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3.いちばん

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夏休みが始まって3日目。
ボクが入っている卓球部も、沢垣先輩が入っているバスケ部も練習が午前中だったので、
一緒に帰って、コンビニでお昼を調達して、
沢垣先輩んちで食べてるんだけど・・・。
冷房の効いた先輩の部屋で、
うしろから抱きかかえられれるのはOKなんだけど、
一応、恋人、だし。
ボクは小笠原 陸。そして、ボクは1コ上の沢垣先輩とつきあっている。出会いとフォーリンラブ(先輩談)は、今年4月に、入学したてのボクが部活見学に行ったときの体育館だった。
沢垣先輩からの速攻の告白と速攻のあれこれで、すっかり恋人どうしなんだけど、先輩は見た目バリバリの体育会系らしい男っぷりなのに、すぐにネガティブ思考に走って、やれボクがココロガワリをしただとか、もうオレのこと好きじゃないんだとすぐイジケる。
5日前は先輩と帰ってるときに街で偶然あったボクの兄貴との仲を疑ってくるし、しかもその後、へんな場所で事に及ぼうとするしで、「もう当分しない!」とあおずけ宣言をした。
その間、一切、なんにもナシで、
でも、ええと、
自分で言い渡したんだけど、
ボクも先輩とのボディコミュニケーションがないのは、ちょっと淋しいなあと思ったり思わなかったりの微妙なボクの気持ちを見事に読んだ先輩からのうしろから抱っこの体勢には、
「だめ」は言えなかったりするんだけど(先輩は、こういう心の機微は恐ろしいまでに読みが正確だ)、
この、
ボクの身体をさわさわと動き回る手はどうにかならないんだろうか・・・。
あおずけを言い渡してから、先輩とは部活のあとにいっしょに帰るぐらいで、今みたいにふたりっきりでゆっくりするのは本当に久しぶりだ。
そろそろ、キスぐらいは許してもいいかなーと思ってたけど、まだ、1コ目のサンドウィッチも食べ終えてないのに、
スキンシップにしては度が過ぎてるようなこのタッチに、
「ちょっと、あんまり、」
と抗議しようとしたら、
うしろから耳の裏側あたりをぺろり。
あ、ソコ、弱いの知ってるくせに。
そして、鼻先をぐりぐりと舐めて湿らせた皮膚に押し当ててくる。
わ、わ、わ、ヤバイ。それは、やばい、ん、だけど。
「陸ー、いーにおいするー」
先輩、それはきっと、ボクのニオイじゃなくて、今ボクが食べてるカツサンドのニオイだと思うよ。だって、先輩、まだオニギリを一個しか食べてないし。お腹すいてるんだよ。
そう思って、肌をなでていくしゃべる息に、ちょっとドキドキしながら、半分ほどまだ残ってるカツサンドを口からはなして、
「食べる?」
と聞いたら、
「食べる食べる」
と勢い込んだ返事とともに、
すわっていたフローリングにどさり。
あれって思うまもなく、片手にサンドイッチを掲げたまんま、押し倒されたボクの身体の上に先輩が圧し掛かっていて、
でれっとした顔で、
「やっと、お許しがでた」
と言った。
ちっがう、ちっがう、
そいういう意味じゃないし。
そう言おうとしたら、ボクが手に持っていたカツサンドをぱくり。
あ、びっくりした。
ちゃんと意味わかってたんだ。
ほっとして力をぬいたボクに、
「じゃ、こっちも」
と、あっという間にカツサンドを食べ終えた先輩がくちびるをよせてきた。
「うっわ、ダメだって」
って言ったのに、
「いただきます」
と強引なキス。先輩、こういときにだけ、強気なのはどうしてなんだろう?
しかも、
シャツのボタンがすごい勢いで外されていく。
うわーうわーうわー、どうしよう。
ちゃんと「してもいい」みたいなこと言ってないのに、なしくずし的なこういうことは、この前と一緒で、
かさなってくる手とか舌とかくちびるとか身体とかに、自分がすごく先輩の熱に飢えていたことを自覚させられるから、
「ダメ」が言えなくなる。
形ばかり、先輩の肩を両手で押し返してみるけれど、てんで本気でつっぱねられない。
ぬるぬるしてるのがざらざらしながらこすれあう気持ちよさに、
頭がぼおっとしてくるのに、身体の感覚が鋭くなってくる。
手、が、
背中のくぼみや、胸や、脚のつけねのところを這って、
怒ってた気持ちやなんかをの感情を遠くに押しのけていく。
もっと、ほら、チガウ、親密なことをしよう、と言ってるみたいに。
それで、
さんざんボクの口の中で暴れまわってた舌がでていって、アゴを伝っていた唾液を舐め上げたあとに、
「陸、してもいい?」
バスケの試合のときみたいな、カッコイイ顔で先輩が聞いてきた。
この顔はいつだって、ボクに、これから甘くて苦しいことが起こることを予感させる。
もう、ボクのベルトもゆるめて、ウエストのボタンもはずして、ファスナーに手をかけてるくせに。
ボクのがどんなカタチに変化してるかわかってるくせに。
でも、ここでボクが「しない」って言ったら本気でやめちゃう人なんだよな。
「全部、しないんなら・・・」
まだこないだのこと許してないんだからね、って、ちょっと意地はってそんなふうに言ってみたら、
「陸が全部欲しい」
即、返された。
真剣な顔と真剣な声に、
許すだとか許さないだとかが頭から抜けてく。
先輩、いつもこんなふうに強気ならいいのに。
そんなことをチラリと思いながら、
問われたことにはっきり答えるのは恥ずかしくて、
熱っぽく見つめてくる視線から逃げて、
小さくアゴを引いて、うん、と示した。
先輩の肩あたりを見ながら、わかったかな、と思っていると、
もう一度顔を寄せてくる気配がして、上を向くと、すぐにくちびるが重なってきた。
濡れた感触があわさって、どんどんと身体が高まっていく、
先輩の手、も、きわどい輪郭をなぞってく。
意識が溶けそうになる。
だからその前に、
「・・・ボクがいちばん好きな人、誰か知ってる?」
くちびるがはなれたスキに聞いてみた。
「―――― オレ・・?」
即答じゃなくて、しかも疑問系なんだけど。それにムウっとしながら、まあ、「誰?」と答えられるよりはましかも・・・、と考え直して、
「そうだよ。先輩がいちばんだから」
こういうことしたいんだよ、先輩と。
と、目で訴えた。
だからね、いつもね、もちょっと自信を持ってよね。
先輩とこんなふうにすごくくっついてるのが好きで、
ヘンなところもかっこ悪いところも、丸ごと全部の先輩が好き。
そういうのまで伝わったかどうかわからなかったけれど、
先輩からの激しいキスが、
その答えだったような気がした。

それで、ボクらはもっともっと親密になるような行為に没頭した。




( おわり )
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