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8.好きって100回

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ケータイのカレンダー機能んところに。
ハート印をつけてる日がある。メモはいれてなくて、マークだけ。
4月のある日、ボクと先生がはじめてシタ、日。


その翌日が土曜日で、先生んちのマンションに行って ―――― 2人でキスと、ぎゅっとするのをした。先生に、「明日は海へ行こう」って誘われて、
だから、
翌日、日曜日の朝。また、先生んちのマンションに行った ―――― 今日は、海に行って、
それから、・・・するんだよね? ってドキドキと不安が入り混じった気持ちを持って。






でも、なんで、ボク、釣竿なんか持ってんの?
「おいっ、凛一! 引いてるぞっ」
先生の大声で、はっと我に帰って、釣竿を引いた。
磯釣りに来ています。今日は、先生とのおつきあい三日目。
釣り場までの2時間半のドライブ。「初デートだ!!」とテンションがあがりまくって、昨日あんまし眠れなかったせいか、助手席でナビしようと思ってたのに、ぐーぐー寝てた。
海間近のドライブインでゆり起こされたとき、なにげにアゴをぬぐったら、濡れてたしっ! 先生は気づかないふりしてくれてたけど、確実にヨダレたれてた ―――― 。
そして、今、ボクが身につけてる海ファッションの、
釣竿と長靴とアゴひも付きの麦藁帽子と首にまいてるタオルは先生が貸してくれた。
手をつないで、浜辺を散歩、じゃなかったの??
こんなん、デートじゃないいいいいいって、ジタバタしそうな自分をなんとかなだめて、ぐいぐいっと引っ張られてる竿を高くあげると、
「あっ、修平っっ、サカナだよサカナ! すごいっっ、ボクが釣ったんだっ!! 」
おおはしゃぎ・・・。
先生は料理道具も持ってきていて、その場で釣った魚をさばいていった。保温お弁当箱に入った白ご飯と、簡易コンロでつくったサカナのアラ入り味噌汁と、さばきたての刺身の、すごいおいしいご飯を、2人で食べた。まわりで釣りしてたおじさんたちと、それぞれの収穫をおすそ分けをしあいながら。
それからまた2時間半のドライブの終着先は、ボクんちの近所で、ボクは初めての海釣りでテンションあがりっぱなしだったせいか、帰りもガーガーと助手席で眠ってた ―――― 。
一応、人目のつかない路地で下ろしてもらったけど、近所だから、さよならのキスもなくて、
先生からは、
「じゃあな」
の一言でバイバイ、だった。










「曽根崎先生」
職員室で、先生を呼び止めた。
「ああ、藤原か」
「これ、みんなの論文です」
最近の大学受験は論文を重視しているから、各科目の授業をまたいで、論文試験対策が行われてる。
先生が担当している現代国語の授業では、まずは、とっかかりとして文章構成の起承転結を身につけるために、400字論文が毎週の課題となった。
学習委員のボクは、毎週月曜日にクラスの皆から集めたその課題を、先生のところへ提出するのが役目だ。
「ありがとう、悪かったな」
日に焼けた顔で、にっこり、された。
ここが職員室じゃなかったら、顔がほにゃん、てにやけそうなくらいカッコイイ笑顔。
ボクんだからねー。ボクだけの先生だからねー、と誰彼かまわず自慢したくなるくらい。
でも、先生はボクから用紙の束を受け取って、そのままそっけなく背を向けた。
わかってはいるけれど、
それが「生徒」に対する当たり前の接し方だって、頭では理解してるけど、
胸が少しぐらい、痛くなったってしようがないよね?
ケータイは学校に持ってきてもいいけれど、校内では使用禁止。こっそり、使ってるやつらもいるけれど、見つかれば、即、没収。
生徒の手前、職員もメールやケータイの使用を控えているから、同じ学校にいても、かえって、平日のほうが先生とは連絡が取れない。先生の机のある職員室や、国語科研究室は、いつも大抵、他の教師が居るし。
次、いつ、一緒出来るのかな? 日曜日は次の予定を言わずに寝ぼけたまんまバイバイしたし。
ボクのまったく役に立たなかったナビとか、
すごいおいしくって、ほとんど先生が釣ったのに刺身をバクバク食べてしまったこととか、サカナをつりあげて、子どもにみたいに大声ではしゃぎまわったこととか、先生、イヤにならなかったかなあ・・・。
楽しい一日だったけど、翌日には、不安で胸がいっぱいになる。
これは、先生でしか拭い去れない、不安。
だから、
思いきって、夜電話した。9時ごろ。これくらいだったら、迷惑な時間じゃないよね、って思って。
ケータイにかけたけど、中々つながらなくて、留守電にもならないから、お風呂とかかなあって思って、切ろうとしたら、
『・・凛一?』
眠そうな声だった。
「あ、うん。ごめん、寝てた?」
『いや、・・・ソファでちょっと横になるつもりだったのが、眠ってた。よかったよ、起こしてもらって。
じゃないときっと、メシも食わずに朝まで寝てた』
―――― 仕事から帰って、ご飯もまだなくらい疲れてたんだ。
なんか、悪いことをしているような気がしてきた。先生の睡眠を邪魔してるんだ、ボク。
「あ、あの、昨日は、ありがとう。すごい、楽しかった。せっかく送ってくれたのにちゃんとお礼も言えなくて―――― 」
『ああ、凛一、爆睡してたもんなー』
先生の声もやっと目が覚めようなはっきりしたものにかわってきた。
からかうような口調だったから、
「ごめん、ってば」
って、ついスネたように返した。
『いいさ。朝早かったし遠出だったもんな。俺は慣れてたけど、凛一はそうじゃなかっただろ』
先生のやさしい口調に、何も言えなくなる。
『でも、凛一、意識失ってるみたいに眠ってたから、そのままどこかに連れ込もうかと思ったぞ』
そうしてくれればよかったのに、なんて思っている自分にびっくりして、
でもそれを先生に言えるわけもなくて、
そうされたことを想像してしまって、勝手に、身体がぞくぞくっとした。
ごくり、と息をのんだ。
『・・・・・・―――― 。冗談だからサ、マジに取んなヨ』
無言になったボクに、明るく言ってくれた声は、でも少し戸惑ったような響きがあった。
「わかってるよー」
大人の軽口に深く想いをめぐらせてしまう、子どもだなんて思われたくなくて、そうかるく答えた。










