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番外編 : 先輩SIDE ゆびきりげんまん

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「ぼく、先輩に愛されてない気がする」
真剣な口調と神妙な表情でハルがくらだねぇ事を言いやがった。
二つ下の後輩は、とても高校一年生とは思えないぐらいに幼い、、、というか思考回路がコドモだ。
同じ高校とはいえ、2学年も違う、俺とハルの接点は半年前の体育祭だった。
5月に行われたその体育祭は、学年を縦割りにしたチーム構成で、俺たちはたまたま同じブロックになった。
練習のために集まった運動場で、俺は初めてハルを見た。
ハルは野郎ばかりの男子校には浮いた感じの容姿をしていた。線の細い身体つきにふわふわのキャラメル色の髪。それから、こぼれおちそうなくらいにデカイ瞳。
それなりにイイ見た目とはいえ、まるっきり、ガキくせぇ顔立ちだ。
なのに、その、さくらんぼみたいなクチビルだけが妙に色っぽくて、その時、なんだか、ヤバイ気がした。
こんな、ガキみたいなヤツになんか、まるっきり興味なんかなかったはずなのに ―――― 俺は、気がつけば、ハルを自分のものにしていた。
「・・だって、先輩、いっつもメールの返事遅いし、っていうか、あんまし返事くれないし、それに、たまーにしか先輩のほうからぼくにメールをくれないし、」
くちびるをとがらせながら、ハルが言う。
学校帰りに連れ立って俺んちに来るときから、ヘンに暗い顔をしてやがるから、腹でも痛いのかと思ってたが、そんなコトを考えてやがったのか・・。
俺の部屋に入るなり、いつものごとく、カーペットの上に置いておいたクッションに座ったハルが、無言でケータイをいじりだしたから、適当に放っておいたら、急にそんなことを言い出した。
ベッドを背もたれにして、ハルから少し離れたところに座っていた俺はちいさく息を吐いて、手元の雑誌に目を戻した。
言ったことはないが、ダチだって俺の部屋に入れたことはない。
自分のプライベートな空間に、誰かを招いたのは、小学生の時以来、ハルだけだ。
家に居つかず、遊び歩いていた俺が、この所、俺とはまるで毛色の違う後輩を連れて来ては部屋でのんびりしているものだから、母親が俺の体調を心配したぐらいだ。
派手な場所で、欲求を発散させるよりも、自分の部屋でコイツと他愛もないことを話したりふざけたりしてるほうが、いい。
今、ハルが腰を下ろしている黄色のビーズクッションだって、わざわざハル用に買ったものだ。
だが、そーいうことを、どうコイツに伝えろっていうんだ。
自分にだってそれがどういうことなのかわかってないというのに ―――。
ただ、ハルが今までに周りにいないタイプだったから、物珍しくて手をだしただけだ・・・、と俺の周囲の連中が言うとおりだと、自分でも思っていた。
「それに、」
ひときわ、淋しそうな声でハルが言った。
「・・それに、先輩からのメール、全然、デコってない!」
最後は、語気を強めて、ハルは俺のそばに来ると、俺の腕をぎゅっとつかんだ。
制服の上着を脱いでいたから、シャツ越しに、ハルの高い体温が伝わってくる。
その一瞬で、今まで味わったこいつの肌の感触が、よみがえってくる。
多少、うんざりしながら、俺は口を開いた。
「そもそも、俺は、お前にアイシテル、なんて言ったか?」
(・・・ああ、ばーか)
これは自分に対するダメ出しだ。
ハルの体温が俺から離れてゆく。
こんな駆け引きの言葉をうまく切り返せるヤツじゃないとわかっているのに。
「ハル、なさけねーツラすんな」
「・・・してないもん」
くちびるを噛んで、何か耐えてる。
ハル、泣きそうだ。
「ぼく、コンビニに行って来る」
「はる」
ちくしょう。
立ち上がりかけたハルを捕まえ、じたばたと暴れる身体を大人しくなるまで腕の中に閉じ込める。
腕に残っていたハルのぬくもりが急速に冷えていったのが、どうしてイヤだったのか、明確な理由は自分でもわからない。
ただ、コイツは俺のそばに居ればいいんだ。
それだけだ。
(そういう気持ちをコトバになんか、できねぇだろう)
そう思いながら、正面から抱き合うカタチで抱きしめていたハルが、そっと俺の背中に手をまわしてきた。
「お前の髪、やわらかいな」
頬でなでるように、ハルの頭をこすった。
「 ―――― きもちいい?」
おずおずとハルが尋ねてくる。
「ああ」
適当に返事をすれば、ハルがくすぐったそうに笑う。
その震動が俺の中に、あたたかいものを生み出す。
「ぼくね、シャンプーを変えたんだ。今ね、はちみつシャンプーってゆーのを使ってて、あ、でも、はちみつだけど、全然、ベタベタしてなくて、においだけははちみつっぽいんだけど、なんか、髪のえーようにすごいイイらしくって、最初は ―――― 」
と、俺には全く興味のない薀蓄をとりとめもなく垂れやがる。
それでもハルの活き活きとした明るい声をずっと聴いていたいと思う。
人は流れてゆくものだ。誰も俺のそばにはずっと留まらないし、俺も誰かの元にはずっと居やしない。次々と、場所を代え相手を変え、 ―――― そうして、最後はヒトリで死ぬだけだ。
けれど、どうしてか、ハルだけは、俺の元に留めたいと思う。
「ねぇ、先輩、」
ひととおり、洗髪についてしゃべり終わったハルが、不意に声を潜めた。
「ああ?」
「いちばんじゃなくてもいいから、ぼくのこと好き?」
そこにカラダが在れば良かった。ココロなんて却って疎ましかった。
そんなふうに自分の熱を発散させてきたことが、どうしてだか、今は遠い記憶になっている。
「 ――― あぁ」
「ホント? よかったぁ」
そう言って、ようやくハルが顔を上げた。
「じゃあ、先輩、絶対、今度、メールに絵文字つかうよね!」
力強い口調でハルが断定して、約束のシルシに小指を俺の前につきだした。
ありえねぇだろ、ばーか。
と、言うはずの口は閉ざし、俺はしぶしぶとハルの小指に自分のをからめた。
(しょうがねえな、)
だって、そうしてやれば、
花がほころぶように、
ハルが笑うんだ。





( おわり )




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