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第11章
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二十分くらい走っていると山道から出た。交差点の道路標識を見ると、ここは俺の地元から三十キロくらい離れた場所だった。
「ありがとう」
俺はジョニー・ウォーカーに言った。
「もうダメかと思った」
奴はくっくと笑った。
「発信機なんていつ付けたんだ?」
そう言ってから気づいた。
「靴……靴を褒めてたときか」
「ザッツライ」
ジョニー・ウォーカーは信号待ちで停車すると煙草に火をつけた。
「あんたこれからどうすんだ? カナディアンクラブとゴールデンキャデラックに目ぇ付けられちまって」
「これから……」考えるうちに思い出した。「バンドのメンバーが拉致されたんだ」
マジかよ、ジョニー・ウォーカーはため息をついた。
「諦めろ」
俺が言おうとすると青信号になり、ジョニー・ウォーカーは車を乱暴に発進させた。国道の幅員の広い道でぐんぐんスピードが伸びていく。車通りはほとんどなかった。ジョニー・ウォーカーが言った。
「で、拉致って、誰が言ってたんだ?」
「ディープスロート」
なんなんだあいつは、ジョニー・ウォーカーは舌打ちをする。
「誰が拉致したんだ?」
「それは聞けなかった」
ジョニー・ウォーカーは運転しながら灰皿に煙草を突っ込んだ。
それからはううんと唸ったきり、黙っていた。
メンバーはエンジェルたちに拉致されたのだろうか、だとしたら俺が逃げたことで殺される可能性はかなり高い。しかし奴らはメンバーのことはなにも言っていなかった。するとカナディアンクラブがシーバスリーガル兄弟や余市に手を出した報復でやったのだろうか……ディープスロートと名乗るそいつはそこまでは教えてくれなかった。それからアキのことも気がかりだ。どうにか助けられないものか……。
「なにを考えてる?」
ジョニー・ウォーカーは言った。
「お前、バンドのメンバーにアキにって、全員助けられないか、なんて考えてたろ。甘いぞ。お前、自分のしたことがわかってんのか? お前は見なくてもいいものを見て、しなくてもいいことをして、その結果がこれなんだよ。自業自得としか言い様のない結果だよ。確かに、アキを見失ったのは俺の責任だ。だけどな、それはお前には関係のないことだ。まだわかんねえのか? 世の中には、軽い気持ちで足を突っ込んじゃいけない場所があるんだって言ってるだろ。アキのいる場所とお前のいる場所はもう、違うんだよ」
「だけど」俺は言った。「もう引き下がれねえよ。バンドのメンバーにまで手を出されたら……もう関係ないじゃ済まないだろ」
「自業自得だつってんだろ。それに、アキの件とメンバーの拉致の件は違うからな。同時に全員助けるなんてのは無理な話だ」
「違うって……なにが」
ジョニー・ウォーカーはハンドルを切って右折した。そしてアクセルを踏み込む。スピードメーターを見ると法定速度を四十キロオーバーしていた。
「あのな、事情は知らねえけどアキは自分で向こうの世界に足を踏み入れたんだ。不本意だったのかもしれないが、俺に依頼をしてきたときも『自分が選んだことだから』って言ってたよ。だから忘れろって言ったんだ。バンドのメンバーに関してはお前が蒔いた種だけど、それももうしゃしゃり出るべきじゃない」
「アキには、なにを依頼されたんだ?」
ジョニー・ウォーカーはハンドルから手を離して、ピースの箱を手際よく開けた。そこから煙草を一本出して口にくわえる。箱をメーターの前に置いて再びハンドルを握った。俺はライターで火をつけてやった。
「それは言えない。守秘義務ってやつだよ」
俺はため息をついた。どうすることもできない。でもどうにかしなくてはならない。ジョニー・ウォーカーは手を出すなと言う。それは無理な話だ。俺にとって大事な人たちを見捨てるなんて……。
「ありがとう」
俺はジョニー・ウォーカーに言った。
「もうダメかと思った」
奴はくっくと笑った。
「発信機なんていつ付けたんだ?」
そう言ってから気づいた。
「靴……靴を褒めてたときか」
「ザッツライ」
ジョニー・ウォーカーは信号待ちで停車すると煙草に火をつけた。
「あんたこれからどうすんだ? カナディアンクラブとゴールデンキャデラックに目ぇ付けられちまって」
「これから……」考えるうちに思い出した。「バンドのメンバーが拉致されたんだ」
マジかよ、ジョニー・ウォーカーはため息をついた。
「諦めろ」
俺が言おうとすると青信号になり、ジョニー・ウォーカーは車を乱暴に発進させた。国道の幅員の広い道でぐんぐんスピードが伸びていく。車通りはほとんどなかった。ジョニー・ウォーカーが言った。
「で、拉致って、誰が言ってたんだ?」
「ディープスロート」
なんなんだあいつは、ジョニー・ウォーカーは舌打ちをする。
「誰が拉致したんだ?」
「それは聞けなかった」
ジョニー・ウォーカーは運転しながら灰皿に煙草を突っ込んだ。
それからはううんと唸ったきり、黙っていた。
メンバーはエンジェルたちに拉致されたのだろうか、だとしたら俺が逃げたことで殺される可能性はかなり高い。しかし奴らはメンバーのことはなにも言っていなかった。するとカナディアンクラブがシーバスリーガル兄弟や余市に手を出した報復でやったのだろうか……ディープスロートと名乗るそいつはそこまでは教えてくれなかった。それからアキのことも気がかりだ。どうにか助けられないものか……。
「なにを考えてる?」
ジョニー・ウォーカーは言った。
「お前、バンドのメンバーにアキにって、全員助けられないか、なんて考えてたろ。甘いぞ。お前、自分のしたことがわかってんのか? お前は見なくてもいいものを見て、しなくてもいいことをして、その結果がこれなんだよ。自業自得としか言い様のない結果だよ。確かに、アキを見失ったのは俺の責任だ。だけどな、それはお前には関係のないことだ。まだわかんねえのか? 世の中には、軽い気持ちで足を突っ込んじゃいけない場所があるんだって言ってるだろ。アキのいる場所とお前のいる場所はもう、違うんだよ」
「だけど」俺は言った。「もう引き下がれねえよ。バンドのメンバーにまで手を出されたら……もう関係ないじゃ済まないだろ」
「自業自得だつってんだろ。それに、アキの件とメンバーの拉致の件は違うからな。同時に全員助けるなんてのは無理な話だ」
「違うって……なにが」
ジョニー・ウォーカーはハンドルを切って右折した。そしてアクセルを踏み込む。スピードメーターを見ると法定速度を四十キロオーバーしていた。
「あのな、事情は知らねえけどアキは自分で向こうの世界に足を踏み入れたんだ。不本意だったのかもしれないが、俺に依頼をしてきたときも『自分が選んだことだから』って言ってたよ。だから忘れろって言ったんだ。バンドのメンバーに関してはお前が蒔いた種だけど、それももうしゃしゃり出るべきじゃない」
「アキには、なにを依頼されたんだ?」
ジョニー・ウォーカーはハンドルから手を離して、ピースの箱を手際よく開けた。そこから煙草を一本出して口にくわえる。箱をメーターの前に置いて再びハンドルを握った。俺はライターで火をつけてやった。
「それは言えない。守秘義務ってやつだよ」
俺はため息をついた。どうすることもできない。でもどうにかしなくてはならない。ジョニー・ウォーカーは手を出すなと言う。それは無理な話だ。俺にとって大事な人たちを見捨てるなんて……。
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