その週は、残業続きで、土曜日もつぶれたらしく、やっと会えたのは日曜日だった。
学校でも、校内でちらりと見かける他は、授業でしか会えなくて、つきあってるからかえって人目が気になって、話しかけにも行なかった。以前の、ただ想ってただけのときのほうが、周りを意識しない分、たいした用事がなくても、ずっと気兼ねなく先生のそばに行けた ―――― 。
夜も、最初に電話したのが先生がうたた寝をしてたって言ったから、仕事で疲れてるんだろうなって、思うと、かけれなかった。
・・・先生からもかかってこなかったし。
淋しいなあ、と思って、ちょっとだけ、先生にこころの中で、文句を言った。
けど、
先生は新任だけど、学校内での職員の役割分担にはしっかり組み込まれていて、授業のほかにも、2学年の7月の臨海合宿の計画。それから、国語科の研究授業のホスト校にうちの学校がなってるらしくって、その起案だとかの会議が2日を置かずに行われてるんだって、あとから教えてくれた。










「修平、料理上手だよね」
先週の日曜日に海に行って、魚釣って、ぎゃあぎゃあさわぎながら、修平修平って連呼してたら、いつのまにか、口に出して、修平って呼ぶのに抵抗はなくなってた。
けど、やっぱり、年上で、大人な人だから、憧れの気持ちに、埋めようがない距離があって、
心の中では、「先生」と呼ぶことのほうが多い。
でも、ボクは先生と対等だと思ってるからねー、な意地があって、口に出して呼びかけるときには修平、って呼んでいる。
先生も、先生って呼ばれたくないって言ったし。
「一人暮らしだから?」
「まあ、そうだな。大学入ってから、自炊だけど。料理はその前からやってた」
「へぇ、作るの好きだったんだ」
「作るのっつうか、食べるのがな」
スープの味見の小皿をまわしてくれた。
「甘くないか」
日曜日の今日、先生が、「びっくりするぐらい美味しいカレーを作るから」って言うから、ボクも手伝っていた。いろんなスパイスを調合してつくる、本格派だ。牛骨からとるベースになるスープは昨夜から煮込んでらしい。
「うーん、も少し、塩っけがあってもいい感じ」
「そっか、じゃ、塩足すか」
てきぱきと、先生が鍋にぱらぱらっと塩をふった。
そして、また、さっきの話しの続きをし始めた。
「自分がこうだから、将来ヨメさんもらってごはん作ってもらうなんて一生ないだろうって自覚したときに、自分の好きな味は自分で作れるようになっとこうかなあ、と思ったんだ。俺、食い意地張ってるしな。
で、学生んときに料理に興味があるからって言っておふくろに習ってた」
ま、今時は、オンナだけがメシつくるなんてありえねーけどな、とははっと笑った。
「学生のときって、高校生?」
「ん? いや、中坊んとき」
なんでもないことのように言って、使った小皿や、包丁や、トレイを先生が洗い始めた。
ボクなんか、自分がオトコのヒトしか好きにならないんだって自覚したの中学の時だったけど、自覚した以上のそこからの将来についての準備なんか考えたこともなかった。
なんとかなるかな、なんとかするさ、みたいなテキトーさ、で、直面しそうな問題なんか考えたこともなかった。
「ナニナニ、俺をぼーっと見つめちゃって、料理の腕を知って、惚れ直した?」
冗談のように、先生が言った。
先生が洗ってすすいだものをフキンで拭きながら、
「惚れ直したっていうか。もともと惚れてたのより、ますます惚れた」
自然に、ぽんっと言葉がでた。
なんか、脳から直結した言葉だった。照れとか甘えとか負けないようにだとかの邪魔な気持ちがない、まっすぐな言葉だった。
「・・・・・・」
手に持ってた小皿を先生が受け取って、シンクの脇に置いた。
まっすぐな瞳に見つめられて、
あ、ふれてくる、とわかって、顔を少し上げた。
そっと、くちびるを吸われた。
やさしい仕草に、ああ、ボクの気持ちをそのまま受け取ってくれたんだ、と感じて、なんだか気持ちがじんわりと温かくなってった。
重なっていたくちびるが自然とひらいた。先生の温かい舌とふれあうたびに、こころのどこかがうるんで満たされていくような感じがする。
言葉はないけれど、なにかが先生からボクに伝わってきてて、それにボクも応えた。
こんなふうに、澄んだなにかがふたりの間を行ったり来たりすることを、なんていうんだろうと思った。
甘やかなボクらの口づけは、噴いてしまったお鍋の合図によって、時間切れでおわった。
先生の腕がボクの背中からはなれて、
身体が、淋しいとため息をついた。
もっと、って思ったけど。
もっと、先生の熱や、汗のにおいを知りたいって、
もっと、先生に抱きしめていてほしいって、
どうやって伝えたらいい?
寒いような熱いような感覚がボクの身体の中をぐるぐるとまわっていた。




カレーはグーな出来て、スパイシーでとても美味しかった。口に入れた時はそんなに辛くないのに、あとからヒャーーって辛くなってきて、汗がでてきた。タイ米のパラっとしたご飯とよく合ってた。
本格的なスリランカカレーだったけど、福神漬けとらっきょうは外せないらしくって、カレーの横に置いてあったのが、なんか、おかしかった。
その福神漬けとらっきょをぱりぽり食べながら、
「カレーすごい、美味しかった。食べたことない味だったよ」
そう言うと、満足そうに笑って、
「これがまた一晩おくと、おいしいんだよな」
って先生が言った。
「えーっ、食べたいなー」
「じゃあ、明日たべに来るか?」
「あー、食べる食べる!」
カレーよりも、
明日も、こんなふうな時間をすごせるんだと、思ったら、すごく、嬉しくなった。
夕食後、
先生と並んで、リビングで観てたテレビが、今日、9時からの映画の予告をしていた。
「これ、観たかったんだ。1作目だけ観て続きを観てなかったから」
好きで面白くて、いつかビデオを借りようと思ってたアクション映画の続編だった。
「そうか、じゃあ、今から送ってったら、間に合うよな」
先生が立ち上がったからびっくりした。先生と観れたらいいな、って思ったのに。
確かに、今、8時少し前だから余裕で間に合う、けど。
うちは門限とかないから、帰らなきゃいけない時刻じゃない。そう言おうと思って、
でも、きっと、仕事の準備とかあるんだろなって気がついた。自由な時間を自分のためだけに使えるボクと、働いている先生は、違うんだよな・・・・。
昨日もけっこう遅くまで起きてたっぽいことを言ってたから、これ以上先生の時間を邪魔しちゃいけないんだよね。そう、思おうとしたけど、残念な気持ちはおさえきれなかった。
6時から夕食して、のんびり食べて、いっしょに後片付けして、リビングのソファに座って、コーヒー飲みながら、テレビをBGMにしゃべってたら、もうこんな時間だったけど。
2人で冗談ばっかり飛ばしあって笑ってたけど、ボクの意識の半分は、先生とふれあってる肩だとか腕だとか脚だとかにいってて、
ときおり、笑い転げたふりして、先生の肩に顔をのせたりして、
先生の腕が、ボクの背中にまわってくるのを待ったけど、
全然、で。
少し、淋しかったんだから、って車のキーを取りにいった先生の背中につぶやいてみる。
本当は、スルのかな、と思って、待っていた。ベッドルームに誘われるのを。
怖いような、期待するような感じで、いつ言われるかなって、どきどきしてた。
深いキス、だとか。自分の肌で先生を感じること、だとか。全部、先生が、この前、教えてくれたことをまた、ここでするんだと思ってたのに。
好きなヒトといるのに、なんだか、置いていかれた子どもみたいな気分になる。
でも、明日の約束があるから、いいもんね。










「そんで、夜明けまで海でさわいでたりしたなー」
今日、学校の帰りに街の図書館で時間をつぶして(一応、勉強してたよ)、先生が帰ってくる頃にケータイに連絡をくれたから、その時間に合わせて、部屋に来た。
それで、今は、本当に美味しいくなってる昨日のカレーをたべながら、去年の夏休みのことを先生に話していた。
去年、クラスの仲のいい5人で海に行った。昼間、泳いで夜は花火して、それから電車に乗って帰るはずだったのに、気がつけば夏の開放感からか、近くのコンビニで夜食を調達して、浜辺でみんなでしゃべりつくしてごろ寝した。学校のこととか、勉強のことこか、昔懐かしい話しとか、とめどなく言葉があふれた夜だった。ちょうど、夏期講習が終わったあとだったし、みんな弾けてたんだろうなー。
「凛一の家は、外泊OKなのか?」
「わりとふつーに、ゆるいかなぁ」
うちは兄ちゃんも姉ちゃんも(2人がまだ結婚前で家に住んでたとき)、夜遊び好きで、ほんっと家に帰ってこなかったから、今更ボクが一晩や二晩帰ってこなくても、ちゃんと事前に告げておけばなんとも言われない。
あ、も、もしかして、
今、先生が、外泊のこと確認してきたのは、お泊りの誘い?
考えただけで、どきんとした。
視線が自然とベッドルームのドアに流れた。まだ、あの日以来、入っていない。
「凛一、」
「うん、いいよっ!」
あせって、どきっとして、勢いで返事した。
「漬物くうか?」
先生は、小鉢を差し出していた。
―――――――――――― 。
ぱりぱりぽりぽり。
「うまいか?」
「・・・うん」
世の中にぴーまんの漬け物があるなんて知りませんでした。










「やったあともちゃんと会ったりしてんだったら、一回でポイ捨てってわけでもなさそうだし。あれじゃねえの仕事のストレスとかで、勃たなくなってるとか」
と剛にいちゃんが言った。
剛にいちゃんが住んでいる1Kのロフト付きのアパートはいっそ晴れ晴れしいぐらい散らかっている。床の上の雑誌だとかCDだとかをかき分けて、すわるスペースを自発的に作ったボクに、剛にいちゃんが淹れたてのコーヒーを渡してくれた。
剛にいちゃんはボクの母方のイトコで、ボクより5つ年上で、オトコのヒトとつきあってるから、ためらうことなく色んなことが話せる。同性とつきあってるなんて、いくら仲がよくたって、そうそう誰にでも言えるもんじゃないし。
ただ、やっぱり、学校の先生とつきあってるとは、話せなくて(剛にいちゃんは気にしなさそうだけど)、年上の人とつきあい始めたってことだけ告げていた。
「あ、そうかも」
先生は、まだ、学校にきてから一ヶ月ちょいだし。
そうか、ストレスかー。
「お初は、何回ぐらいやったんだ?」
えっ。
剛にいちゃんは、アパレルメーカーで働いていて、今は、百貨店に出店しているショップで販売の仕事をしている。
すらっと背が高くて、スレンダーで、マネキンみたいな整った顔をしているのに、けっこう口が悪くて、はっきりとモノを言いすぎる性格だ。接客のときには、もちろん隠してるみたいだけど。
「―――― に、にかいぐらいだったような」
カアっと顔が熱くなって、
うつむいて、しどろもどろに答える。
思い出してもギャーって頭かかえて床にうずくまってしまいたいぐらい恥ずかしい。
お互い、は、ハダカだったし、
いつ自分がパンツまで脱いだんだか覚えてないし。先生だって、まるで魔法みたいにさっと全裸になってた・・・・・・マジシャン?
それに、
へ、へんな場所とか見られたような気がするし。ってか、絶対に、見られてる。
だって、
いろんなところを、舐められたり噛まれたり、指でぐりぐりされたし。
それに、ボク、涙だけじゃなくて、
ハナミズもたれてた気もする。
全部、恥ずかしすぎる!!
・・・・・・・・やっぱ、するのとか、まだまだ先でいいかも。
なんか、後ろ向きになってきた。
あれから、週末はたいてい先生と会ってるし、平日もたまに、先生の勤務時間が終わるころに、先生んちに行ったりしてるけど、
やさしいキスとか、軽く抱きしめられるとかばかりで、全然、そういう、・・・・・・スル気配がない。夜は9時前には必ず、家に帰されるし。
あの日、ボクたち、ちゃんとしたのに、なんでだろう? って思った。
まさか、そんなことをあからさまに聞けもしなくて、ずっとヤキモキしてて、
先生は、もう、ボクに興味ないのかな、とか不安になってくるし。
だから、今日、思いきって、
剛にいちゃんが一人暮らしをしているアパートに相談をしに来ていた。
「じゃあ、全然、勃たないってわけでもないんだな。ちゃんと、挿れてこすってお前の中に迸したんだろ?」
あんまり、事務的にきびきび言われて、泣きそうになった。
剛にいちゃん・・・、お願いもっと遠回りな表現をして。
「・・・っぅ、うん」
た、たしかに、そのようなことがおこなわれていたような気もする。
なんか、わーっと舞い上がりっぱなしで、あまり、おぼえていない。
「そ。なら、全くの不能ってんでもなさそうだし。最近、ダメっぽいんなら、凛一が勃たせてやれよ」
「どやって、」
「あるじゃん、いろいろ。口とか手とか道具とか」
は、はぃぃぃぃぃぃぃー?
す、すいません、やっぱり、この相談はなかったことに・・・・・・。
あまりにも剛にいちゃんの台詞がボクには過激すぎて心臓にわるい。
でも、ボクの驚愕なんか、おかまいなしで、
部屋のつくりつけのクローゼットの中から、ゴソゴソと何かを取り出して、
ミニテーブルの上に並べだした。
塗り薬みたいなのが入ってそうな、小さな容器だった。
「えーと、これがクール系な。塗るとスーっとするから、持ちがよくなる」
は? 餅?
「早撃ちじゃなくなるってこと」
あ、あああああ。
「で、これがなー。すーっとするのを塗られてこすられると、こっちもいいしナ」
ってウィンク。キュートです、剛にいちゃん。でも、ボクには大人な会話すぎます。
あと、なんか、ホットになるのだとか、香りつきだとかを出してくるから、
うわうわ、びっくりしてると、
「勃たせかた、実地で教えてやろうか?」
なんでもないことのように剛にいちゃんが言ったから、うっかり「お願いします」って言ってしまいそうになって、あわてて、言葉をのんだ。
いくら、剛にいちゃんとはいえ、そこまではできないよお。
そう言ったら、
「遠慮すんなよ」
って言われたけど、―――― そうじゃなくてさー・・・・・・。
で、かわりに、油性のマジックをあ、アレに見立てて教えてくれた。
それも、けっこう、アレなんだったけど・・・。
「でな、ここにある裏筋を――――」
剛にいちゃん、すごく真剣で真面目だけど・・・・・・・、なんでそんなに詳しいの?
図解までして説明してくれた剛にいちゃんのまとめは、
「ま、とりあえず、自分でやってイイところがみんなだいたいイイ場所だから」
というものだった。
はい、でも、袋の後ろの辺りとかは、自分でも未踏の地でした。
「自分で予習できるから、余裕だろ?」
そう言って、いろんなアイテムをお土産に持たせてくれた。
けど、
こんなん、自分ちにおいとけないよー。










