20 / 23
22.こあくま
しおりを挟む9月も半分を過ぎたっていうのに、今日も夏の盛りみたいな気温だった。
先輩の部屋に入るとすぐに、
「クーラーつけるからな」
そう言って、先輩が開けっ放しにしていたらしい窓を閉めて、エアコンのリモコンを手に取った。
年代ものなのか、
先輩の部屋のエアコンからは、一度大きく、ぐごん、という音がした。
そして、
ぐごごごーーー、っとうなりをあげると、うぉんうぉんうぉんとなき、
それからようやく、静かに動き出した。
「今日、暑かったねー。朝は曇りだったのにさ」
部屋のドアを閉めたボクは、エアコンの前に立っている先輩の横に移動した。
日曜日の今日、
大学バスケの予選リーグが市内の体育館で行われたから、
先輩がお目当てだった「優勝候補」の大学の試合を観て、
午後2時という、いちばん暑い時間帯に沢垣先輩んちにふたりして帰ってきた。
駅から先輩の家までの道のり15分で、もう、汗だくだ。
「ああ、雨が降るかもなって思ったけど。すっかり晴れてくれたな」
ボクよりも断然、低い声で、先輩がリモコンでクーラーの風向きと温度を調節しながら言った。
先輩は、ボクより頭半分、背が高くて、身体もひとまわり大きい。
半袖シャツからのぞいてる腕の筋肉が、すごくて、ちょっと悔しい。
(ボクもそのうち、先輩みたいになるから!)
って、思って卓球部の先輩から教えてもらった筋トレは毎晩やってるのに、ボクの腕は細っこいまんまだ。
・・・握力は強くなってるのになーーー。
ちぇー、って思いながら、
ぱたぱたっとTシャツのスソをあおいで、素肌にクーラーから流れてくる風を送った。
汗をかいてた身体が冷たい風でヒヤっと乾いてくのが気持ちいー。
ほてった肌に冷風が心地よくて、ボクは、はぁーっと息を深く吐いた。
クーラーの送風口の下でそうしてると、
肌を刺す視線。
ん?
くりん、と横を向くと、
先輩と目が合った。
・・・・・・、
Tシャツをぺろんとめくってみせた。
先輩のつっよい視線が、むきだしになったボクのウエストに移動した。
ので、
かねてから謎だった実験をやってみることにした。
先輩ってボクのどこに、そんなにクるんだろう・・・と。
で、
Tシャツを、もちょっと、めくりあげてみた ―――― ら、
あっという間に、ベッドの上へと瞬間移動してた。
すごい。
イリュージョン?
そうか、
ハダカの胸でもけっこうクるんだ。
オンナの子みたいに胸があるわけでもないし、先輩みたいに逞しく胸筋がついてるわけでもないのになあ。なんで、そんなに即効スイッチが入るんだろう。
んーっ、とボクにキスしてこようとした先輩の顔を横に押しやって、
「ボク、先輩が言ってたドラマのDVD観たいな」
と、先輩に言った。
「・・あ?」
先輩のお父さんは海外ドラマが好きで、シリーズを揃えて持っているのだそうだ。最近、無人島に飛行機が着陸したアメリカドラマを揃えたらしい。
それ、テレビでも放映されてるけど、ボク、最初のほうを見逃してたんだよなー。
「え、だって、陸、今、誘っただろ?」
「ううん?」
機敏に身体を反転させて、先輩の下から抜け出て、ボクは起き上がった。
こういう素早い動きは得意だ。
「暑かったからTシャツの中に風をいれただけだよ」
先輩が泣き笑いのような表情になった。―――― どうしたんだろ?
「し、しようか?」
「今、気分じゃなーい」
ボクは、ぽんっとベッドから降り立った。
「ね、先輩、早く観よー」
先輩の部屋もテレビはあるけど、DVDは先輩んちのリビングの大画面で観たくって、リビングに移動した。
ちょうど、先輩のお父さんとお母さんも出掛けてるらしいから、ボクは伸び伸びと先輩んちのソファにすわりこんだ。
DVDをセットした正面のテレビからは、耳に馴染んだテーマ曲が流れてくる。
うちはまだ、薄型フラットハイビジョンテレビじゃないから、こんなに大きな画面で観れて、うれいしい。
「わ、やっぱ、画面が大きいと迫力あるねー」
海に飛行機が落ちる音も、重低音がお腹に響いてくる。映画館並みだ。
「あ、ああ」
日本語吹替えじゃなくて字幕モードでDVDを再生していたから、
オープニングが終わって画面下に流れる文字を一生懸命、目で追ってたら、
先輩の顔が、ボクの目の前に!
「もぉ、テレビが観えないってば、」
じわーっとボクの肩を抱いてきていた先輩に言い放った。
ボクの髪の毛に、顔つっこむのはいいけど、真正面にはこないでほしい。
「先輩、うっとおしい!」
言ったついでに、肩をねじったら、
うっ、と先輩が身体を引いた。
見逃していた1話と2話目を観て、3話目はテレビで観てたけど、テレビ放映版とちがって字幕版なのがまた新鮮で、3話目もこのまま観たいなーどーしよーかなー、と悩んでると、
もぞ、っと視界の隅で、大きなかたまりが動いたのに、気がついて、
ボクは先輩の存在を思い出した。
「先輩、」
あんなにぺたっとボクにくっついていたのに、いつのまにか先輩はソファのはしっこで体育座り。目線は床。
「どうかした?」
「陸、―――― 俺、うっとおしいか・・・?」
男らしい横顔を、なんだかくら~くかげらせて、先輩がぼそっと言った。
「え?」
・・・・・・あ、
そうか、さっき、うっかり ――――。
「え、ううん。えっと、ごめん、ボク、テレビに夢中になって、あんなこと言っちゃったんだ・・・、ごめんね、先輩。ボク、全然、そんなこと思ってないよ」
ボクはあせって、言った。
先輩は、いつもボクにやさしい。
いつだって、好きの気持ちをボクにくれて、ボクをしあわせな気持ちで満たしてくれる。
ボクも先輩のこと大好きだし。
だから、ちゃんと、気持ちを伝えてフォローして、先輩に哀しい顔をさせたくない。
「・・本当か?」
先輩が、ちらっと顔を上げてボクを見た。
「うん、」
勢い込んで、ボクはうなずいた。
「ボク、先輩のことうっとおしいとか、すぐに抱きついてきて暑苦しいとか、キスが長すぎるとか、キスマーク付けすぎだとか、いっつもボクの身体をさわろうとしてチカンみたいだとか、ヘンな妄想にはもういい加減ついてけないとかって、ちっとも思ってないから」
ね、って、ニコっとしたのに、
ぱちぱちっと大きくまばたきをしたあと、
先輩はヒザを抱えたまんま、かたまってしまった。
・・あれ?
ボク、なんか、間違った?
( おわり )
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる