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三章
オーナーの意図
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俺とスザンヌでクシナダを挟んでベルセンに帰ると、東門の入り口で盛大に勘違いされた。言われて気づくが後の祭りで……。
「おいおい、勇者様は手が早いなあ」
「なんだいスミス君。式には呼んでくれよ?」
「そうか、クシナダちゃんはスーちゃんの子供だったか!」
「そういえば髪の色が同じだもんね」
こんな感じで東門の衛士隊に冷やかされてしまった。睨みつけると目をそらすし、やめるとまた冷やかしてくるし。子供かお前らは。計算が合わんだろうが。
相手をしてても無駄なのでとりあえずマンハイムに向かう。クシナダとスザンヌが上機嫌でにこにこしてるもんだから、勘違いした花屋の主人が慌てて花束を持ってきたのには言葉を失った。
穴があったら入りたいくらいの心境なんだけど、クシナダが手を離してくれない。手を離そうとすると泣きそうな顔で見上げてくる、ずるい。
街を歩くと衛士隊どころか街のみんなにもオモチャにされ、いい加減辟易しながらマンハイムに着いた。これも全部あの変態のせいだ。文句を言ってやろうと鼻息荒くマンハイムのドアを開けて帰還する……が、その瞬間毒気を抜かれてしまった。
「クーちゃんおかえり。スザンヌもちゃんと会えたみたいね。ユート君もお疲れさま」
にこやかに俺達を出迎えてくれたのは、青いドレスを身にまとった長身の美人さん。大きく開いた胸元が眩しい。濃い目の化粧は相変わらずなんだけど、ヴァレリアお前、なんて格好してんだ。
「……キャバクラかここは」
「御主人、きゃばくらって何?」
「……ああいう格好の女の人とお酒飲むお店」
「……御主人のすけべ」
呆れかえる俺をクシナダがジト目で睨む。うん、勘違いするな。俺は行ったことないから。
「ヴァレリアこら。教育に悪いから着替えて来いよ」
俺がそう言うとスザンヌがつかつかと前に出た。腕を組んで不機嫌そうだ。
「そうよヴァレリア。いつの間に着替えたのよ。娼婦じゃないんだからさっさと着替えてきて?ほら、ユート君もやらしい目で見ないの」
「あら~、自分がまな板だからってミニスカート穿いてるスーに言われたくないわね。ね、ユート君こういうのどうかしら?」
軽く言い争いながら俺を睨んでくる2人。頼むから俺を巻き込むな。ああ、ヴァレリアも腕組むなよ、こぼれるから、こぼれるから!
「あー!ヴァレリア姐さんったらずるい!」
俺を睨む2人の背後から、走るような足音と共に聞こえる女子の声。もう勘弁してくれよと思っていると、受付の奥から人影が飛び出してきた。
「もう!急に着替えに行ったと思ったらそういうこと!?」
えーと……あ、シンディか。シンディはヴァレリアと違って割とまともだ。シャギーの入ったショートカットの髪に、大きく開いた茶色い目、普段つけてないルージュを引いてるのはまあいいか。服装も街でよく見るツーピース。フリルのついたブラウスにカーディガンを羽織って、ふわっとした膝丈のスカートを穿いている。ザ・町娘って感じのシンディがミニスカエルフと谷間お化けの間に割り込んで、2人と同じように俺に向き直った。顔は笑顔だが3人とも目が笑っていない。
「えへへ、どう……かな?ユート」
「こんな子供より私の方がいいわよね?」
「キミの感性はまともだと思うんだけど?」
おーい、何でこんなことになったかな。背中をいや~な脂汗が伝う。じりじり寄ってくるな!