「寒くねぇの?」
先生に言われた。
もう5月だけど、今日はうす曇りで、たしかに、なんか肌寒い日だった。
窓を閉めてるけど、先生の部屋も外と同じで、気温は下がっている。
でもっっ!
今日は、
色っぽくして、ソノ気にさせる計画を立ててきたから、
寒いのとかカンケーない。
「制服の上着って、なんかゴワつくし」
リビングで、そんな理由で、ブレザーぬいで、ネクタイはずして、シャツもぬいで、上半身はTシャツ一枚になった。
ぽいぽい、脱いで、いつも家でしてるみたいに床に正座して、制服をきちんと折りたたんでる時に、
あっ、
思い出した!
ダメじゃん、ボク!!
色っぽく脱いで、先生の目を釘付けにするんだったのに。
そろりと、先生の気配をうかがうと、
リビングにくっついている、対面型キッチンで、
普通に、こぶ茶いれてるし・・・――――。
そ、それでも、剛にいちゃんから借りてきた、身体にフィットしたこのTシャツはどうだ!
着丈は、ウエストぎりぎりでかがんだりとか、ちょっと動いたりするだけで、腰まわりの肌がチラ見えするし、ソデも短くて、襟ぐりがふかくて、ゆるっとしてるから、胸とか背中とかの露出度高い。でも、色は、ぜんぜん、下心なんかありませんよーな、清潔なスカイブルーだし(あんまり、エロ押しすぎるとかえって引かれるからな、との剛にいちゃんのアドバイス)。
これで、先生も、ムラっとくるよね。
しかし、
「っくしゅん」
「ほら、寒いんじゃねーか」
「・・・花粉症だよ」
言ったけど、ちょっと肌寒くて鳥肌になってる。
「やせ我慢すんなよ。なんか、服貸すから」
ええ、そんな! 作戦決行から10分も経ってないのにぃ。
「ダイジョウ――――」
ブって言おうとしたところで、またクシャミ。
つい、くせで、手の甲で鼻の下ぬぐったりして・・・・・。
そしたら、
先生に、
「ぴんぽ~ん、ってな」
ぷに、っと押された。
うわっ。
「冷えて、乳首もたってるぞ。俺のトレーナー持ってくるから」
先生が、ベッドルームに入っていった。
セクシーゴコロを誘うつもりだったのに、
アソビゴコロを誘発して、どーすんだよ、ボク・・・・・。










思いつくかぎりの“その気になせる”ことをやって、
でも、ダメで ―――― 、
ある日、もう、ここまでくれば直球だあ、と、
「Hしよ」
って言うことにした!
でも、いざとなると、その言葉が口の中を言ったり来たり。
言おうとしては飲み込んで、の繰り返しで。
手のひらをぐーぱーして、硬くなった身体をほぐしたりとかしてて、
もう、絶対、言ってやるって、意を決して、立ち上がったとたん、
緊張と空腹のせいでか、
ぐぅーーーーっっ、と
お腹がなって、
先生、大爆笑。
即席でちゃんぽんなんか作ってくれたりして。
おいしーおいしー言いながら、学校のこととかしゃべってて、
はっと気づけば、帰る時間になっていた。
・・・・・・・・・・・・・・。
その夜、家に帰ってから、
2回目実施推進委員会作戦本部長にケータイで報告した。
「言えないよぉ~」
『あんだよ、お前、ガキじゃねえんだから、それぐらい、すらっと言っちまえよ』
「無理ーーー。」
半べそで、剛にいちゃんに訴える。
『凛一はまだ、子どもだなー』
・・・いいです、もう、ずっと子どものままで―――― 。
『お肌チラ見せも効果なしだったんだろ?』
あうあう。
『ソファで座って抱きついても反応なしって言ってたよな』
うんうん。さりげなく手を股間に持っていって、伝授したマッサージを行え、との指令は、先生のなにげなくも確実なディフェンスに、あえなく退却。
『キスんときに、脚でぐりぐりってやったか?』
え、そんなワザがあったの?
メモっとこ!
『「今日、帰りたくないなー」って言ってもスルーされたっつてたよな』
そうそう、あれはかなり、ダメージ120だった。
『お前、魅力ねえんじゃねえの?』
「剛にいちゃんっっ!!」
『ワリィワリィ。―――― あとはあれだな、もう、ハダカでベッドに寝てたら?』
「は、はだか、って」
『それで無理だったら、ほんまもんのEDだろ』
医者にませるっきゃねーなー、と剛にいちゃんが言った。
『ってかさ、凛一。オレが今更、こういうのもヘンかも知れねーけどさ。別に、すぐにセックスにしなくてもいーんじゃねーの? 会ったら絶対にやんなきゃいけねーもんでもないし。
今までいろいろやってダメだったってのも、もしかしたら、お前がつきあってるヤツだってなんか考えてんのかもしんねえだろ。
一度さ、ちゃんと話してみたら?』
「スルから好きで、しないならそうでもない、とかじゃないの?」
そう思ったからボクは不安だったんだ。
ボクのこと好きじゃないから、しないのかも、って。
もし、そうだ、って言われたら・・・・・・? その先を考えるのが怖くて、強く目を閉じた。
『うーーん。そういう奴もいるし、そうじゃない奴もいるってしか言えないけど。
少なくとも、オレはするしないで100パーセント好きか嫌いの白黒はつけねーぜ?』
剛にいちゃんがケータイを持ったまんま、お得意のウィンクをしたのが見えたような気がした。










