鮮やかに照らす。
「……もしかして」
確か昔に読んだ本で、地面に刺さった剣を抜いて王様になった男がいた。本に出てきた剣が人の言葉を話すかどうかは覚えていないけれど。
「聖剣?」
未知は手を伸ばしたが、寸でのところで引っ込めた。
怖い。目の前のそれは物のはずだが、なぜか一人の人間のように感じたのだ。言い知れぬ視線が胸に突き刺さる。一体相手に何を言ったら良いのだろう。分からない。関わらずに早くここから立ち去りたい。
床には金銀財宝がうずたかく積まれていて、背後のアーサーとエルスタンは興味津々だった。宝物庫と呼ぶべきここは、黄金が放つ光に満ち溢れている。
「金、金だよ~、エルスタン!」
「師匠、こんなにありますよ」
ジャラジャラと両手で金貨を掬いながら、エルスタンは言う。
「エルスタン、あんたが持っているのはオスギール王国の金貨じゃよ」
「もしかして、古代に栄えたオスギール王国ですか??」
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金貨の全体に彫られた三日月。その下の部分には丸みを帯びた十字が刻まれている。ちらりと裏返すと、女神リュークの横顔が見えた。
「まさかルンサームの下に宝の山があるとは思っていませんでしたよ」
「……猫ばばしてもよいかのう」
「師匠、それはいけませんよ! ここは神聖な場所です。泥棒などしてはいけません。まして私達は神に仕える身……」
と言いつつ、エルスタンの手には黄金の冠と杖が握られている。蜂蜜のように滑らかな色合いの黄金を目の前にしては説得力がなくなってしまう。
一方、未知は黄金に夢中になっている二人と離れ、隅っこで立ち尽くしていた。部屋の至る所に居座っている黄金の中にはいたくなかった。がらんとしている部屋の隅の方が落ち着くものだ。
――未知。
暗闇の中で聞いた「神魔羅殿に行きなさい」と促した声。やはり声の主はここにいるのか。
――未知、私はここにいます。
「どこにいるの?」
周りにあるのは金銀財宝だけで、人の姿は見当たらない。首を動かしていると、無意識のうちに背後の壁に頭をぶつけた。
「……何、これ」
壁面には無数の狼が描かれている。体毛は灰色で、口から長い牙が垣間見える。身構えて人に襲い掛かろうとするものもいれば、顔を上げて遠吠えするものもいた。
まさかこの中の一匹が声の主なのか。関わったら最後、噛み殺されてしまう。黄金は罠か。早くここから逃げなければならない。
――どこを見ているのです? 私はあなたの足下にいます。
足下?
未知は壁から目を離し、下を向く。床に散らばった金貨から少しずつ壁の反対側へ視線をずらしていくと、白い台座が姿を現した。
台座には深々と剣が刺さっている。
黄土色の柄は十字型で、編目模様がびっしりと刻まれている。天井から一条の光が射し込み、柄頭に埋め込まれた青い宝玉を鮮やかに照らす。
「……もしかして」
確か昔に読んだ本で、地面に刺さった剣を抜いて王様になった男がいた。本に出てきた剣が人の言葉を話すかどうかは覚えていないけれど。
「聖剣?」
未知は手を伸ばしたが、寸でのところで引っ込めた。
怖い。目の前のそれは物のはずだが、なぜか一人の人間のように感じたのだ。言い知れぬ視線が胸に突き刺さる。一体相手に何を言ったら良いのだろう。分からない。関わらずに早くここから立ち去りたい。
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