「ユート、キミはほんとうに人気があるんだねえ」
後ずさりすると、俺の足元にするするっと降りたトトがのんきな声を上げる。俺はトトの首根っこをつかんで、3人娘に放り投げた。
「ふにゃあ!」
「「「きゃあ!」」」
トトと3人娘が可愛らしい悲鳴を上げ、クシナダが笑いながら集団に駆け寄っていく。
「クシナダ、遊んでもらえ!」
「うん!みんな、ただいまー!」
俺はクシナダ達の横をすり抜けて2階へ続く階段を駆け上った。
「ユート、あとで覚えてなさいよ!」
「ユート君、お姉さんが一番よね?」
「可愛いのは私よね、ユート君!?」
「待ってよユート、ひどいじゃないかい!」
「あ!御主人待って、クーちゃんも、クーちゃんも!」
背後から聞こえてくるやかましい声に耳を塞いで2階へ上がる。あとのことなんか知るか。勢いそのままにオーナーの執務室のドアをノックした。
「オーナー!ユートです!」
ドアの向こうから笑い声と共にオーナーの声がした。
「ふふ、どうぞ。入ってちょうだい」
俺はドアを少しだけ押し開いてするっと体を滑り込ませた。ドアを閉めて背中で抑えて追手の気配をうかがう。うん、誰も来ないな。
「なにやってるのよ、ユートちゃん」
冷や汗を拭っているとオーナーがケラケラと笑っていた。この変態め、俺が聞きたいわ。
「なんすか、あれ……」
絞り出すようにつぶやいて、部屋の中心に向かって歩く。相変わらずオーナーはケラケラと笑っていた。
「バカね、ユートちゃんみたいなのは珍しいのよ。魔力が多くて戦闘もできて、しかもそのうえ欲がない。アナタね、誰彼構わず優しくしすぎなの」
「そんな覚え無いですよ」
「だからあのコ達に好かれるのよ。まあ、しばらくはオモチャにされなさいな。面白いから」
心底楽しそうに笑うオーナー。俺はもうため息をつくしかなかった。なんか最近こんなんばっかりだ。
……いや、本題はこれじゃないって。俺はがりがりと頭を掻いてオーナーを睨んだ。
「何よ?コワイ顔ね」
オーナーも笑うのをやめて俺を見てくる。
「スザンヌから聞きました。クシナダを冒険者にするつもりみたいですね。どうしてくれるんですか、アイツすっかりその気ですよ?」
俺もクシナダが冒険者になることそのものには反対じゃない。ただ、今はまだ早いと思うだけだ。女神の御子とは言え、クシナダはまだ小さいんだぞ?
「何か問題でもあるの?スーが現場復帰するんなら、クシナダちゃんも冒険者になっておいたほうがいいわよ?いずれスーについて行きたいって言うようになるわ。スーはアナタと行動するつもりみたいだし」
「……それはそうですけど」
確かにそうなるとは思う。クシナダがマンハイムの中で一番懐いているのはスザンヌだからな。今まで毎日一緒にいたスザンヌが、たまに依頼を受けて外出するようになる。オーナーが言うように、そのうち自分も冒険者になると言い出すのは目に見えている。俺は同意してないが、どうせなし崩しでスザンヌは俺についてくるつもりみたいだし。でもだからってなあ……。
「だったらいいじゃない?」
「試験はどうするんですか?クシナダだけ特別扱いなんてしないでしょ?」
変態とはいえギルドマンハイムのオーナーだ。特例を出せば他の冒険者や、試験に落ちた志望者に示しがつくわけがない。オーナーが口の端だけ持ち上げて頷いた。
「当然よ。でもねユートちゃん、アナタわかってないわ。クシナダちゃんは今の時点でも十分試験に合格するわよ?」
「……まさか」
「アナタが依頼でベルセンの外にいる間、クシナダちゃんがマンハイムでどう過ごしてたか聞いてる?」
聞いてる。俺が出した宿題をやりながら、マンハイムの冒険者に遊んでもらってる。基本そのはずだ。マンハイムの外に出るのはスザンヌと昼食に出るくらいで、あとはロビーの指定席で俺が戻るのを待っているだけのはず。クシナダからも、他のみんなからもそう聞いている。俺がそういうと、オーナーがいたずらっぽく笑った。
「実はね、マンハイムのみんなでクシナダちゃんに魔法を教えたりしてたのよ」
「な!?なんで俺に内緒で!?」
「だってアナタ、クシナダちゃんに魔法を使うなって言ってたでしょ?たぶんアナタのことだから、自分が魔法を使えるようになったら、クシナダちゃんに魔法を教えるつもりだったんじゃない?」
俺は無言で頷いた。クシナダの魔法についてはオーナーの言う通りだ。俺が理解できないものを、クシナダには教えられないからな。
「バカね、それじゃ遅いのよ。あのコの魔力容量はすでにアナタを超えてるわ。制御できない魔力はあのコの負担にしかならないの。だから、アナタのいない間にマンハイムの中でいろいろと教えてたのよ」