ふわふわあったかかった。
肩にふれている先生の体温とか、座ってるソファのやあらかいクッションだとか、5月の夕方すぎのすんだ空気と気持ちのいい風とか、さっき食べたワイルドな味のチキンライスがほどよく胃で消化されはじめてたりしてて、なんか、うとうと。
正面のテレビはついていたけれど、いつのまにか音は低くなっていた。
(あ、リモコンで)
半分、閉じかけのまぶたが、手前にあるガラスのローテーブル上の、リモコンが目に入った。
(先生、?)
かな、と思いながらも、
横になりたい誘惑には勝てなくて、
うーん、
って言いながら、クッションと同じくらいやわらかなソファの腕の部分を枕にして横になった。
脚を床に下ろして座っていた状態から、横になったから、ひらがなの「へ」の字みたいなかっこうで、無理にねじまげている、腰とかが窮屈な感じだったけど、眠気には耐えられなくて、そのまんま、とろとろ、と目をとじた。




「ほら、凛一。起きろよ」
うん?
帰る時間? やだよ、そんなの。もっと、ここに居る。
「こら、襲うぞ」
夢見心地に、先生の声がした。
「襲ってよー」
ふふんっと笑いながら言ってみた。
「まったく」
っていうため息みたいな声がして、
それから、
指がボクのをさわって、
ぺとっと、くちびるがかさなってきた。
ああ、なんか、いい夢みてるなあ、ボク、と思って、
自分から舌を差し出して、先生のくちびるをなめてみた。
カサついていたから、舌で全体をなめ濡らして、自分のくちびるで、先生のくちびるを挟み込んでみた ―――― いつも、先生がボクにするみたいに。
それから、ソロっと先生の口の中に、舌を差し入れて、先生がいつもボクにするキスを真似て、外側の上の歯から順に舌でたどっていく。
ああ、なんで、他人の口の中をなめることが、こんなにもの気持ちがいいんだろう。
先生、だからかなあ?
上の歯から下の歯に移って、それから内側。
ここでもやっぱり、上から。
もう、唾液が口からこぼれはじめた。熱が、身体の内側からせりあがってくる。
下の歯をたどり終えたら、
ずっとゆるゆるとふれあっていた先生の舌がボクのに襲い掛かってきた。
あっというまもなく、吸いつかれて、ボクの口の中に押し戻される。
微熱が高熱に変化して、下腹に熱い渦ができはじめる。
「んんっ・・」
鼻に抜ける声。それから、この感触は・・・。
そこで、ぱちり、と目が開いた。
目の前に先生の驚いたような顔。
ボクにおおいかぶさっていた身体をぱっとどかして、決まり悪そうに、髪をかきあげた。
「目が覚めたか?」
平静な声。
じゃあ、さっきの荒々しいキスは、―――― 夢?
違う・・・・・・。
先生のくちびるが、唾液で光っている。
それに、ゆるっとした綿パンをはいているからわかりにくいけど ―――― 。
「送るか ―――― 」
「もう、ボクとはしたくない?」
帰らせようとする先生の言葉を途中でさえぎった。
だって、
先生の確かに熱くなっていたものが、ボクの脚のところに当たっていた。
なのに、その熱をボクとわけあおうとするそぶりもない。
「本当は、ボクがこの部屋に来るのとか迷惑だった? 無理してつきあってくれてた? いい加減わかれよ、とか思ってた?」
ずっと、おし殺していた不安が次々に口からあふれでた。
セックスをするから好きだとか、セックスをしないから好きじゃないとは限らないと、剛にいちゃんは言ってたけれど、それを知るには、あまりにも、ボクの経験値は低すぎるよ。
比べるものがないから、どうしたって、自分を基準にするしかない。
だったら、やっぱり、好き、だから、したいよ。
そして、興味もない相手にふれたいとも思わない。
先生が好きだから、肌をふれあわせたい。もっと、ずっとずっと親密になりたい、何度でも。
でも、先生は、そうじゃないの?
「先生、全然、ボクと、し、しようとしないし。―――― もう、ボクなんか興味ない?」
先生の顔を見ては、言えなくて、目は、先生の足元を見ていた。
もう、全部、溜まっていたものを吐き出してしまおうと思って、こころの奥に残ってる言葉をさがした。
「一度したからって、せ、責任とか感じてくれなくてもいいヨ。はっきり、言ってくれたら、もう、先生にまとわりついたり、しないから、」
それから、それから、―――――――― 。
「でも、先生のことはずっと好きでいる」
これだけは、先生の顔を見て言った。
先生は、かすかに眉根をよせて驚いたような顔をしていた。




「ほら、立って」
なんにも、先生からの返事がないまんま、
ぐいっと手を引かれた。
・・・帰らせようとしてるんだ。
引っ張られるままに立ち上がった。
ああ、これが先生の答えなんだな、と思って、
胸が焼けそうに苦しかったけど、
不思議と、涙はでなかった。
手を引かれるまま先生のあとを、うつむきながら歩いた。
意外とけっこう落ち着いていて、
なんだ、案外、ボクも大人だなあ、とか思った。
脚は震えていたけれど。
玄関に連れて行かれてるんだ、と思って、
(最後はやっぱり、「ありがとう」かな、「さようなら」のほうがいいかなあ。)
(あ、ここに持ってきてた、ボクのマグカップは持って帰ったほうがいいよね。)
とか、考えてたら、
キィっと扉を開ける音がした。
顔を上げると、先生がベッドルームのドアを開けていた。
「あーあ、俺、けっこうこれでもガマンしてたのに、」
腰をぐいっと抱かれて、もちあげられた。
爪先立ちになった。
「どーしてくれんだ、コレ。あんまり、凛一がカワイーこと言うから、こうなったんだぞ。『責任』取ってくれるよな?」
ボクの身体に押しつけてきた、先生の脚の間は、確かに熱く硬くなっていた。






