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ヴァレンタイン小話

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happy Valentine!






「え?! うそ!」
うっわー、これって、すごい豪華な夢だよね、と思って、
「ってぇ! ハル、お前、何すんだ!」
目の前にあった先輩のほっぺたを、ぎゅうっとつまんでみた。
「うわ、夢じゃない?!」
だってさ、
日曜日のバレンタインデー、吟味に吟味を重ねたプレゼントを抱えて、先輩んちにやってきて、2月の冷たい空気にすっかり冷えた身体を、ヒーターであっためてたら、
先輩が、いかにもバレンタインの贈り物ですって感じにラッピングされたものを、ほらよ、って感じでぼくに差し出してくるんだもん。
びっくりするよね!
「なんで、夢なんだ」
思いっきり眉間にシワを寄せて、ぼくがつまんだトコを手でさすってる先輩が、地の底からわいてくるような低い声でそう言った。
初対面の人が聞いたら、速攻Uターンしそうなくらい恐ろしげに響いてくる声だけど、ぼくはもう全然、慣れっこだ。
だもんで、ぼくは先輩に向かって、勢いよく叫んだ。
「だって、だって、だって、先輩がぼくにバレンタインのチョコをくれるなんて、夢以外に考えられないよね?!」
痛っ!
うーっ・・・、中指の関節をちょこっとつきだしたぐーにした手で、頭をぐりぐりするのは、断固反対!!!
すっごい、いたいんだから。
「 ―――― いらねぇんなら、正直にそう言え」
「いるいるいるいる! ほっしい、すっごい、ほしい。食べないで、ずーっと飾っとくから」
ぼくは手渡されていた細長い箱を、先輩から奪われないように胸に抱いた。
「生ものだ、一週間以内に食え」
「わー食べる食べる、今すぐ食べる!」
また取り上げられそうな雰囲気に、ぼくは、先輩からもらった箱を大急ぎで開いた。
本当は、その前に先輩に抱きついて、ありがとうのちゅーをしたかったんだけど、そーいうことをすると90%の確率で怒られるので、ぐぅっとガマンした。
嘘みたいだ夢みたいだーって、どきどきウキウキしながら、
ゴールドの細いリボンをほどいて、カカオ色のラッピングペーパーを丁寧に開いて、細長い箱をあけると、
「あ、マカロンだぁ!」
横一列に並んでる、ころん、とまるいマカロンがあらわれた!
あか、ピンク、きいろ、それから、みずいろとカフェ・オ・レいろ。
すごいきれいなパステルカラーのマカロンたちは、まるで、春のお花屋さんみたいだ。
フタをあけたのと同時に、甘いクリームとフレッシュなフルーツの香りと、チョコレートのすごいおぃしそうな香りがして、ぼくはうっとりした。
「先輩、ありがとう、ぼく、大好き!」
そう笑顔全開で言ったら、ふんって感じで先輩が肩をすくめた。
そのそっ気ない仕草がホントは照れ隠しなんだって、知っているから、全然、気にしない。
「別に、知り合いがそのケーキ屋で働いてて、ノルマがあるって泣きついてきたから買っただけだ」
「でもでも、すんごいうれしいよ! ホントに、ぼく、マカロンが大好きなんだ!」
「・・・」
ん?
あれ? 先輩、今、なんか、急激に機嫌が悪くなった???
まぁ、いいや。そんな先輩なんか慣れてるし。
「ぼくもねー、先輩にバレンタインのチョコ、持ってきたよ」
かわいくておいしそうなマカロンを食べるのは、ぼくが持ってきたものを先輩に見せて、喜んでもらってからにしよう、と思って、
ぼくはバッグの中から、ピンクのハート模様がいっぱいついた真っ赤な包装紙にくるまれている箱を、ローテーブルの上に、どん、と出した。
「これ、チョコレートフォンデュセットなんだー」
2人用だから、ちっちゃいんだけど、赤い陶器のフォンデュ鍋はまるっこいハート型だし、
セットの細ながーいフォークの先っぽにはプラスチック製のちいさなピンクのハートがついてるし、
フォンデュ鍋をのっけるスタンドも鍋と同じつるんと赤い陶器製で、鍋を下から熱するキャンドルが見える部分はハート型にくりぬいてあるんだー。
すっごいかわいい!
キャンドルの明かりだけにしたセピア色の部屋で、ゆるゆるにとろけたチョコレートの香りにつつまれながら、ふたりで見つめあっておいしいものを食べるなんて、すごいロマンチックだ。
ぼくのバレンタインの演出ってすごいぞ!
と自画自賛しながら、
ぼくは、他にも買ってきていたものをテーブルに出すべく、バッグに手をつっこんだ。
フォンデュってつまり、鍋ってことだよねー。好きなものをとろけたチョコに浸して食べるんだ。
だから、ぼくは先輩が好きな食べ物をたくさん買ってきた。
「そんで、これが、具材だよ」
バッグからいっこいっこ取り出す。
「みかんでしょー、
ポテチでしょー、
激辛柿の種でしょー、
カレーパンでしょー、
ちくわでしょー、
サキイカでしょー、」
「・・・・・・・」
をを! 先輩が感動のあまり無口になってるっぽい。
うんうん、喜びのあまりに声も出ないなんてよくあることだしね!
よぉし、さらにびっくりさせてあげよぉっと。
ぼくは、じゃじゃーんと口でBGMして、
先輩の大好物を取り出した。
「それからねー、たこ焼きも買ってきたよ!」







イタィ・・よぉー、
なんで、両方のコブシで頭グリグリされたのわかんない。
チョコフォンデュ出した時、ちょっとだけ目をうれしそうに細めてたのサ!
先輩って、すごい、気分屋だー。






( おわり )



はるちんは、味覚オンチらしい・・。




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