「……事情は分かりました」
そんな言い方されたら納得するしかないじゃないか。
「クシナダちゃんも、もちろんアナタもアタシ達にとっては家族なのよ。もっと頼ってくれてもよかったんじゃない?」
そう話すオーナーの顔は、少しだけ優しく見えた。でも、俺に内緒ってのが気に入らない。
「それならそうと、なんで最初に言ってくれなかったんです?」
ジト目で睨みつけると、オーナーは目をそらしてぼそっとつぶやいた。
「……だって、そのほうが面白いじゃない」
「やっぱりか!この変態!」
「まあまあ、いいじゃないの。本題に戻るわよ」
オーナーが真剣な表情をする。俺は舌打ちをこらえて頷いた。
「クシナダちゃんは冒険者になってもらうわ。これはマンハイムのためというより、アナタ達のためね。勝手に進めたのは謝るけど、これは理解して頂戴。女神の御子であるあのコは、今どこの所属でも無いの。どこにも所属していないってことは、危険に巻き込まれても対処のしようが無いこともあるのよ。何らかの身分証が無いと、もし仮に何かの原因で行方不明になったとしても、衛士隊や王国軍に助けを求めることができないの。もちろん、アタシ達はクシナダちゃんのために動くけど、それだけじゃどうしても手が足りない」
俺はオーナーの説明に納得した。確かにそうかもしれない。もしものことまで考えれば、今のタイミングでクシナダを冒険者としてマンハイムの所属にしておいたほうがいいのかもしれないな。
「だからね、クシナダちゃんの身を守るためにも、ここで所属をはっきりさせる必要があるの。ほんとはアタシももう少しゆっくりでいいかなと思ってたんだけどね。……アナタ、目立ちすぎなのよ」
「……半分はオーナーのせいだと思いますけど」
「バカね、アタシが何もしなくてもユートちゃんは目立ってたわよ。さっきも言ったでしょ?」
ため息をつく俺を見てオーナーがまたケラケラと笑った。
「アナタ、優しすぎなのよ。ベルセンどころか、アグトリ大陸中を探してもアナタみたいなコは珍しいのよ。だから目立つ。そういうコの周りには、自然と人が集まるものよ。善悪は別にしてね。だから、クシナダちゃんを正式にマンハイム所属の冒険者にする。これは決定事項よ?」
まったく、ずるい言い方だと思う。いろいろと思うところはあるが、俺はオーナーの言葉に従うしかなかった。
「おいおい、勇者様は手が早いなあ」
「なんだいスミス君。式には呼んでくれよ?」
「そうか、クシナダちゃんはスーちゃんの子供だったか!」
「そういえば髪の色が同じだもんね」
こんな感じで東門の衛士隊に冷やかされてしまった。睨みつけると目をそらすし、やめるとまた冷やかしてくるし。子供かお前らは。計算が合わんだろうが。
相手をしてても無駄なのでとりあえずマンハイムに向かう。クシナダとスザンヌが上機嫌でにこにこしてるもんだから、勘違いした花屋の主人が慌てて花束を持ってきたのには言葉を失った。
穴があったら入りたいくらいの心境なんだけど、クシナダが手を離してくれない。手を離そうとすると泣きそうな顔で見上げてくる、ずるい。
街を歩くと衛士隊どころか街のみんなにもオモチャにされ、いい加減辟易しながらマンハイムに着いた。これも全部あの変態のせいだ。文句を言ってやろうと鼻息荒くマンハイムのドアを開けて帰還する……が、その瞬間毒気を抜かれてしまった。
「クーちゃんおかえり。スザンヌもちゃんと会えたみたいね。ユート君もお疲れさま」
にこやかに俺達を出迎えてくれたのは、青いドレスを身にまとった長身の美人さん。大きく開いた胸元が眩しい。濃い目の化粧は相変わらずなんだけど、ヴァレリアお前、なんて格好してんだ。
「……キャバクラかここは」
「御主人、きゃばくらって何?」
「……ああいう格好の女の人とお酒飲むお店」
「……御主人のすけべ」
呆れかえる俺をクシナダがジト目で睨む。うん、勘違いするな。俺は行ったことないから。
「ヴァレリアこら。教育に悪いから着替えて来いよ」
俺がそう言うとスザンヌがつかつかと前に出た。腕を組んで不機嫌そうだ。
「そうよヴァレリア。いつの間に着替えたのよ。娼婦じゃないんだからさっさと着替えてきて?ほら、ユート君もやらしい目で見ないの」
「あら~、自分がまな板だからってミニスカート穿いてるスーに言われたくないわね。ね、ユート君こういうのどうかしら?」
軽く言い争いながら俺を睨んでくる2人。頼むから俺を巻き込むな。ああ、ヴァレリアも腕組むなよ、こぼれるから、こぼれるから!