「ゆっくりいこうと思っていたんだよ」
目の上らへんに軽いキスが降ってきた。
「最初が、あんまり急がせすぎたから」
「ホ、ホント? ボクのことイヤじゃなかった?」
「嫌じゃないよ」
「ボク、うるさいし、ご飯つくらせてるし、修平の時間を邪魔してるし・・・」
「俺は、一緒にいるのが楽しいけど」
「・・・ホント?」
「ああ、じゃなきゃ、部屋に誘わない。凛一は違うのか?」
「ぼ、ボクもそう。修平と一緒にいるのが楽しい。いつも一緒にいたい」
腰にまわっている手の力が強くなった。
身体におしあてられてる、先生のが、生きてるみたいだった。
ボクのもジワリと反応してきてる。
「・・・全然、し、しようとしないから、もう、ボクになんか興味ないのかなって思ってた」
「相当、ガマンしてたの、わからなかったか?」
「え、わかんなかったよ。修平、いつも普通だったし」
「そうか、―――― 俺のポーカーフェイスもみがかれてきたんだな。あんまり焦ってるところを見せると、凛一に嫌われそうでさ、」
ふぅ、とため息みたいなのをつくと、
「けど、いつも、頭の中じゃあ、凛一のことを抱いていた。凛一が泣いてやめてって言ってもやめてやれないから、しまいには、俺のことを嫌いって言うんだ」
って熱っぽく言った。
あ、あんなに、普通な態度、っていうかむしろ素っ気なくボクに接してた先生が、そんなこと考えていたなんて ―――― 。
先生も、不安だった?
「キライ、とか言わないし。そ、それに、やめて、とかも」
・・・多分、言わないと思う。
「嫌じゃなかったか、この前? 凛一、たくさん泣いていただろ」
たしかに、
痛かったり、怖かったり、恥ずかしかったりもあったけど、
でも、
いちばん大きな気持ちは、
「ボク、嬉しかったよ」
先生を自分の身体の中で感じれて。
「修平としたこと、すごく、嬉しかった」
まぶしそうに、目を細めて、先生がボクを見た。
「いつも、その、凛一のまっすぐな言葉にやられる」
「やられる?」
「夢中にさせられる、ってこと」
先生、ボクに、夢中・・・?
言葉の意味が頭に入るのに時間がかかった。
そして、
意味がわかったとたん、カアっと身体中の体温が上がった。
なんか、すごい、ズルイ、先生。あんなに不安にさせてたくせに、そんなことを平気で言う。
あんまり、ドキドキしすぎて、心臓がこわれそうだよ。
ふ、と首筋に先生の息が落ちた。
耳を、噛まれた。
「―――― すごく、したい。凛一と」
先生のその声に、身体の芯が灼かれるのを感じた。




ベッドのすぐ横で、先生と向き合って、立ったまんま、
着ていた服を一枚一枚丁寧に脱がされていった。
す、するんだよね・・・。
あんなに、切望していたことなのに、いざとなると逃げたしたくなる。
ボクの身体にふれる先生の指だとか、顔にかかる息だとかに、
なんか、いたたまれなくて、
「ボ、ボクも先生を脱がしたらいい?」
って聞いた。
ボクは着ているのが、もうタンクトップと下着だけになっていたけど、先生はまだ、そのままだったから。
「そうだな」
そう言われたから、
先生が着ているブルーの厚手のダンガリーシャツのボタンに手をかけて、ひとつひとつ外していった。襟を開いて、先生の肩からシャツをおとしすと、先生の体温と汗のにおいをいっそう濃く感じられて、初めてのときの記憶に直結した ―――― 今から、この身体に抱かれるんだ。そう思ったら、わずかに指がふるえた。
先生の白いレーサーバックの肌着は、ぴったりと身体にフィットしていて、肌着の上からでも先生の筋肉質な身体がよくわかった。
めくりあげたほうがいいのかなあ、と、どきどきしながら肌着のすそに手をかけると、その手の上に先生の手が重なってきて、
「下を脱がして」
って、濃いベージュの綿パンのウエストあたりに移動させられた。
み、耳をなめてるし・・・。
綿パンのボタンを外して、内側で蝶々結びに結ばれていた紐を、引いて、ほどいた。
どんどん、先生の素肌に近づいていってて、身体がヘンにじりじりしてくる。
ジッパーに手を掛けて、少し、ためらってると、
「下ろして、凛一」
今度は、舌がぞろり、と耳の中にはいってきた。
先生の手が、ボクの背中をなでてゆく。
ぞくぞくする。
あんまり、ヘンにしないで、って言いたくなった。
静かな部屋にジッパーを下ろす金属質な音が響いた。
先生の手がボクの手をつかんで、
今度は下着の上から先生自身にふれさせた。
さっきから、ずっと布ごしにさわっていたものの、熱と硬さがよりいっそう感じられた。
「ほら、」
また、手が、
「凛一としたくてたまらないって言ってる」
今度は下着の中の先生にじかにふれるように連れていかれた。
すごく硬くなってるものは、温かくてしっとり湿っていて、どくんどくんと脈打っていた。
初めてした時は、先生のを見る余裕もさわる余裕もなかったから、どきどきしながら、先生のをにぎりしめた。
「くすぐったいな」
先生の吐息の声が、耳をくすぐった。
「―――― いや?」
先生が自分で、肌着を脱ぎ捨てて、下着と腰に引っかかったままだった綿パンを途中までズリおろして、先生自身をボクの前であらわにした。
「いやがってるように見えるか?」
「・・・わからないよ」
先生のは赤くて大きくて、ボクのとは形が違っていた。
さきっぽが太く膨らんでいた。長い部分は刀のように外側にそっていて、血管がきれいに浮いて見える。
剛にいちゃんが言っていた、「口でする」っていうのが頭に浮かんできた。あの時は、絶対、無理って思ったけど、実際、先生のを見てみると、出来るかも、と思った。
でも、そんなこと言えなくて―――― ・・・。
「もっと、さわって、凛一」
「う、うん」
今度は、両手でつつみこむようにしてさわった。
背中をなでていた先生の手が、ボクの腰あたりをさまよいだして、
ゆっくりと、下におりてきた。
下着の中に入ってきた指が、狭間をなでた。
「ずっと、欲しかった」
先生が言った。
恥ずかしくて、答えられなくて、先生のたくましい身体に頬をすりよせた。
今度は前にまわってきた手、が、さっきから反応して硬くなっていたボク自身をつかんだ。
「凛一も、もう濡れてる」
ボクの両手の中の先生のが、ひときわ大きく脈打ったような気がした。






うわっ、わっ、わ、舌がっ!
ぬるって、
な、舐めてんだよね。ソコを。
「こら、暴れるな」
「だって、だって」
あ、また、ムニって左右に開かれた。
み、見えてるのかな、見えてるんだよな、ってか見ないと舐められないし。
「そんなんじゃないんが、いいよぉ」
涙声でいった。
「だめだ」
あっさり、却下。
ひどい、2人のアイの行為なのに、すんごい一方的。
わわっ、また。
べろってされた。
あ、ん・・・、
いま、
背筋にびびびって、きた。
ん、って鼻から抜けるような声が出て、
舐められるたびに、ずっと、その声が息が出続けてとまらなくなった。
ぬるりと中に入ってきた舌にひっかかれるように、中から入り口にかけて、はじかれると、もうだめだった。
「やっ・・・・・、ん」
イイのに、苦しくて、やめて欲しいのに、でも、きっと、本当にやめられてしまったら、泣いて、イヤダと言いそうだった。
手をついてられなくて、上半身がシーツの上にくずれおちた。
すごい勢いで身体中の血液がながれているのが判る。
身体をころん、と仰向けに転がされて、脚をぱかっと左右に開かされた。
心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「―――― 元気だな」
言った、先生の視線の先に目を向けられない。
この前は、なにがなんだかわからなくて、次はなにをどうされるのかも予想なんかできるはずもなくて、ただ、導かれるままに、なってたけど、
今は、
なんとなく、手順がわかってる分、先生に何をされるのかが、わかって ―――― 身体が、期待してしまう。
ぬるぬるするのを塗られた。
先生の、あの指が、今、ボクの中に入ってきてるんだ・・・。
「苦しくないか?」
「・・・うん」
まだ、大丈夫。
後ろをさぐってる指が、きっと、また、ビクリと身体がはねる場所をぐりぐりする。
それで、また、かすれた声をあげてしまう。そんなみっともないボクなんか、イヤにならないかなって考える余裕があったのはそこまでだった。
本当にそうされて、
身体がしびれて、とけてなくなってしまいそうなのに、
先生が、口に含んできて、舌でさんざん舐めるから、あっというまに、硬く張り詰めていたものが、一気に頂上まで追い立てられた。
「も、でる」って言ったのに、口をはなしてくれなくて、そのまんま、先生の口の中に迸した・・・・・・。
も、ヤダ ―――― 。
心臓はばくばくいってて、腰はへなへなで、身体がすごい、熱い。
「ほら、わかるか? 凛一の中、ぴくぴくしてる」
指で、くいってされた。
わかる、なんか、炭酸がはじけてるみたいに、ぴち、ぴちぴちって中が動いている。
「入りたい」
すごく、獰猛で色っぽい顔で言われた。
全部、奪われるんだ、と思って、
熱くのぼせているのに全身がぞぞぞっと鳥肌たつみたいな感覚がして、
それから、
きて、と小さくつぶやいた。


けど、
やっぱ、苦しくて、
うーって、くちびるをかみしめた。
「最初だけだから、ガマンしてな、凛一」
ああ、あの、さきっぽのふくらんだところ――――?
え、えと、息を吸うんだったけ。
「そう、上手だ」
あ、でも、先生が苦しそうな顔、してる。
「また、お前を泣かせてるな」
目じりを指でたどられて、
それから、
耳の上らへんの髪の毛をなでられた。
へんに、ぞくんって気持ちよくて、地肌をさらう、先生の指先が。
腰あたりのこわばっていたところのへんな力が抜けてった。
頭をなでられることが、気持ちいいんじゃなくて、
先生の指先だから、きっと、どこをなでられても気持ちがいいんだと、思った。
先生は、きっと、ボクがどれくらい先生を好きかしらないんだ。
先生が想像しているのよりも、100倍も1000倍も好きだよ。
だから、いいんだ、全部、先生に、あげたい。
「いいよ。・・・修平になら泣かされても」
んんっ!
また、
挿ってきた。
反射的に身体がシーツをずり上がったけれど、先生のたくましい腕で引き戻された。
「逃げんなよ」
「ってない、けど」
「凛一にいやがられると、俺、萎えるよ」
「―――― ウソ、ばっか・・・り」
だって、ずっと、おおきいまんまで、どんどん、ボクの深くへすすんでくる。
「も、挿った?」
ぬるりと重い質量のあるものが、ボクの身体を割り広げて挿ってくる。
熱い。
入り口付近をくぐってこられるときの、つらさはもうないけれど、
やっぱりまだ苦しくて、生理的な涙がまぶたにもりあがってくる。
それでも、自分とは違う体温の先生をまだずっと感じたい。
「7割ぐらい。―――― もっといいか?」
「うん」
自分でも少し、腰をうかしてみた。
楽になれる角度をさがして。




「ああ、とうちゃーく」
はあって、大きく息をついたあとに、
ちっさくわらいながら言われて、なんだかおかしくて、身体が苦しいののトナリでこころが笑った。
先生の肉体の一部が、ボクの肉体の中に挿ってきている ―――――――― 。
どうして、こんなに、つながっていることを幸福に感じるんだろう。
見上げた先生の汗ばんだ顔がすごく色っぽくて、なんか身体をゆすりつけたくなった。もっと肌も全部、ふれあわせたい。
開いていた脚で、先生の腰を強くはさんだ。
それから、
キスして欲しくて、
ボクの顔の横で肘をついている先生の腕をさわった。
「どうした?」
「 ―――― 」
「凛一?」
「・・・きす、して」
返事はなくて、そのままくちびるがおりてきた。
言うのが恥ずかしいと思ったけど、
そっか、して欲しいことは、ちゃんと言っていいんだ。
最初はやわらかく絡んでいた先生の舌が、どんどん激しくなってきて、舌がしびれるくらい吸いあげられた。そうして、腰もゆらゆら動き始めた。
先生のに、すられると、泣き声がでた。
苦しいのと、そうじゃないのとで。
穿たれるたびに、
泣いて、ふるえて、ずっと、先生にすがりついていた。
先生が、ボクの中に弾けて迸すまで、ずっと。