「あー!ヴァレリア姐さんったらずるい!」
俺を睨む2人の背後から、走るような足音と共に聞こえる女子の声。もう勘弁してくれよと思っていると、受付の奥から人影が飛び出してきた。
「もう!急に着替えに行ったと思ったらそういうこと!?」
えーと……あ、シンディか。シンディはヴァレリアと違って割とまともだ。シャギーの入ったショートカットの髪に、大きく開いた茶色い目、普段つけてないルージュを引いてるのはまあいいか。服装も街でよく見るツーピース。フリルのついたブラウスにカーディガンを羽織って、ふわっとした膝丈のスカートを穿いている。ザ・町娘って感じのシンディがミニスカエルフと谷間お化けの間に割り込んで、2人と同じように俺に向き直った。顔は笑顔だが3人とも目が笑っていない。
「えへへ、どう……かな?ユート」
「こんな子供より私の方がいいわよね?」
「キミの感性はまともだと思うんだけど?」
おーい、何でこんなことになったかな。背中をいや~な脂汗が伝う。じりじり寄ってくるな!
「ユート、キミはほんとうに人気があるんだねえ」
後ずさりすると、俺の足元にするするっと降りたトトがのんきな声を上げる。俺はトトの首根っこをつかんで、3人娘に放り投げた。
「ふにゃあ!」
「「「きゃあ!」」」
トトと3人娘が可愛らしい悲鳴を上げ、クシナダが笑いながら集団に駆け寄っていく。
「クシナダ、遊んでもらえ!」
「うん!みんな、ただいまー!」
俺はクシナダ達の横をすり抜けて2階へ続く階段を駆け上った。
「ユート、あとで覚えてなさいよ!」
「ユート君、お姉さんが一番よね?」
「可愛いのは私よね、ユート君!?」
「待ってよユート、ひどいじゃないかい!」
「あ!御主人待って、クーちゃんも、クーちゃんも!」
背後から聞こえてくるやかましい声に耳を塞いで2階へ上がる。あとのことなんか知るか。勢いそのままにオーナーの執務室のドアをノックした。
「オーナー!ユートです!」
ドアの向こうから笑い声と共にオーナーの声がした。
「ふふ、どうぞ。入ってちょうだい」
俺はドアを少しだけ押し開いてするっと体を滑り込ませた。ドアを閉めて背中で抑えて追手の気配をうかがう。うん、誰も来ないな。
「なにやってるのよ、ユートちゃん」
冷や汗を拭っているとオーナーがケラケラと笑っていた。この変態め、俺が聞きたいわ。
「なんすか、あれ……」
絞り出すようにつぶやいて、部屋の中心に向かって歩く。相変わらずオーナーはケラケラと笑っていた。
「バカね、ユートちゃんみたいなのは珍しいのよ。魔力が多くて戦闘もできて、しかもそのうえ欲がない。アナタね、誰彼構わず優しくしすぎなの」
「そんな覚え無いですよ」
「だからあのコ達に好かれるのよ。まあ、しばらくはオモチャにされなさいな。面白いから」
心底楽しそうに笑うオーナー。俺はもうため息をつくしかなかった。なんか最近こんなんばっかりだ。
……いや、本題はこれじゃないって。俺はがりがりと頭を掻いてオーナーを睨んだ。
「何よ?コワイ顔ね」
オーナーも笑うのをやめて俺を見てくる。
「スザンヌから聞きました。クシナダを冒険者にするつもりみたいですね。どうしてくれるんですか、アイツすっかりその気ですよ?」
俺もクシナダが冒険者になることそのものには反対じゃない。ただ、今はまだ早いと思うだけだ。女神の御子とは言え、クシナダはまだ小さいんだぞ?