先生のどこが好きって聞かれてもきっと答えられない。顔が好き、スタイルが好き、笑顔が好き、声が好き、冗談をいっぱい言う面白いところが好き、ボクの身体をたどる温かいくちびるや、たくましくてやさしい手が好き。
そういうところじゃ全然ないところを、いちばん最初に好きになった。
もしも、論文に書け、とテストに出されも、答えを書けない。
言葉じゃ、気持ちに追いつけない。






「身体、つらくないか?」
あんなに激しかった心臓が、だいぶおちついてきた。
あの強烈な快感の先へ、
確かに、連れて行かれてたはずなのに、そこにゆるゆる漂っていて、身体もこころも全部、先生ととけあってたのに、気がつけば、ベッドの上で先生の隣に横になっていた。
先生がベッドの中で、腕枕してくれてて、心配そうにボクの顔をのぞきこんできてる。
じわじわゆっくりされて、最後のほうだけ激しく出し入れされたトコは、今も、なんか、先生のがアルような感じ。
それから、
「・・・・・・痛いとかイヤダとかじゃないけど、」
「うん?」
「なんか、ヘンな感じ。―――― なんか、さっきから、ジーンってしてる」
「どこが?」
ゆるくしびれてて、あったかい感じで、じんじんしてる。
「身体、全部」
ちう、って、された。
「よかったよ」
先生のホっとした顔。
「よかった?」
「『もうイヤダ』って言われなくさ」
「言わないよ、そんなこと」
言うわけないじゃん、先生に。
―――― 気持ちって、全部、伝わんないもんなんだな・・・。
「だって、修平としたいって、ずっと思ってんだから」
あんなに、全身で誘惑してたのに、気づいてくれないし。
「もしかして、俺のこと、誘ってた?」
今までのことを思い出して、恥ずかしくなった。
だから、
「べっつに」
プイってした。
「なんだ、もったいないことしてたなー」
「だからっ、誘ってないって!」
先生、ガマンしてた、って言ってた。ボクに嫌われそうだからって。それに、む、夢中とかも言ってたし。
それって、ボクをスゴク想ってるってこと?
そんなふうに思っていいのかな?
嬉しそうに目じりの下がった顔を見上げていると、
こうして先生がボクのトナリにいることが奇跡のように思えてくる。
「最初に会ったときも、こんな目をして俺を見てた」
目の下を、ゆびでなぞられた。
「こんな目、って?」
「俺の中に隠されている何かを見つけた、って目」
ぶ、文学的すぎるんだけど。
困惑したのが伝わったみたいで、
「んーとなぁ。『もう、先生、スキスキー』って感じだった」
くしゃって笑って、先生が言った。
「はぁああ? ―――― 自惚れすぎだよ・・・」
ボク、そんなにあからさまだったんだ・・・。
「違わないだろ?」
違わなくもないけど、うん、って答えるのはなんか悔しかった。
「―――― この目にやられたよ」
まぶたに口づけられた。くすぐったい。
「いつか、教えてくれな。 ―――― 俺の中に何を見つけたのかを」
そんな、ボクにはわけのわからないことを言う。
けど、
先生こそが、ボクをそんな目で見るから、全部をほどいてひらいて見せたくなるんだよ。
「あの日、最初に、凛一をこの部屋に連れてきた日、」
今度は、人差し指で、すうっと胸の真ん中をなでられた。
やさしい、というよりも、なんか、色のまじったさわりかただったから、
びくびくっと身体がした。
「イケナイことだとはわかっていたけど、―――― どうしても、凛一が欲しかった」
初めてシタ日、のこと?
「ど、して?」
鼓動がまた、大きくなりだした。
「 ―――― 俺も、どうしてだか、知りたくて。凛一にうんと近づけばわかるかな、と思った」
「・・・わかった?」
「まだ、もうちょっと」
期待、したのに。いたずらっ子みたいな顔をしてはぐらかす。
ヒドイ大人だ。
ぷうっと頬がふくらんだ。
「なあ、もう一回したら、また、明日、ひりひりするかな?」
続きは言ってくれないうえに、・・・・・恥ずかしいことも言うし。
「知らない!」
くるりと、背中を向けた。
そしたら、
「―――― ここ、してってことか?」
背骨の線を舐められた。
また、ぞくん、ってする。
背骨の下のほうの、ウエストあたりをそうされると、どうしようもなくなる。
少しだけ、そうされることを期待したけど、
先生のくちびるは、うなじの方へあがってきた。
わきの下から、先生の手がまわってきて、胸をなでまわされる。力強い筋肉質な腕にどきどきする。
「今日、俺、凛一に好き、って言ったっけ?」
「・・・ってない」
火照った声を隠したくて、小さな声で答えた。
「顔見ながら言いたいから、こっち向いて」
だって、そんなこと・・・。
「凛一、」
でも、呼ばれたら、先生のほうをふりむかずにはいられない。
ぱっと、ふりむいて、先生の胸に顔をうずめた。
でも、
ぐいっとアゴをつかまれて、上にむけさせられた。
そんなん、まともに、先生の顔を見れるわけなくて、
ぎゅっと目をつむった。
そうして、
どきどきして、待ったけど、
顔中に、小さなキスをされるばかりで、
なんだよ、
ちっとも言ってくれないじゃん。
―――― からかった?
「また、泣いてる」
「修平がひどいからじゃん。―――― もう、しない」
涙目で、真面目な顔なフリをしてる先生をにらんだ。口元がちょこっとニヤってしてんのわかってるからね!
「俺は、したいなー」
「しないったら、しない!」
「・・・そうか。どうしたら、凛一の中に挿らせてくれる?」
ふうっ、って息を顔にふきかけられた。
直截な表現に顔が熱くなる。
「それぐらい、自分でわかれよ」
また、手が、動きだしてる。
「わからないからさ、教えて、凛一」
本当はわかってんだろ、って思って、でも、そんな先生の態度にむかっとはこなくて、どきどきが大きくなってくる。
「好きって100回、」
100回分ぐらいの気持ちをこめて言って、って言おうとしたのに、
「それ、腰の動きに換算してもいいか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ボク、こんな人が、本当に、好きなのかなあ・・・?






( おわり )
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