「何か問題でもあるの?スーが現場復帰するんなら、クシナダちゃんも冒険者になっておいたほうがいいわよ?いずれスーについて行きたいって言うようになるわ。スーはアナタと行動するつもりみたいだし」
「……それはそうですけど」
確かにそうなるとは思う。クシナダがマンハイムの中で一番懐いているのはスザンヌだからな。今まで毎日一緒にいたスザンヌが、たまに依頼を受けて外出するようになる。オーナーが言うように、そのうち自分も冒険者になると言い出すのは目に見えている。俺は同意してないが、どうせなし崩しでスザンヌは俺についてくるつもりみたいだし。でもだからってなあ……。
「だったらいいじゃない?」
「試験はどうするんですか?クシナダだけ特別扱いなんてしないでしょ?」
変態とはいえギルドマンハイムのオーナーだ。特例を出せば他の冒険者や、試験に落ちた志望者に示しがつくわけがない。オーナーが口の端だけ持ち上げて頷いた。
「当然よ。でもねユートちゃん、アナタわかってないわ。クシナダちゃんは今の時点でも十分試験に合格するわよ?」
「……まさか」
「アナタが依頼でベルセンの外にいる間、クシナダちゃんがマンハイムでどう過ごしてたか聞いてる?」
聞いてる。俺が出した宿題をやりながら、マンハイムの冒険者に遊んでもらってる。基本そのはずだ。マンハイムの外に出るのはスザンヌと昼食に出るくらいで、あとはロビーの指定席で俺が戻るのを待っているだけのはず。クシナダからも、他のみんなからもそう聞いている。俺がそういうと、オーナーがいたずらっぽく笑った。
「実はね、マンハイムのみんなでクシナダちゃんに魔法を教えたりしてたのよ」
「な!?なんで俺に内緒で!?」
「だってアナタ、クシナダちゃんに魔法を使うなって言ってたでしょ?たぶんアナタのことだから、自分が魔法を使えるようになったら、クシナダちゃんに魔法を教えるつもりだったんじゃない?」
俺は無言で頷いた。クシナダの魔法についてはオーナーの言う通りだ。俺が理解できないものを、クシナダには教えられないからな。
「バカね、それじゃ遅いのよ。あのコの魔力容量はすでにアナタを超えてるわ。制御できない魔力はあのコの負担にしかならないの。だから、アナタのいない間にマンハイムの中でいろいろと教えてたのよ」
「……事情は分かりました」
そんな言い方されたら納得するしかないじゃないか。
「クシナダちゃんも、もちろんアナタもアタシ達にとっては家族なのよ。もっと頼ってくれてもよかったんじゃない?」
そう話すオーナーの顔は、少しだけ優しく見えた。でも、俺に内緒ってのが気に入らない。
「それならそうと、なんで最初に言ってくれなかったんです?」
ジト目で睨みつけると、オーナーは目をそらしてぼそっとつぶやいた。
「……だって、そのほうが面白いじゃない」
「やっぱりか!この変態!」
「まあまあ、いいじゃないの。本題に戻るわよ」
オーナーが真剣な表情をする。俺は舌打ちをこらえて頷いた。
「クシナダちゃんは冒険者になってもらうわ。これはマンハイムのためというより、アナタ達のためね。勝手に進めたのは謝るけど、これは理解して頂戴。女神の御子であるあのコは、今どこの所属でも無いの。どこにも所属していないってことは、危険に巻き込まれても対処のしようが無いこともあるのよ。何らかの身分証が無いと、もし仮に何かの原因で行方不明になったとしても、衛士隊や王国軍に助けを求めることができないの。もちろん、アタシ達はクシナダちゃんのために動くけど、それだけじゃどうしても手が足りない」
俺はオーナーの説明に納得した。確かにそうかもしれない。もしものことまで考えれば、今のタイミングでクシナダを冒険者としてマンハイムの所属にしておいたほうがいいのかもしれないな。
「だからね、クシナダちゃんの身を守るためにも、ここで所属をはっきりさせる必要があるの。ほんとはアタシももう少しゆっくりでいいかなと思ってたんだけどね。……アナタ、目立ちすぎなのよ」
「……半分はオーナーのせいだと思いますけど」
「バカね、アタシが何もしなくてもユートちゃんは目立ってたわよ。さっきも言ったでしょ?」
ため息をつく俺を見てオーナーがまたケラケラと笑った。
「アナタ、優しすぎなのよ。ベルセンどころか、アグトリ大陸中を探してもアナタみたいなコは珍しいのよ。だから目立つ。そういうコの周りには、自然と人が集まるものよ。善悪は別にしてね。だから、クシナダちゃんを正式にマンハイム所属の冒険者にする。これは決定事項よ?」
まったく、ずるい言い方だと思う。いろいろと思うところはあるが、俺はオーナーの言葉に従うしかなかった。
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